42ー王と負の遺産の清算ー
ペロ助と太陽の最近の仕事は戦闘を教える教官である。一見粗野に見えるし、口調も荒いペロ助だが……。このペロ助は案外思いやりのある兄貴肌で、戦闘狂である面さえ除けばとても面倒見のいい一面のあるヤツなのだ。基本的に彼らが技術を教えるのは人類種の女性。この拠点の中はかなり平和だが、この拠点から一歩でも外に出ると、人類族のトップ冒険者でも生き残れないという魔境・魔物の森が広がっている。何かのアクシデントで魔物が敷地に侵入してきたときのことを考えると、彼女らも時間稼ぎ程度だとしても自衛手段をもっている方がいい。
基本的な体術教官はアルバイトのヴィエラさん。ヴィエラさんの分の対価を無しにし、ここでのお楽しみ件を無償にした。彼女の教える体術はそれぐらいとても勉強になる。
そこから実践喧嘩術を教えるのがペロ助。ヴィエラさんは正統派武術を教えるが、ペロ助が教えるのは勝てる戦闘術。卑怯だろうが汚かろうが、死んではそこでおしまい。この世界はゲームの世界ではないのだ。死んでしまえばコンテニューなどできはしない。なので少々手荒い方法だが、相手の決め手や動きを封殺する喧嘩戦法を教えてる。
ここからは得意な武器に振り分けられ、基本的な剣術を太陽。長柄の獲物の扱いをカリュエルさん。弓やスリングなどの投擲武器をネグスエルさん。盾術は必須科目とし、棍棒やハンマーのような鈍器をトマルエルさんが担当する。
「これは実に豪華な教導じゃのう……」
「うむ。ワシもここまでの待遇はないと思うぞ? ワシもどこかで噛もうかの?」
「サンドラはまた特殊じゃろ? 人類種に教えるには向かんのじゃ」
「やはりそうか? しかし、ワシも無料お食事滞在権が欲しいのだ」
「あ、わらわもそれは欲しいのじゃ」
僕も興味があるから何度も参加しようかと考えたけど、僕は特殊過ぎるので教えるのは難しい。
あとサンドラさんやカナンさんも何か教えられる物があって、それの価値が高いと判断されたら“無料お食事滞在権”は考慮しますぞ? だって、タマモさんも秘伝の妖術を惜しみなく教えてくれるという事で、妖術に適性のあるメンバーは座学でしっかりと学んでいるよ。こうなると魔法や聖法、導術も先生が欲しいところだけどね。今のところ居ない。募集出してみようかな?
なんて考えていると、そこにぞろぞろと黒ずくめの集団が入って来た。……夜間なら身を隠しやすいんだろうけど、この真昼間にそんな真っ黒ケッケの姿は逆に目立つぞ。あと、その後ろに居たから目立たなかったけど、ウッドランド迷彩の忍者なんて普通いないから……。ヒノエ君、キノト君、もう少し色合い選べなかったの?
今現れた全部で十二人の小柄な人影はアカメカブトトカゲ特殊部隊ファミリー。それからクレス隠密部隊のヒノエとキノトだ。少しタイミングがずれたが、彼らも全員が存在進化している。アカメカブトトカゲ特殊部隊ファミリーの一号父さんと二号母さんは“黒鎧若鬼”に。三号から十号までの兄弟姉妹は“黒衣童子”へ存在進化した。両親の方はこれまでネックだった近接戦闘力がかなり上昇。そして、防御力も桁違いになった。これで前線戦力としても動けるようになったのだ。ちなみに両親は身長120㎝程で、子供達は80㎝程。黒ずくめの中身は人族の子供や幼児に見える姿をしているが、甲殻や鱗の一部は残っているし、足は以前の物が大きくなっただけだ。種族としても人類種ではなく、魔人に類する人型鬼種。固有鬼種だ。
「なんか、黒いのがワラワラきたのじゃ……」
「そうじゃな。アレはユウゼン殿が抱える隠密組織だ。とても優秀なことに加え、存在進化もしておるから並みの魔物よりも数段強かろう」
「ここ、おかしいのじゃ」
「こんな物序の口だぞ? これからも面白いことは続くだろうて」
隠密部隊の事に関してはあまり否定する部分が無かったな……。確かに彼らは優秀だ。存在進化もしてるからかなり強い。でも別に彼らが居るからと、特段と面白いことが起きるかと言えばそんなことはないと思うけど。
それから、隠密戦力の主体は最後尾に居るクレス隠密部隊のヒノエとキノトだ。なんでか知らんけど、ウッドランド迷彩の忍者服を着てるから森の中以外は物凄い目立つと思うんだが。ヒノエとキノトも存在進化しており、“妖忍童子”へと至った。戦闘能力よりも潜入能力と情報収集能力に傾倒したスキル傾向で、強力な妖術が使えることもあり、隠密能力はアカメカブトトカゲ特殊部隊とでは比べるべくも無くと言う感じ。二人も人の幼児のような姿に進化したが、彼らの場合はほぼほぼ人の姿。他のペット部隊と異なり、以前の面影はほとんど残っていない。残っているとすれば長く平たい舌くらいのものだ。
「ご主人を探してた。ここに居たんだ。珍しいね」
「そうだな。ご主人が訓練場に来ているのは珍しい。鍛練をされるのか?」
「いや、住民の定着状況と進化した皆の状態確認。僕も君達を探してたところがあるから、ちょうどよかった」
「ふむふむ。なるほど。別に変なところはないぞ? 一号はどう?」
「特に異変は感じないな」
「やはり進化ってのはそういう物なのか」
「おっと、危ない危ない。ご主人! ちょっと後から相談したい物がある。二号母さんがハルドエン帝国に財宝の類は置いて来たけど、置いて来れなかった物は僕が預かってるんだ。ちょっと曰くありの物だから……。あとで時間が欲しいの」
「分かった。……アカメ四号も暇なら同行してれば問題なくない?」
アカメ四号は兄弟姉妹の中でも運が悪いと言うか、トラブルを引き付ける体質をしているらしい。
ちょっと同情するけど、それも彼の個性なんだろう……。ペロ助達の教えている姿を少しのあいだ見学した。僕と興味があるらしいサンドラさんとカナンさんも連れ、僕の拠点での宝物庫にしようとしている空間にアカメ四号と一緒に来た。宝物庫は完全なデッドスペースだった空間を流用しただけなので、多少警備用トラップが仕掛けられているけどそれ以外は本当に何もない。大きな声を出して反響するのを楽しんでいるカナンさんはほったらかして、アカメ四号が出していく物に……さすがのサンドラさんすら悲鳴を上げた。もちろんカナンさんは絶叫を上げたよ。……耳を抑えていてよかった。
普通の死体が出てくる程度だったらね。彼女らも僕も悲鳴を上げることは無かっただろう。でも、僕も揃って絶叫を上げるような物品だったからね……。これがただのマネキンで人型一分の一フィギュアだったらどんなに幸せだったか。まさかの人間の剥製だった。しかも人類種の女性、美女ばかりの剥製が数えただけで200近く出てくる。一桁とか二桁じゃないぞ? 三桁ともなれば猟奇的とかサイコパスとかいろいろ超えてくる。
これをアカメ四号が持ち帰って来たってことは、アカメ四号の管轄した場所で見つけた物なんだろう。もちろんどういう経緯でこれをもって帰って来たかなど、ちゃんと聞かねばならないこともある。確かに曰く付きのものだし、ハルドエン帝国から来た女性達の前で出さなかった配慮も良かった。でもこれは……。
「ねえ、アカメ四号。これはどういう理由で持ち帰ってきたの?」
「うん。話せば長いんだけど……。カクカクシカジカトンデモサイコパス」
うん。理解できたようで理解できない。アカメ四号が持ち帰って来た理由には納得した。“勘”が囁く時は何か重要な事案が多いのだ。だけど理解できない。なぜその教皇がこんな凶行に走ったのだろうか……。教皇がこの夥しい数の美女を一人で剥製にできたのか? これ程綺麗に継ぎ目も処理されているとなると、プロの仕事なのだろう。そんでもって一番気持ち悪いのが、僕が感じた事のない術法の気配がする。その術形式が非常に気持ち悪い。
この女性の一分の一フィギュアのノリで並べられている剥製。これに関してはちょっと聞きたいことができた人物がいるので、その人からも意見を聞いた上で僕がどうにかする。倫理的には微妙な術になるけど、僕の内包魔力量と聖氣量なら何とかなるだろうから。
それよりもアカメ四号が持ち帰って来た物の中には、強力な神器に準ずる遺物も多数見受けられた。アランドール氏の所蔵していた遺物とも遜色ない物ばかりだ。数点はそれ以上の物だと思う。という事で、それらの確認をしながらアカメ四号にお願いして、陽光の聖女ミレアム・シンシレットを呼んできてもらう。それと……、これが鍵かな~と思われる神器級の遺物を手に取り、どうにかなるかと目途をつけた。
「魔物の王様、ミレアム・シンシレット、ここに参りましてございます」
「うん……。王様呼びはちょっと慣れないからユウゼンと名前で呼んでくれればいいよ」
「……それではユウゼン様。あの、この夥しい人形の群れは?」
「落ち着いて聞いて欲しいんだけど、これね? 元は生きてた人で、全部剥製なんだよね」
「ヒッ!! う、嘘……。へっ? ほ、ホントに? キャーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
耳を塞ぐのが送れ、耳が少しの間まともに働かなかった。…が、とにかくシンシレットからこの凶事を引き起こした教皇の人となりを聞いた。彼女から聞くだけでは、教皇はそこまでおかしな人間ではない感じがした。……が、確かに教皇の周りでは奇妙な噂話はあったそうだ。セルベリエ神教の教皇でありながら“死霊術”を研究しているという話を聞いたことがあったという。
“死霊術”……。それは禁術とされる術法の一つで、聖法を用いずに死者を蘇らせたり、死体を使役して手足のように扱う忌むべき術法。このようにアランドール氏の著書にも記されていた。アランドール氏の著書には生者の魂を武器に移し込むことで、そのステータスやスキルなどを移し込む禁術が主体で記されていた。まあ、どれもこれも褒められた術ではない。キメラを作り出す術や魂を糧に悪魔や強大な魔物を作り出す術などがあると言うが、詳しい事は僕にもわからない。
それから最後にシンシレットに聞きたいのは、教皇が宝物庫に飾っていた200近い美女の剥製の他に一つだけ気になる物があったから。それは神器級の遺物である“隔離の離宮”という名の額縁。その中には儚げな女性が窓辺に座っている絵画が収められており、シンシレットならその女性のことを知っているのではないかと思ったのだ。
「この方は……教皇様のお嬢様で、かなり前に亡くなられたアリシア様ですね」
「ふ~ん。という事は、こういう事かな?」
神器級遺物“隔離の離宮”を鑑定した結果がこう。
とある古代の死霊術師が作り上げた傑作品で、亡くなった人物を詳細に知る物が故人を描いた絵画を封入することでその魂を輪廻の環から外し、常世に縫い付ける効果を持つ邪法の遺物。魔力を注ぎ込むことで、一時ではあるが、絵画に魂を定着させ会話することもできる。
ただし、やってみたけどもかなりの量の魔力が必要で、僕でも結構もっていかれたと感じた。
だから、教皇はこの隔離の離宮を魂をこちらがわに固定するために使い、この200近い女性の剥製は娘さんの魂の定着先として用意した入れ物なのだろう。それが故人の意志であるかどうかは別に、教皇は娘さんを深く愛していた。そして、死因は不明だが…アリシアという人物をもう一度どうにかしてこの世に存在させようとしたと言う事になる。
また、強力な防腐処理と固定術式で全ての剥製を護っていると言う事は……。教皇はかなり長期的に見て、死力を尽くして娘であるアリシア嬢を復活させようとしたのだ。聖法を得意とするはずの聖職者が邪法に縋る程度には彼は娘さんを愛しており、その愛は歪み、これだけの凶事を引き起こした。教皇の行動には一切共感できないが、僕ならこの哀れな女性達を新たなステージへ持ち上げることで復活させることができる。死霊術のような禁忌の術法ではなく、聖法を用いた本当の意味での奇跡を見せることができる。
「アリシアさん。聞こえていますか?」
『聞こえて…います。貴方は、誰…ですか?』
「僕はユウゼン シロイと言います。貴女にいくつかお尋ねしたい。貴女はお父様を愛しておられましたか?」
『はい……。しかし、…父は』
「お父上の凶行は貴女を復活させようとした結果引き起こされました。貴女はこれをどのように感じていますか?」
『可能なら…償い…たい…です』
「最後です。貴女は…まだ生きていたいですか?」
『父が…しでかした行為…は、許されません。…父は……聖職者…として、恥ずべき、行為を…行いました。……しかし、私はそんな…父でも、…たった一人の…家族でした。……可能であらば…私が…つぐな…い……た…………い』
「結構な魔力量をもってかれたのにな。時間切れか。でも、真意は受け取れたし、何とかなるでしょ」
僕は体へ魔法を定着させるために聖氣を用いることが多く、聖法をナギサのように回復術式に使う事はない。だからと言って僕がそれ以外の聖法術を使えないわけではないんだよね。親指に犬歯で傷をつけ、僕の血でかなり精密な巨大聖法陣を宝物庫ギリギリになってしまったが書き込んだ。未だに多くの聖職者がこの聖法を追い求める物。蘇生術を越えた…その効果は……。




