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僕は無難にニューライフがしたい  作者: OGRE
ご近所付き合いも大事
25/215

25ー波乱の予兆ー

 僕が異世界に転生してよりおよそ120日。ヴィエラさんとタマモさんにも確認してみたが、僕が転生した時期は春の中盤で、これから地球で言う所の梅雨のような時期になる。ただし、異世界ではただ雨が降るだけの季節ではなく、“嵐の季節”と呼ばれているのだそうだ。それは形となって現れている。

 ファットテール部隊キャラメル班とミルフィモームの皆さんが頑張って管理していた畑。その多くがなぎ倒され無残な姿になっている。こればかりは自然の驚異でありどうしようも無く、キャラメル班もミルフィモームも意気消沈していた。しかし、ここは異世界。地球でさえも化学の力で必ずしも外で作物を育てる必要はなくなっていた。ならばこちらではファンタジー的な夢の技術を用いるまで。様々な技術大系を組み込んで、自然環境を疑似的に形作ることで屋内でも作物を育てることを可能にするまでだ。


「おおおおおおおお! ご主人! ありがとうなん!!」

「うん。いきなりの事で皆ショックだっただろうけど、生きてる種苗をこっちに移して二面作戦と行こう。ただ、屋内生産はどうしても限界があるから、本命は外で屋内は呼び戦力だね」

「うぃッ! この恩には必ず報いるなん!!」


 ここまで頑張って拡張を続けた菜園への被害は甚大だったけど、嵐の季節の序盤で対処が済んだので、完全に継代した種苗が絶えてしまった作物は無かった。果樹に関しては凄く苦労したけど、数本の若木を避難し、レオパード部隊からも土壌調整剤や魔道具による補助で定着。なんとかなった。

 僕がアダマンタイトレンガを作るため、建材として用いた土を得た地下階層が早速役に立った。直前にダンジョンコアを完成させ、それに管理を任せることができることも大きいと思う。

 それから南北の両縄張りから子持ちの野生オオカミや、野生キツネを受けいれられるだけ受け入れた。これはヴィエラさんとタマモさんからのお願い。魔物であれば多少転向が荒れた程度で直ぐにどうこうなることはないが、野生動物であれば天候の悪化による餌不足だけでも大きなダメージに繋がる。その為にいつもより多めのアダマンタイトとミスリルをくれた。困ったときはお互い様だと言ったが、それでも大きな縄張りを治める長のメンツがあると言うので、形式的には受け取っている。彼女達には仕事に支障が出ないなら楽しみに来てくれて構わないとこっそり伝えた。二人は苦笑いしていたが、素直に尻尾と耳は反応していたよ。ははは。

 トラブルと言うのはやはり唐突にやって来る物で、忙しく屋内の整備関連の仕事をしている僕にアカメ一号から連絡が来た。


「主殿……。敵対反応ではないのだが巨大な気配が近づいている」

「うん。巨大な氣の動きは感じているよ。何だろうね。方向的には真東。ヴィエラさんやタマモさんなんか比にならない程巨大な気配だけど」

「そうですな。キノト隊と二号、七号、八号、九号、十号が既に様子見に出ている。天候も荒れている故に深入りはしないように言ってあるが、事がどう転ぶかは分からぬ」

「わかってる。だから、僕も動けるように準備はしているけど、まずは穏便に事を転がすように相手と折衝をして欲しい」

「了解した。マサムネ殿と動いてみる」


 その巨大な気配が徐々に近づいているのを、結界魔道具と同期している精密地図魔道具で確認していた時だったかな? 血相を変えたヴィエラさんが拠点に駆け込んで来た。それから5分とせずにタマモさんも駆け込んで来る。相手が来るに任せている現状を見て安心したような表情をした後、二人は真剣な表情をして僕へ一つ提案を投げかけて来た。

 それは単純なことで、まずはマサムネを介してこちらに向かっている巨大な気配と対話を行う。その後、ヴィエラさんとタマモさんが紹介する形で、その巨大な気配と会って欲しいと言うのだ。

 今回、こちらにゆったりとした速度でこちらに真っすぐ向かっているのは、東に座す金剛の太守ダイヤモンドドラゴンである。魔物としても上位の存在。その上位の魔物の中でも頂点に君臨している竜種の長だ。その実力は獣系の太守とは雲泥の差で、竜種の太守はマジモンの災害である。その天災級の魔物が何故か僕のところへ向かっていると言う事は、何か思惑が必ずあると言う事なのだ。

 事前の知識として聞いたが、金剛の太守であるダイヤモンドドラゴンは非常に温厚な性格の個体だそうだ。ただし、大きさが大きさなので、動くだけで大災害となる。そのダイヤモンドドラゴンが何故こちらに来ているか分からないが、気配察知の地図魔道具では敵対反応はない。時間はまだまだあるので、マサムネとアカメ一号には既に待機してもらっている。準備は終わっているので、あとは相手がここに到達するのを待つだけなのだが……。


「ご主人。急遽判断を仰ぎたい」

「どうしたのアカメ二号。緊急事態?」

「こちらじゃないんだけどね。相手、金剛の太守を名乗る巨竜の命を救うか、判断を仰ぎたい」

「何? 金剛の太守が命の危機になるほどの手傷を負っているというのか?」

「そうだね。でも、それよりも事態の根は深いと思う。あと事後報告になるけど、患者が多くてナギサとミギワは現地に急行してる。私が許可を取りたいのは、例の霊薬とご主人に施術をお願いしないといけないから」

「金剛の太守に…手傷。ハルドエン帝国が森の東部を開拓に動いたということか?」

「詳細は分からない。だけど、巨竜は酷い手傷を負ってる。急がないと手遅れになるかもしれない」

「なら考える必要はないね。急ごう。持っていけるだけの魔法薬や霊薬、医薬品を準備して。戦闘が可能な仲間には全員声をかけて、負傷者の保護を優先して動こう」

「サー、イエッサ」


 ~東部縄張り境界線を越境・古竜の集団と遭遇~


 確かに非常に酷い状態だったと思う。奇跡的と言うか、よくぞこの状態で人類種の領域からここまでを歩いて来れたものだ。傷の程は浅いけど、体中に無数の斬撃痕が残っている巨竜。どれだけ激しい戦闘になったのか、想像もできない。僕の目の前でうずくまる巨竜のその姿を形容するなら恐竜の首長竜。翼などは無く、完全なる地表性だと想像ができた。その竜の周りにもかなり酷い手傷を負った竜が複数いたが、それらは既にナギサの処置によりほぼほぼ容体は安定している。問題は僕が見上げる形になっている一際巨大な太守。金剛の太守であるダイヤモンドドラゴンだ。

 その巨躯の表皮はかなり硬度の高いダイヤモンドでできている。あの外皮は特殊な魔力を含んだ宝石質の物でその外皮を持つ竜を魔宝石竜と呼ぶ。魔宝石竜は古の時代から生きている血筋で、目の前の巨竜は神獣の血を引く一体らしい。

 巨躯をよじ登り、先程からナギサが回復魔法を使っているのだが、効果がかなり薄い。その原因もその外皮に理由があった。魔宝石竜はその魔宝石の特性がそのまま表れる。ダイヤモンドドラゴンはダイヤモンドという硬度の高い宝石でありつつ、ミスリル以上の魔法防除能力を持つ外皮なのだ。つまり、かなり強力な魔法でなければ効果がない。ナギサの回復魔法はエルダー・ヒール。断裂してすぐならば部位欠損ですら回復させる程、かなり上位の回復魔法なのだが……。それを弾くとなると…ことは思っていた以上に深刻かもしれない。


「……貴殿が“王の太守”巧法童子殿か」

「お初にお目にかかる。そこまで大仰な者ではありませんが、僕が巧法童子であることは間違いありません」

「うむ。突然のことで申し訳ない……。ワシはまだ死ぬわけにはいかぬ。縄張りの同胞を護るため、生き永らえなければならん。ワシの肉体は生半可な回復魔法や魔法薬では回復しきらぬ。何より…首元を見てくれ。そこに刺さっておる聖剣の残骸を抜き取らねば、いずれワシは死に至る。ジワジワと生気を抜かれるこの不快な感覚を味わうよりも……。この魔物の森を震撼させる氣を放つ貴殿の力に賭けたいと思う。必ず相応の返礼はさせてもらう。頼む。この通りだ」


 巨大な竜の頭が下がって来る。マサムネが警戒して僕の前に立ちはだかるが、その声音からは僕に対しての敵対心は感じない。それに一縷の望みに賭けてここに来た大老竜からは、縄張りに住まう仲間を思う篤い心しか感じ取れないのだ。ならば、僕がすることは一つだと思う。この大老竜を助ける他ない。

 まず、保険として行っておく措置を大老竜に説明。非常に高い生命力が功を奏し、一分一秒を争うわけではなく、僕にしか対処ができない案件と言うだけ。最初の保険として、超強力な造血剤を飲んでもらう。首元に突き立てられている“聖剣の折れた刃”は確実に頸動脈に到達している。魔宝石の外皮を貫くまではできた聖剣だったが、あの皮革を切り裂くまではいかなかったのだ。これは予想の範囲だけど、神聖剣を使ってこの程度であればこれは使い手の腕が悪かったな。

 大量に用意してある造血丸を嫌がる大老竜の口に押し込む。確かに不味いから気持ちは分かるが、お願いだから子供みたいにイヤイヤしないで欲しい。それから次は古の竜から得られる素材を無駄にしたくないので、巨大な容器を用意し零れた血をもらう。造血丸をレオパード部隊が放り込んだ後は、口に超強力な拘束バンドを装着。叫ばれたらその空気振動だけで大変なことになる。最後にエリクサーを用意。神聖剣の刃を引き抜いた後にその傷口をしっかりと塞ぐ必要があるからだ。あと、麻酔薬も忘れない。魔物の討伐用に用いるかなり効力が高い即効性。効果時間は短いが、効果は保証されている。


「では、やります」

「……」

「ふっ……んっ!!!!!」

「う゛??! ん゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」


 神聖剣の刃を引き抜いた瞬間、その傷口に用意していたエリクサーをぶっかける。エリクサーの効果は抜群で、白い煙を上げながら傷が塞がっていく。ただ、これはダイヤモンドドラゴンレベルだからできた荒業。……勘違いされているけど、エリクサーは単なる回復薬ではなく、その肉体の生命力をそこに急激に集中させ、回復力を増強させる魔法薬なのだ。非常にハイリスクな薬品で、元から生命力の低い患者に使う場合はかなりリスキーだ。死者すら蘇生させると伝わってはいるが、それはエリクサーだけではなく、他の霊薬との併用の末に起きる奇跡。現状ではまだ起こせない奇跡なのだ。

 盛大に脇道に逸れたが、神聖剣の刃は引き抜けた。しかし、その神聖剣からは呪いのような物が発生しており、未だにダイヤモンドドラゴンの生命力をじわじわと削っている。ならば、呪いの根幹を断つために僕も全力を尽くす。前に神聖剣を破壊した時とは状況が全く違うが、体内で練りに練り、超強化した状態で圧縮した氣を叩き込む。この神聖剣には持ち主が居る。だから、今後どうなるかは分からなかったが、神聖剣の刃は粉々になり、剣身を砕いた僕の掌にはいつぞやと同じように神聖剣の宝玉が握られていた。

 呪いのような物も霧散して消えている。鑑定しても異常はないので、これでダイヤモンドドラゴンの生命が脅かされることはない。一息つくために上を向くと、例の男がクラッカーを弾いた瞬間だった。


『ぱんぱかぱーん! いやー、それにしても波乱万丈な生を歩んでいるね』

「いつも突然出てくるな。それで? 今回も神族関係のこと?」

『そうだね。今回の場合はまた異なるんだけど……。その神器を作った神族からのお願いを聞いてあげて欲しい。もちろん、僕が報酬を払うから』

「やれる範囲ならやるけど?」

『お? なんか最初の時とは雰囲気が変わったね? 何か変化があったの?』

「いや、単純に前の人生よりも……楽しいからだと思うぞ」

『ふふふ。そうかい。それなら僕も嬉しいよ。じゃ、お願いを伝えるね。神の威光を傘に横暴の限りを尽くすハルドエン帝国の国勢を削いで欲しい』

「攻め滅ぼせばいいの?」

『いやいや、そこまでじゃないよ。脅してくれればいいんだよ。そうだなー……。敵の大軍を無力化するとかいいんじゃない? 今の君ならできるでしょ?』


 時間制限でもあるのか、朧げな雰囲気になり消えていく光の神。最後に光の神は深々と頭を下げている姿のまま消えて行った。高位神族なんだからそんな簡単に頭を下げるなよ……。とは思うけど、僕はあの神のそういう所は嫌いになれない。

 立場がどうだとか、能力がどうこうとかでマウントを取るわけでもなく……。悪い事をした時は謝る。お願いする時は素直にお願いする。何事にも上から目線のクズ共とは違う。そういう性格のヤツだから僕も無碍にはしたくない。……僕をこの世界に送り届けてくれた神でもある。そのお礼という面もね。

 以前のように、僕の仲間達や周囲の患者、同行して来てくれているヴィエラさんとタマモさんも微動だにしていなかった。それが光の神の気配が完全に消失したと同時に動き出した。

 ダイヤモンドドラゴンの容態も安定したんだけど……。この嵐の中を雨曝しは可哀そうなんだが? どうにかならんもんかね? 根源的な部分は解消したとしても怪我人だったのだから、安静にしてもらいたい。環境の良し悪しも回復には大きく影響する。それをダイヤモンドドラゴンへ尋ねると……。なんか、患者の竜族達が光り輝き始めた。どんどん収縮し、大きさが20㎝から30㎝程度の大きさまで小型化する。え? これはどういうこと?


「聖剣からの悪影響も何故か消えている。そのおかげで小型化の権能も使える状態に戻った。しかし、申し訳ないが、貴殿の拠点まで運んでもらえぬか? 薬品の関係だと思うのだが、思うように体が動かんのだ」


 うん。超強力な麻酔薬の影響と、エリクサーの副作用だ。生命力を患部に集中するので虚脱感が一時的にあるのだ。なので、ダンジョンエリアから蟻型ゴーレムを呼び出し、ここに治療を受けに来た竜を全員運んでもらった。全部で184体の竜族の大集団だ。ダイヤモンドドラゴンの気配が大きすぎて見えなかっただけで、こんなに居たのか。まあ、数は問題じゃない。テナントの入っていないダンジョンエリアに運び込み、仮の救護所とした。ここでも蟻型ゴーレムを投入し、竜族には無理をせず休息してもらい。僕らも無駄を省いてしっかり彼らを保護。……その内、ハルドエン帝国にお仕置きしに行かねばいけないし。ダイヤモンドドラゴンとはしっかりと意思疎通しておこう。

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