4ーレベルアップと進化という概念ー
おはようございます。
朝からいきなり大きな変化があった。まあ、当然と言えば当然だけど、大量のゴブリンを薙ぎ払い、ゴブリンの上位種の多くをその拳で沈めたペロ助が進化していたのだ。
「お~ウ! 旦那ア! なんかアよく知らんけどよオ。俺もオ旦那と同じ言葉が話せるようになったぜエ!」
「これは……進化かな? ペロ助は何か聞こえたりとかしなかった?」
「うんニャ…。そんなコターなかったぜイ。だが、朝起きたらよオ、力が漲るカンジはああったゼッ!」
卵から生まれた直後のペロ助は体長20㎝。尻尾まで合わせて全長40㎝程の大きさで、地球の頃と比べればかなり大きな幼体だった。異世界基準の常識は測れないけど、そのペロ助の体格が一晩で倍近く成長していたのだ。つまり身長がだいたい40㎝。全長は1mに迫る急成長を遂げたことになる。
それは何もペロ助に限ったことではなく、作戦で前線に出ていたメンバーの全員に言えることだった。
中でも規格外の成長を遂げたのはペロ助であるわけだが、最前線で大暴れしたマサムネとシズカも一回りは大きく急成長。身長が3㎝程度しかなかったアカメカブトトカゲ特殊部隊も体格が倍近いサイズに。これが異世界という物なのだろうか?
そこからはざっくりとしたレベルの確認を行った。
その結果から分かったのは、レベルの上昇と肉体の成長にも因果関係がある事。それからこの異世界に存在しているレベルという概念は、地力を急成長させる大きな要素である事だな。また、僕個人に目を向けると、レベルアップは一切していないけど、内包魔力量が微増し操作能力を左右する精神力が若干成長。必ずしもレベルが上がらずとも成長はする。そして、レベルが一定値を超え、その個体の嗜好性を反映させた形で肉体が変容していくのが、“進化”という事になるわけだ。
「ふム。わたくしモ、会話ガ、可能ニなり申シタナ」
「マサムネもか。やっぱり戦闘における経験値の入りはレベル上げの面では、かなり旨味が大きいんだろうね」
「はイ。それハ、わたくしモ感じテ、おりマス」
今回の飛躍的なレベルアップと進化により、言語での意思疎通が可能になったのはマサムネ、シズカ、ペロ助、太陽だ。ミギワとナギサに関してはレベルアップもしているのだが、意欲的にゴブリンを討伐したメンバーとの差が出た結果なのか……。それからマサムネやシズカと同程度のレベルアップをしているのだが、アカメカブトトカゲ特殊部隊は誰も言語スキルを習得していなかった。単にレベルアップしただけではダメだと言う事なのだろうか? これも異世界的な条件クリアとかなのか?
それから僕と共に後方に居たファットテール部隊と、レオパード部隊のメンバーは製作系のスキルに上昇補正。特にレオパード部隊には“木工”という加工スキルが追加されていた。僕は“製作者”に統合されているので変化はないけど、新スキルの習得は幸先いい。ファットテール部隊も新スキルの“土木建築”が追加されている。これらのようなスキルには“スキルレベル”という習熟度による強化概念が存在しているようだ。つまり、使えば使うだけ伸びる。
「なるほど。わたくしドモも、意欲的ニ働くことデ強くナル。そう言う事デスな?」
マサムネがまとめたことが全てだ。ステータス表示やステータス鑑定で数字上のレベルは分かる。…がどの程度成長しているかはわからない。この辺りも物は試しとなんでもトライしていくしかない。
……と、言う事でだ。得意不得意を聞き取り、ペット部隊はもちろんの事、僕も含めたやる事を決める。
まず僕。僕の個体的な特性は内包魔力量が他の皆とは違い桁違いだ。転生特典でもらった適性職業とスキル傾向が生産系なこともあり、洞窟を改築しより住みやすい住居としていく。防衛力と居住区域の整備を考えれば、僕のレベル上げは後回しでいいだろう。その為の必要な能力は現状整っているし、どちらかと言えば地道になろうとも、スキルや魔法の習熟度を上げていくべきだろう。
『フシュッ!』
「君らも僕と一緒に改築するのか?」
『フシュッ!』
昨日の洞窟内での作業中から、こいつらファットテール部隊とレオパード部隊はボディランゲージで意思表示するようになってきていた。その代表格であるファットテール部隊のノーマル隊長がビシッと敬礼をする。挙動はかわいらしいが、こいつらもこいつらでそれなりに魔法を使いこなし、洞窟内の整備を行える。馬力も魔法の能力も高く、小さいからと馬鹿にできない戦力だ。
そのファットテール部隊と双対を成す部隊であるレオパード部隊は、今回は外に出て資材の採集に務めるそうだ。昨日はその点で効率が非常に悪かった。魔法の限界を試す意味でもいろいろ手探りだったため、必要な資材や建材を必要になったタイミングで手近な場所から採取するという、工程的に非効率的な行動が目立ったのだ。それを改善するため、今日はこの周辺の資源調査と採取可能な素材の採取を優先するらしい。
「それじゃ、安全には気をつけてな。君らはまだまだ低レベルだから」
『フシュッ!』
「うん。気を付けてね」
似たような見た目で似たような能力傾向の二種族だけど、その内実は大きく異なる。両主とも生産系の適性職業とスキル傾向をしているけれど、実は職業が全く違う。
ファットテール部隊は建築や家具の作成、陶磁器やガラス、鋼材の加工などと技術を要する場面で輝く。もちろん魔法を使って作業をするのだが、結果的には魔法を利用しない純粋な道具類の作成を担う班となる。
レオパード部隊も物品を作り出すと言う意味では同じなのだが、魔法やそれに関係するスキル適性が天と地ほど違う。レオパード部隊は魔法適性が非常に高く、そのほとんどが錬金術師派生の職業を選択している。スキルなどで素材の目利きができ、内包魔力も多い事から大きな規模の“亜空間収納魔法ストレージ”を全員が持ち合わせているのも大きい。今は拠点の拡充に注力しているけど、いずれは魔道具製作や調薬もして欲しい。
どちらも戦闘に参加はしていないので、レベルアップも進化もしていないので少し心配だ。しかし、前線部隊のメンバーの暴れっぷりを見ていると、別に必要ないから出て行かなかっただけで、彼らもそれなりに強いのだと思えてくる。いつの間に拵えたのか、昨日の食事の一品になった大猪の皮革から作ったリュックサックや石製の採集道具をもって走って行く。うん。大丈夫そうだな。
「そんじゃアよオオオ! 俺は狩りダッ! 狩りに行かせてクレエェッ!!」
「分かった。あんまりヤバいのとは戦わないでね?」
「オウ! それくらいの分別はあるゼエ!」
『クキュオ』
『キュオ』
なるほど、ミギワとナギサもついて行くのか。ペロ助がついて来ることを嫌がっていないところを見る限り、あの二体も好んで戦わないだけでそうとう強いのだろう。二足と四足の切り替えは容易なのか、ミギワとナギサを背に乗せたペロ助が森の方面へと爆走していった……。本当に暴れん坊なヤツだ。まあ、アレでも味方を思いやる事はできるヤツなので悪党ではない。悪党ではないけど……。もう少し落ち着かんもんか?
その後に一列に並んで敬礼したのはアカメカブトトカゲ特殊部隊の面々。
その横にはクレステッドゲッコーのヒノエとキノトが並んでおり、マサムネを介して行動予定を報告してくれる。クレス隠密班とでも言おうか? ヒノエとキノトを隊長に五体ずつのアカメが随行する形でマッピング作業をしたいそうだ。彼らは非常に機動力が高く、広範囲を調べることができる。また、相応に継戦能力が高く、状況判断能力も申し分ない。それに元から戦闘を目的に動かず、一番は周辺の縄張りや魔物の分布調査。次に広域に目を向けた資源の分布調査と、できれば鉱産資源の捜索を考えているらしい。
「金属ねー……。まだ加工の体勢が整わないんだけど?」
「アカメカブトトカゲ特殊部隊ノ話によれバ、調査ガ主体だそうデス。場所ヲ知っているだけで大きな差ガありますノデ」
「なるほど。無茶をしないこと。それだけ肝に銘じてほしい」
『フシュッ!』
アカメカブトトカゲの一体が返事を返してくれたので、そのまま送り出した。
環境調査は確かに重要なのだが、この未開の地っぽい森の危険度もよくわからない。よく分からないので、できればもう少し遠慮気味に動いて欲しい気持ちもあるのだが……。彼らも何か考えがあるのだろう。そう考えるなら僕がどうこう言うべきじゃない。僕は僕でやれることをやるまでだ。
最後に拠点に残ったマサムネ、シズカ、太陽の三体は交代で洞窟の入口を警備してくれるらしい。この洞窟は複雑な形状はしていない。いくつかの分帰路があり、その先端に大部屋や小部屋が作為的に掘られた程度の物だ。おそらく、洞窟自体は元からあったのだろうけど、それをゴブリンが拡張したのだと思う。まあ、ゴブリンの知能がどの程度かは知らないけど……。いつ落盤してもおかしくない箇所もあり、それなりに修繕箇所や改築箇所は多い。防衛の観点からもこの単純な形状の洞窟では危ない可能性があるからだ。今の所は人間の影はないが、僕としては魔物よりも人間の方が怖い。
「人間デスか? それ程、脅威でショウか?」
「個の強さの幅も大きいし、何より恐怖に煽られた時の人間の動きは予想がしにくい。情報の伝播も早く、脅威に対しては敵対勢力であっても手を取り合う事さえある。何より……、人間は簡単に裏切る。僕はそれが嫌いなんだ」
神妙な表情のマサムネが臣下の礼を取り、僕の方針を受けたことを改めて言葉にする。マサムネが真面目なのはいいところだけど、彼に物事を伝える時はもう少し考えて言わなくちゃいけないな……。この点は僕が彼らの飼い主だった者として機をつける部分だろう。
たぶん、マサムネは僕が多くの人間に嫌悪感をもっている事をそのまま受け取ったはずだ。後でもう少し指示をマイルドにしておかないと、人間を見つけたら悪即斬しかねない。僕も全ての人間が悪いヤツではないことは知っている。食事の時にでも再度説明しておこう。
シズカと太陽もそのままマサムネとシフトの話を詰める為、洞窟の入口方向へ消えて行った。
僕は僕で先に作業を始めているファットテール部隊の現場指揮に向かわねばならない。アイツらは魔法という新しい能力が楽しいのか、僕の想定外を何度もやらかしている。確かに物作りはとても楽しい。それからこれまでできなかったことができるようになるのはもっと楽しい。その辺りは僕も認めるところだ。しかも魔法などという超常現象を引き起こす新しいツール。これの利便性は非常に高いし、できなかったことが一気にできるようになる快感は最高だろう。
『フシュッ!』
「こらこら……。今日は落盤が怖い部屋とか、どう考えても崩れそうな穴の補修工事だろう? なんで薪オーブンなんて作ってるの……」
『フシュッ♪』
言わんこっちゃない……。洞窟を入口から真っすぐに進んで行くと、元々ゴブリンロードが使っていた大広間がある。
そこにたぶん肉を焼くためなんだろうけど、大型の焼き窯が作られていた。余程肉が気に入ったのか、今度はこれで焼きたいのだろう。煙を逃がす穴もちゃんと掘られており、どこに逃がしているのか知らんけど、洞窟内で煙に巻かれることは無い。作ってしまった物はしょうがないから、少し窘め予定の作業に戻ってもらう。
それからは深い知識がない事や、技術的な面でも苦労の連続だった。
この洞窟は周辺を大きな山に囲まれた位置にあり、小山にぽっかり空いた不自然な穴なのだ……。ファットテール部隊を三班に分け、補強班、環境整備班、掘削拡張班として各班に仕事をしてもらった。まず最初の問題は掘削拡張班が水脈とぶつかったこと。小柄なヤモリが流れて来て驚かされた。この洞窟は奥に向かってなだらかに下っており水が貯まる。各部屋を掘削拡張班と補強班とで協力して作業していた時に水が出たらしい。初期で気づけた僕の魔法で時間稼ぎをし、ファットテール部隊が排水用の穴を掘り、何とか排水できるようになった。まあ、飲み水としても使える水が出た事は結果だけ見ればよかった。……けど、かなりの勢いの水脈だったので水没の危機だったんだよね。これが一番疲れた。
「お疲れー……。大変だったね」
『フシュ……』
「うん。今日も肉を食べて明日も頑張ろう」
『フシュッ!』
水が出たのもそうだけど、他にもいろいろあった。不注意で一部を落盤させ、数体のファットテール部隊が巻き込まれたり……。僕の目を盗んで作りたい物をかってに作り始めるし……。作業が肯定通りに進まないし、僕の魔法の威力でも掘削できない岩の塊にぶつかったり、いろいろ盛りだくさんだったよ。だけど、水が飲むことができる湧水を得られたことは僥倖。これでまた生活環境が整ったのだからね。
そこからはペースを落として洞窟の補強と拡張作業を続け、資材が揃い次第となるが地下階の設営も考えている。それから微量ではあるけどこの小山からは属性魔石が出てくるので、それの収集も並行。僕達は狩猟班と探索班、採集班が帰還するまで淡々と作業を続けた。
全員が帰還したのは夕暮れ前。夜間が危険なことは本能から理解しているようだ。全員が欠けずにまた揃ったことは喜ばしい。今日も肉を焼いてぐっすり眠ることにしよう。




