5ー周辺地理の確認とレベリングー
はい。こんにちは。
転生して三日目。僕自身も体が動くようになり始め、ようやく手近な場所を見て回ることができる。恥ずかしいのであまり主張して来なかったけど、これまではどう頑張ってもハイハイでしか移動できなかった。壁があれば手を突いて歩く程度はできる。だけど何も無い場所ではハイハイ……。さすがに前世込みで20年生きてきた男にはかなり恥ずかしい事実だ。
「主殿モ、漸く歩く事ガできるようになりましたナ」
「出かけんナラ俺が乗せてモイイんだゼエェッ!」
ペロ助の背に乗る事は考えなかったわけじゃないが、一度乗ったことがあるミギワとナギサに止められた。何でもかなり荒い走りをするらしく、普通の三半規管ではもたないらしい。てなわけでゆっくりとでも歩く訓練をして半日。この体の規格外さに驚かされている……。
体を動かすようになった途端に筋力がついた。ステータスに反映されているのか確認もしてみたが、それについては確認されていない。しかし、足腰がしっかりとしたことで割と普通の活動も可能になったのは大きい。今日からはボチボチ頑張って、周囲を動き回ろうと思う。目的はもちろんレベル上げ。
「わたくしドモも、警護に付きます故、ご安心メサレヨ」
「オオウ! 俺が居るからな! 怪我一つさせねえゼエッ!」
「主ヨ。建築班ト錬金術班ノ護衛ハ我らガ務めル。大船ニ乗っタつもりデ居てクレ」
レベル上げをするのにももちろん理由がある。
僕はもちろん、ファットテール班とレオパード班のスキル熟練度や、内包魔力量の限界値が微増すらしなくなったから。スキルやステータスに反映されない部分の成長はあるかもだけど、正直なところ旨味が薄い。レベル上げを順当にしているメンバーと、レベル上げをしていないメンバーとの実力差も開き過ぎているし。やはりこの世界ではレベルが非常に重要なステータス要素なのだろう。
なので僕らのレベル上げをスタートしたのだ。
範囲は近場に限る。レベル上げを必要とする仲間達には、必ず護衛のメンバーが随行。僕にはマサムネとペロ助が。ファットテール班とレオパード班にはアカメカブトトカゲ特殊部隊が半数ずつとミギワとナギサがつく。豪華過ぎる護衛だけど、僕ら未レベリング組はほとんどがLv.0だ。安全面は気にして気にし過ぎることは無い。
「そう言えバ、拠点ノ改築ハ一段落ト見て良いノデスカ?」
「いや。頭打ちになったんだよ。ファットテール、レオパードの二班の職スキルを伸ばす魔力が足りなくなったんだ。こうなってくると整備や製作も遅々として進まないし、僕も熟練度の伸び悩みがあったから、他のステータスを伸ばす事にしたのさ」
「ナルホド。扱う素材ヤ道具ノ幅ヲ拡げる為デスナ」
「そうそう。僕らが成長すれば良い武器防具が作れるだろうし。僕もあの謎の硬い岩塊を早く破砕したいから」
僕の戦闘スタイルは現状のところは“固定砲台”だ。残念ながら歩けるようにはなったけど、素早く動けるわけではないんですよ。もちろん、アカメカブトトカゲ特殊部隊みたいな立体機動はできない。できてたら苦労しない……。一見、手っ取り早いと思われるが、大魔法をブッパしまくるような馬鹿な戦闘をしたらば、周辺の生態系をボロボロにてしまう。最悪は今の最強戦力であるペロ助以上の魔物を呼び込む可能性もある。対処ができなければ全滅だ。そんなバッドエンドはない。絶対ダメだ。
こんな感じでいろいろなことを頭の中に置いて、地道にレベリングする事にしたのだ。
もちろんのこと計画もしている。無作為にレベリングをしてしまうと、周辺の魔物を狩り尽くしてしまうことになりかねない。だから、現状のメンバーのレベリングも時間をかけてゆっくり行う。あと、各班とでバラバラの位置に向かっている。狩場が重なると効率が悪くなるから。
「エアロスナイプ」
「お見事。獲物の回収ハわたくしニお任せアレ」
「オオォォ……。距離にしテェ、ざっと200mくれえカァ? よくモォこの短時間デ索敵デキンナ。あっぱれダゼエェ」
魔法が仕えること自体はいいのだけど、光の神からもらっている知識とだいぶ違う……。
僕は内包魔力量が桁違いと言っても生産職だ。確かに昨日までにかなりの魔法行使実績はあるけど、かってが違う。生産系のスキルに連動する基礎魔法と、茂みの中に居たフォレストディアーをヘッドショットした攻撃魔法とでは、必要魔力量から難度まで何から何まで大きく異なる。
この世界の一般水準は知らないからその辺は抜きにして、僕の職業でスキル補正が入るのは基礎魔法までのはず……。これは僕の知らない何かが働いてる気がするんだよな。異世界転生特典の知識とも大きく異なる。違和感が凄いぞ。
「ナアァ、ご主人よぉ。おめさんノつのォ。さっき魔法ヲ撃つ時ニ光っタンだが……。なんか関係あんノカイぃ?」
ツノぉ? ああ、そういえば……。
僕が転生したのは“人間”ではない。厳密にどんな種族なのかは知らないけど、“固有鬼人種”だ。この世界での鬼人は亜人に属し、大昔に交雑した人族と鬼族のハーフ同士が継代したことにより存続した種族と知識がある。ただし亜人に属してはいるが、人間社会からは迫害を受けやすい種族で、独自のコロニーで完結する傾向にあるらしい。ただ、もう一つ注釈があって、これは人寄りの鬼の事で、人型の鬼種が一定の能力値を越え、超越した種も“鬼人”と呼ばれるらしい。どちらにしても鬼関連だけど、人に近い鬼と超越している人型の鬼と……。実力の差は考えずとも分かると思う。
難にしても僕は人じゃない。人嫌いだから僕は鬼に転生したのか? そこは本当に分んないけど、魔法を使う時に光る角……。何か因果関係がありそうだ。
先ほど圧縮空気弾を放つ魔法の“エアロスナイプ”で狙撃したフォレストディアーを、マサムネがストレージの魔法に収納し回収して来てくれた。これで誤射の心配も無いので、心置きなく魔法での狙撃ができる。あんな威力の魔法を味方に誤射したとかシャレにならんし……。
「二人ともお願いがあるんだ。魔法を使っている時の僕を詳しく観察してくれないかな?」
「承りマシタ」
「オウ! 分かっタゼエェ!」
今度はもう少し狙撃する範囲を拡大する。先ほどのフォレストディアーも狙い易かったから狙っただけだ。もっと実入りのいい魔物を狙ってもいいだろう。少し視野を広げるだけで意外と魔物が見つかる。……。どう考えても不自然だろう。何だろうかこの感覚は……。体からかってに少しずつ魔力が抜けていく感じがある。つまり、これは無意識に魔法を使っていることになるわけだけど、僕はまだ魔法を使い始めて三日のド素人だぞ? こんなことがあり得るのだろうか?
まあ、それは僕の外観に変化が出ているかもしれないので、二人から教えてもらえる情報も交えて考察すればいい。
丁度良く大物を見つけた。あれはグレートボアと呼ばれる大猪の魔物。太陽が狩って来た個体よりもかなり大きい。そのグレートボアが視線を外さないその先に居るのは、そのグレートボアの体格を凌ぐ巨大な熊。あれはバーバリアングリズリー。しかもその亜種のレッドバーバリアングリズリーだ。どちらも気性の荒い魔物だけに近寄られると面倒。まあ、どちらもペロ助が居れば事足りるけど……。今回は僕の経験値になってもらうよ。
「ニ、二重展開術式…デスか」
「ンヤアァ……。それだけじゃネぇナア。肉体強化モ同時発動シテッぞ。我が主ながラ、恐ろしいゼ」
両手をピストル型にして二体の魔物へ照準を合わせる。おそらく、先程のエアロスナイプの威力では、どちらも大したダメージにはならない。そもそも外皮の硬さや魔物としての耐久能力が段違いだと予想ができる。そもそもエアロスナイプは圧縮空気弾での衝撃が主なダメージだ。フォレストディアー程度の外皮と頭蓋骨なら貫通は可能でも、あの二種の魔物には……。
消費魔力を追加。同時展開中の魔法へ新しい魔法を上書き。圧縮空気弾に形状という指向性を持たせ、弾速をさらに加速させるために魔力を上乗せ。これだけ上乗せできれば当たり所次第で即死。外しても致命傷に至る重傷を負わせることができるだろう。だけど、心配性な僕はさらに上乗せし、圧縮空気弾の破裂と共に強烈な爆雷と振幅爆破を上乗せ。
できるところまでやってみたけど、何重展開できてるかな?
空気振動魔法を二重発動、指向性を持たせたことで三重、弾速加速で四重。空気振動魔法だけでも四重か……。それに重ねて属性の異なる単発属性魔法を二属性添加してるから六重かあ。僕頑張るねえ。どこまでも常識外で、考えが追いつかない。これは慣れる他ないのかもしれないな。
「ダブルソニックキャノン」
「……主殿、やり過ぎデありますゾ」
「熊モ、猪モ、頭ガ弾け飛んダな」
ちょっと森にも被害が出ちゃったけど、この森でもそこそこ上位の実力者を鎧袖一触できた。これは良い成果だ。ただ、二人が言ってることも事実で、グレートボアもレッドバーバリアングリズリーも頭が無い。空気振動魔法の弾丸に擂り潰されてしまい溶けた感じだ。可食部や素材が減ってしまって残念。それからソニックキャノンの威力で抉られた森の一部を治すため、ペロ助の背に乗せてもらい当地に向かった。僕らの拠点に一番近い沢を越え、また異なる縄張りが張り巡らされている範囲で森の修復を行う。基礎魔法の一つを用いて植物を魔力で生育促進させるだけだけど……。
そこから元の位置に戻る。安全地帯はやっぱり重要なんだよね。
多重展開術式魔法の常識も良く知らないが、マサムネとペロ助からの言葉は大きく身になる物だった。なんと僕が使っているこの魔法技術は熟練の魔術師しか使えないらしい“無詠唱”。それから僕の体の変化について注意された。なんでも僕の体は魔法と相性が良すぎるそうだ。普通なら処理能力を超過し、脳が焼き切れるような多重術式展開をやらかしている上で、通常なら考えられないことだが付与魔術を使っている。あってはならないとはいかないが、常識外の事を既にやらかしているのと、今の僕の体にその負担は大きすぎかもしれない。
「主殿ノ目ハ射程ヲ独りでニ測っておりましタ。人外種ノわたくしドモとて、そのお力ハお体ニ障りガ在るかも知れませヌ」
「インヤアアァ……、確実ニあるダロウゼエェ。俺達デモあのレベルノ負担ハ厳しいゾ。アト、本題から逸れテルが。他にモいろいろな変化があったゼエェ」
僕の事を心配してくれるのはいいが、若干冷静さを失っていたマサムネ。同じく心配はしてくれているが、意外と冷静なペロ助がいろいろ報告をしてくれた。
僕が魔法を使っている時に現れる変化の限界値は現状不明。見た目に分かり易い変化としては魔法の重ね掛けが増える毎に角の輝きは増していたらしい。今回は放射系攻撃魔法の多重展開術式が目立ってしまったが、狙撃を成功させるために僕の目がスコープと同じ機能を補填していた。これが付与術の内一つの肉体付与の一部に類する。……のだが、魔力で筋力や反射神経の増幅を行うのと異なり、視野の拡張や視力の強化などを行うような、重い変化は普通なら体に障害が残ってもおかしくない。
「なるほどね~……。確かにそれを無意識に使えてしまうのは危険だと僕も思う。まあ、だからと言ってレベリングを中止する気はないけど」
「でもヨオォ……。旦那ハ固定砲台だろイ? 近づかれ過ぎりゃ逃げられんゾ? どうすんダ?」
「そこは策があるよ。マサムネには追い込み役を頼みたい。ペロ助は肩車してくんない?」
「オオ……。なるほど……。動けなければ…」
「俺ガ足になりゃいいわけだナ。巻き込み御免ダゼエェ?」
それからは小物中心ではあるけど、レベリングと同時に食肉や素材の採取に務めた。
僕を肩車しても機敏に動けるペロ助の機動力と、危険が少なく実入りのいい魔物を追い込んで来るマサムネの起点により、経験値的にも素材的にもホクホク。実に好成績だ。マサムネとペロ助の両名が居なくては実現しなかったけど、この方法は最高だな。特にマサムネが希少種だろうあまり見かけない魔物を数体追い込んで来てくれたおかげか、経験値の入りがとても良い。僕ら三人でパーティーを組んでいたからマサムネとペロ助にも少ないだろうけど経験値も入り、もちろん素材の面でも好成績。
定点発動型の地属性魔法“ロックピアス”で串刺しにする方法が一番効率が良かったのだけど、勘のいい魔物だと岩の鋲を避けるヤツも居た。その時は環境的に合わずに魔力を多く消費してしまうが確実な方法を取る。氷属性放射魔法“アイスボールスマッシュ”を乱射して叩き潰す。多少は素材がいたんでしまうし、魔力の面でもマイナスだけどこれの方が確実性は高い。
「ホントニ恐ろシイやっちゃナ……。魔法ヲ乱射サレチャ、俺モ堪ったモンジャねえゾ?」
「然リ。わたくしモこの威力ノ魔法ガ直撃スレバ、只デハ済みますまイ」
「そんなに?」
「自覚ガねえっテのガ一番質ワリイよナア……」
とても心外な一言を帰宅中に言われたのだが、そんなことを言われても比較対象が無いんだからどうしようも無い。
ペロ助に指摘された点は聞き流しつつ、僕は今日のレベリングでかなり上がったステータスを見てにやにや。そんな僕が帰還する頃には全員が欠けることなく帰って来ていた。他のメンバーのレベリングも順調らしく、僕と同じようにレベリング組は皆にやにやしながら虚空を見ている。たぶんステータスボードを見ているんだろう。……明日から何が起きるか非常に怖いけど。まあ、彼らの保護者は僕だし……監督不行き届きにならない程度には頑張ろう。うん。




