↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は無難にニューライフがしたい  作者: OGRE
ご近所付き合いも大事
24/223

24ー武技術の修練ー

 転生後100日が過ぎ去った。三か月と半月くらい。この世界独特の進化という概念に関して無知だった僕の現状を打開すべく、今日から武術を習おうと思う。幸い急ぎの工事も無いし、僕がやらなくともファットテール部隊のノーマル班がかってに進めてくれる。僕がノータッチでも彼らの技術は既に匠の域だ。安心して任せられるよ。

 まず、僕に体術を教えてくれるのはヴィエラさん。格闘術に一家言あるそうで、様々な体術を含めて教えてもらう。基本的な分野だけあり、優先的にレッスンが行われる。それに合わせて武器術の講義。武器術はユニコーン族の三名が先生となる。代表のカリュエルさんとネグスエルさん、トマルエルさんの三人。三人とも専門が異なり、カリュエルさんは大物の剣と長物の武器が得意武器。ネグスエルさんは弓術を中心に遠距離武器に適性が高く、投擲武器までも幅広く網羅している。最後のトマルエルさんは鈍器類を教えてくれる。盾を鈍器と言っていいか微妙なところだが、盾術を中心に棍棒や小槌、大槌などの打撃武器の先生だ。


「ほうほう……。やはりいい筋をしているな」

「そうなんですか? この体の事はよく知らないんですよね」

「いや、非常にいいぞ。柔軟性はもちろん、適度に締まっている筋肉もそうだ。この感じだと骨もしっかりとしておるだろう。人型鬼種だとしてもこれは期待できそうだ。では柔軟体操の後は体を温め、そこから簡単な訓練に入ろう」


 ヴィエラさんはこれまでの行動からかなり強引な教導をするかと思ったが、かなり丁寧なレッスンをしてくれた。最初は柔軟体操から始め、その後は動きの激しい体操を行い体を温めるなど。僕から見てもしっかりとした手順を踏み、僕の体の状態を見れる程度には教え慣れしている。それに僕だけではなく、ちゃんと全体に目を向けられていて体操の先生のようだ。

 ヴィエラさんは確かに気が強くちょっと残念なところは目立つけど、縄張りの長としてはしっかりと身内を観察で来ていると思った。

 ついでなのだろうか? 僕の周りでまだ若い?のだろう人の姿に変化できるようになった狼達が居る。彼らの事もヴィエラさんが面倒を見つつ、体の調子を整えていく。中には柔軟体操の段階で弾かれ、そのまま体を柔らかくするための運動を長時間させられる組みもある。柔軟はクリアしたとしてもその後の体を温める体操の段階で体力が続かず脱落するメンバーもいた。彼女の残念なところを先に知ってしまったから、これだけしっかりと群れの管理ができる人物だとは想像がつかなかった。


「その気持ちは分かりますよ。いつものポンコツなところばかりで恥ずかしい限りではありましたが……。実は私共もヴィエラ様に教育を受けておりますので、長としての資質をしっかりとお持ちなのは知っておりますよ」

「そうですね。現在の群れの者は全員がヴィエラ様に教えを受けた者。つまり、ヴィエラ様は私共の母であり姉である偉大なる存在なのです」

「褒めても何も出んぞー。アタシもお前達と同じように前の長に育てられたからな。アタシはそれを受け継いでいくだけの事さ」


 地が出ると一人称が私からアタシになるから分かり易い御仁である。残念なところばかり目立つが、確かにこの人は狼の群れの長だ。前から分かってはいたけどね。

 柔軟と体力の壁をクリアすると、その先に漸く簡単な武術の型を学ぶ。我流の武術を構築するのもまた道だけど、しっかりとした段階を持つ型がしっかりした武術を学ぶ方が効率的ではある。基礎がしっかりしているならば、そこから自分に合った技術を練り上げるのが楽になるのだ。それについても納得できる。

 ……だけど、これだけは言わせてもらいたい。なんでいきなり僕の組み手の相手が狼王武技の師範代らしいミラさんなのだろうか?

 想像以上に体が動くと言われたので、ヴィエラさんは審判の立ち位置で僕達の動きを見てくれている。それを囲むように群れの皆さんが尻尾をパタパタさせながら見学。僕はこれまで武術を学んだことも無ければ人を殴ったことなど一度もない。……神にアイアンクローを食らわせたり、メイスでゴーレムをスクラップにはしたけど、これは含まれないだろう。

 狼王武技の特徴は速度。突きの後に下方もしくは手近な場所を掴んで押し倒したり投げるという技が多い。前傾姿勢で繰り出す拳の速度、それに加え相手の弱点に的確に打ちこむ精度。この両方が揃って初めて投げ技を習得する段階になる。その投げ技を学んだ後に今度は一点に重心を乗せず、相手に掴ませない回避の技能を学び、自分の体の動きを熟知すると重心の動かし方が分かり易くなる。さらに牽制、あわよくば致命的なダメージを狙う正拳突き以外にも、足技を組み込めるようになっていく。

 最終的にはかなりアクロバティックでトリッキーな挙動を組み込めるようになっていく。これが狼王武技の本懐と言う事になる。師範代のミラさんはほぼほぼその形ができあがっており、とても軽やかな体技の数々を雨霰と打ちこんで来る。


「ヴィエラ様、ユウゼン様は一体何者何でしょうか?」

「うむ。……この世界でも稀なる人種、転生者である事は我も本人から聞いている。しかし、それにしてもあの御仁は特殊な存在なのだと思うぞ」

「それは私にも見て取れます。しかし、それにしてもあの方の順応速度は異常の一言に尽きます」

「気持ちは分かるが、それ以前の問題だろう。お主もそれなりに長いだろうから転生者や転移者……“稀人”の事は知識に在ろう?」

「ええ……。私の記憶にある稀人の全てが“人間族”だったと記憶しております」

「そうだ。しかし、あの御仁は…“固有鬼種”だ。これがどういう意味か解るか?」

「申し訳ありませぬ。前代未聞である事以外は……」


 ミラさんはそれこそ新体操や器械体操の選手のように、バランス感覚に優れており軽やかだ。

 ヴィエラさんが片足にどっしり重心を乗せ、重い拳の乱打で相手を怯ませつつ、隙を逃さず超重量級の一撃を叩き込むスタイルとは異なる。ミラさんはその軽やかな身のこなしで回避と攻撃を両立。回避と同時に攻撃が繰り出され、信じられないような股関節の関節可動域でもって、視界の外からの奇襲を仕掛けてくる。特に怖いのが蹴り技の鋭さ。正拳突きを主にしているヴィエラさんとは違い、拳撃は小技に過ぎず必殺の一撃と思われる鋭い一撃は美しい脚から繰り出される超重い蹴り。

 クルクルと体を回し、その重心を腹の当たりに留め、遠心力と身体強化を行われたしなやかな脚の一撃。

 ……逆に言えば脚の一撃は大きいのだが、拳の一撃はそれ程大きくない。別に勝てとまでは言われてないが、ちょっと興味が湧いたのでミラさんが主軸にしている先方の粗を突く。ミラさんの大技、上段回し蹴りや中段牙突蹴り…胸を狙う鋭いヤクザキックにしか見えん技を回避する。特に牙突蹴りの方は隙が大きい。胴体の中心に重い一撃を加えられるだけに直線的で見切り易い。という事で、ミラさんの綺麗なおみ足を左脇に抱き込ませてもらい、僕からの攻撃を牽制するために打ってくる打撃を右手でいなす。そのまま、僕も重心を左下方にずらし、彼女の体勢を崩しつつ……。

 ここで思い通りにさせてくれないのが師範代なんだろう。ミラさんは体を浮かせ、脚での締め込みを敢行しようとして来た。なので、こちらも身体強化ありきの無理な旋回を敢行。僕の背側に体重を移動させつつ急旋回、ミラさんの体をそのまま訓練用に作った畳の部屋の床に叩きつける。


「そこまで!」

「まさか…ミラに勝ちますか」

「二人とも良い試合だった。……というよりも、ユウゼン殿は吞み込みが早すぎる。教え甲斐がないな」

「そんなこと言われましても」

「それよりもそろそろユウゼン殿を開放してやったらどうだ? ミラ。お前の自慢の脚技だが、ユウゼン殿にはそこまで効いておらぬぞ」

「ふええぇ……。まさか一本取られるとは」

「お前は癖が読みやすすぎるのだ。……普通の相手ならお前の奇妙な挙動に巻かれて上手く立ち回れずに倒されるだろうが、ユウゼン殿の観察眼は普通ではない。対応策を練らねばな」


 ちょっとムチっとした柔らかい脚であるけど、その筋力は流石に上位の魔物であるだけある。カリュエルさんの万力ハグの数倍は痛かった。絞まっていたのが首だったらヤバかったけど、右腕で脇腹側に流せたので致命的な一撃にはなり得なかったので良かったよ。アレが首で訓練試合でなければ首を捩じ切られていてもおかしくなかった程なんだよね。

 それだけではなく、身体強化を施していなかったら肋骨や背骨をやられた可能性もある。それに締め込むと言うだけでなく、鞭のようにしなるおみ足の威力は想像以上。右腕で威力を流したけど、脇腹に衝突した時の重みは相当だった。……それから割と本気で締め込んで来ていたと思う。肺の空気を抜きつつ、体の筋肉を締め込んで鎧の代わりにしなかったらホントに内臓までダメージ行ったんじゃないかな? 今を思えば、ミラさんやり過ぎ。


「なあ、ミラ。お前そこそこ本気を出していなかったか?」

「ええ。出していたわ。なのに負けました。ちょっとショックです」

「これでは私も勝てなさそうだな。少し休憩したらば次は私だそうだが……。彼の隙などは見えたか?」

「うふふ。それは見えていたとしても教えませんよ。貴女も私と同じ気持ちを味わうべきです」

「ぐぬ……。まあいい。私は私でやらせてもらおう」


 僕は連戦となるけど、今度はゼラさんとの模擬戦。

 ゼラさんはまた異なる戦闘様式で固定の体技を駆使してくる。柔らかな動の体技に重い足技中心のミラさんとは異なり、ゼラさんの方針は攻めて攻めて攻めまくる…という攻撃速度と手数で相手に反撃させないと言う物。正直、目が慣れるまでは何度か危ない時もあったが、目さえ慣れてしまえば特に怖くない。ただ、武術どころか武道の経験すらない僕には一回一回の回避が冷や汗ものだ。たぶん、ゼラさんは爪手甲を使う戦闘スタイルなんだろう。投げ技を組み込んで来ることは極稀で、拳の乱打と下方への振り抜きが多い。

 ゼラさんのスタミナが物凄い……。目が慣れないとヤバいようなラッシュを数十分もの間ずっと繰り出し続けている。

 ……が、それも限界がある。ゼラさんの拳の精度が徐々に下がっていくのに合わせて今度は僕のターン。回避に次ぐ回避、そしてまた回避。回避するだけでも結構疲れるけど、僕も僕でミラさん戦で見せてない技がいくつかある。あくまで格闘技漫画からの持ち寄りだから成功するかは微妙だったけど……。掌を前に出し、徐々に狙いが粗くなるゼラさんの拳を受け流す。最速状態だったらできなかっただろうけど、この速度ならいける。そして、ゼラさんの最大の弱点。前傾に乗った体重を支える軸足に意地悪な一撃。一時期、格闘技業界でも物議をかもしたあの技。カーフキックだ。すっごく綺麗に決まり、ガクンと彼女の体勢がブレる。そのタイミングに王手をかけるのが僕なのだ。かなりスタミナを削られているゼラさんは既に対応できる程の余力もないらしく、左フックを下方に流し、歯を食いしばり繰り出して来た右の突き上げを屈みながら掴みいぃ。決め手は、背負い投げーっ!


「グふはっ! うう……、負けたああ……」

「うむ。これは私でも勝てぬかもしれぬな……。本当に武術の初心者かどうか尋ねたくなるような技量を目をしておるが、どうなんだ?」

「前世含めて一度も人を殴ったことはないよ」

「人は?」

「うん。神にアイアンクローを……」

「貴殿は本当に恐れ知らずなのだな」


 流石に二戦連戦の後、さらなる上手のヴィエラさんとの模擬戦は苦しすぎる。ヴィエラさんも長の沽券をかけてまで戦う事はないだろうし、笑いながらそれは無いとながしてくれた。それでも彼女の手が汗でじっとりしていたのは隠せてなかったけど。冷や汗かいてるのもね。

 今日は武術の特訓で終わりそうだった。だけど、僕としてはけっこう勉強になったので、他の門下生たちの戦闘スタイルを見つつ盗める物はなんでも盗むぜ! 

 特に僕でも使い易そうだったのが、ゼラさんの拳撃。ゼラさんの乱打は無駄な動作を極限まで削ぎ落した完璧な動きだと思った。直ぐには無理だろうけど、あのラッシュは応用が利くだろう。

 まだ短く華奢な僕の腕や脚では自ら攻撃を繰り出すには向かないだろから、基本は相手の挙動を読んでからの隙を見計らってカウンターが一番効率がいい。効率はいいんだけど、受け身戦法って言うのはカッコいいかと言えば……普通。相手の攻撃をいなして無力化するのは見方によってはカッコいい。

 だけど、ヒーロー物のアニメや特撮って絶対に必殺技の一つや二つあるじゃない? 僕もその必殺技を覚えてみたい…なんて気持ちも無くはない。ライ〇ーキックとか、ゼアッ!と光線撃ったりとか。

 ……光線はまあちょっと違うけど、プロレス技でも何でもいいから派手な技を使えるようになりたいな~。でも、よくよく考えたら、僕のメインウェポンって……。まあいいや、せっかくヴィエラさんに教えてもらえてるし、これからは格闘技もそれなりに扱えるようになろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。