26ー大老竜ダイヤモンドドラゴンのお礼ー
嵐はまだ続く。これから半月は嵐の時期が魔物の森を支配するらしい。僕が転生してから130日。4ヶ月ちょっと経過した。
竜と言う生物は生命力が非常に高いらしく、負傷の深さにもよるが患者の竜達は数日も安静にしていれば軽くなら動けるようにはなるようだ。ただ、怪我は治っていても直ぐに以前のように動けるわけでは無い。我が拠点の医師であるナギサ曰く、血が足りていないのと、外傷は治ったように見えているがまだ内側は完全に治っているわけではないそうだ。なので安静にして欲しいらしいが、竜達は珍しい環境に興味があるらしく、落ち着きがない。
それから竜族の中でも位階の高い個体は、ある程度外傷が完治した段階で人の姿をとり、僕とコンタクトを取って拠点内の重要施設を見て回っていた。
「ここが王の宮殿というわけか。なるほど。異世界の叡智が様々に折り重なった好環境。大神の太守と魅惑の太守が入り浸るのも頷けるわい」
「あまり無理はしないでくださいよ。間違いなく貴女が一番重傷だったんですから」
この魔物の森は母権制が多いのか? 大神の太守であるヴィエラさん。魅惑の太守であるタマモさん。両人とも美しい女性だ。そして、我が拠点に助けを求めた東に座す金剛の太守ダイヤモンドドラゴンも女性だった。
その理由もちゃんとダイヤモンドドラゴンさんから聞けたけど。
なんでも太守をするような血筋は基本的に聖獣以上の血を受け継ぐ存在で、だいたいが親族に創造された存在の末裔らしい。この世界の親族は全て女神で、女神が自らの力を体現させた眷属を生み出すわけだから、必然的に女性になるというわけだった。
ダイヤモンドドラゴンさんは……なんというかモリッモリな女性だ。
ヴィエラさん、タマモさんとタイプの違う美人が続いたのだが、ヴィエラさんは体育会系美女。スタイル抜群で締まった肢体を惜しげも無く晒しているワイルド系。蒼銀の長髪を無造作に流しているのとキリッとした目つきもそれを助長させる。
タマモさんは妖艶系。若干タレ目気味で大きな目と泣きぼくろ。比較的小柄ながらムチッとした柔らかな肢体をしている。なかなかにご立派な胸部装甲もそうだが、キュッと締まった腰に主張の強い臀部……。これで魅了されない男は居ないだろう。
その二人とはまた違う……女神的美人だ。なんと言うか全体的にゴージャス。気の強そうな表情に締まった手脚をしているのだが、タマモさん以上にメリハリ聞いた体つきをしている。あと、大量の縦ロールを装備しているんだが、あの髪型ってどうやって作ってるんだろうか? そこが一番気になる。
「しかし、異界の神によりこの世界に転生した存在か。しかも歴代の稀人とは異なり、人間に転生することなく新たな種族に転生したか……」
「その原因も神族間のアレコレらしいけどね」
「しかも神族と交信できる強力な加護持ちと来たか。なるほどなるほど……それならばなっとくじゃ。強者を求める北の太守と、面食いの南の太守がここに入り浸る理由がのう」
いや、二人ともここに来る理由は酒と食事に気持ちのいい風呂とベッドだと思うけどね。
二人ともくれば必ず深酒するし、肉料理中心によく食うし……。そのまま泥酔して客間に運ばれ、起きるのはだいたい昼過ぎ。それから風呂に長時間浸かって、縄張りの管理を押し付けられているお仲間の誰かに連行されるんだよね。これがテンプレートである。
今はまだ真昼なので両人にも酒を控えるように約束させているから、ヴィエラさんは紅茶でタマモさんは緑茶。お茶菓子もサテュロスの調理給仕班が出してくれるから至れり尽くせりだ。
ダイヤモンドドラゴンさん……名前はサンドラさんと言うらしいが、そのサンドラさんは抹茶を好み、自分で抹茶をたてては口に運んでいる。もちろん茶菓子はなんちゃって和菓子。僕の知識からサルベージしたファットテール部隊の一部から、サテュロス給仕班が学んだ結果だ。もちろん洋菓子も作れる。乳製品が潤沢に得られるようになった今では、生菓子も作り始めているらしい。僕はあまり菓子を口にすることはないけど、ファットテール部隊やレオパード部隊には大人気ということだ。
「……その神族関連でサンドラさんにお尋ねしたいことがあるんですけど」
「ふぬ? ワシにか?」
「そうです。今回、ハルドエン帝国と争いになった理由をお尋ねしたいと思いまして」
「うむ……。今…思い出してもはらわた煮えくりかえる思いだ。我が眷属…我が子も同然の竜の子を攫い、飼いならそうなどと考えた輩が出たのだ」
「その仔竜は無事だったの?」
「うむ。攫われた幼子たちは全て救出した。それ故に大きな戦闘になり、ワシもあれほどの深手を負ったのだがな」
「出て来たのは勇者だけですか? それとも他の英雄候補も?」
「ああ、勇者だけでなく、他にもおったな」
「分かりました。……ふむ。ならそれこそ全力出しても大丈夫かな?」
魔物の森の上位者でもさらに上位の存在ともなれば、僕の漏出魔素が多少増した程度では小動もしないか。初対面のヴィエラさんは卒倒したし、初対面の時のタマモさんはガタガタ震えていて会話にならなかった。いつも腰のホルスターに納まっているだけの神装も鳴動している。神器は意志ある武器。自分が求められていることには強く反応し、役目をまっとうするその時を今か今かと待ち望んでいるかのようだ。
僕の持ち物では最も価値の高い物品でもあるし、いろいろ調べはしているが未だによくわからない。
まあ、僕が所有権をもっている“アークバイズsocomMK23”だけど、試し打ちした程度で本来の用途で使ったことは未だにない。その本来の役割をまっとうする時が近づいているという事だろう。真剣な表情で見つめてくるサンドラさんに一つ頷いて答え、僕もこの先ハルドエン帝国へ与える制裁についての会話は打ち切った。
……が、思い出したようにサンドラさんが掌をポンと打った。
完全に忘れていたが、サンドラさん含めた竜の騎士達を救った謝礼を出したいと言うのだ。いや、別にこのタイミングで出してくれる必要はないのだが、ハルドエン帝国への報復に関しても上乗せして出したいと言うことで、このタイミングで思い出したらしい。
「いえ、別に今その話をする必要はないのですけど?」
「いやいや、どのような立場であれ…どういった事案であれ…恩には礼を持って返し、対等を意識せねばならん。ワシの主義でな。払えぬような状況になり、焦げ付かせることだけはあってはならん。払える内に払っておかねばならんのだよ」
「そうなんですね……。それならお話しを伺いましょうか」
「うむ。まず、危急の時とは言えども前触れもなく大所帯で押し寄せた事の詫び、それからワシを含めた竜の騎士達の命を救ってもらったお礼。それに我らが素材を出そうではないか」
アランドール氏の蔵書で読んで知ってるけど、竜の素材と言ってもピンからキリまでいろいろある。古の竜の素材については詳しくないが、竜は古来より存在し、様々な分派が存在する。……直接神族によって生み出された存在の素材はそれこそ神代の秘宝の一つと言えるらしい。さすがにサンドラさんも直接神族に生み出された存在ではないので、そこまでではないという。
しかし、サンドラさんは古竜の系譜、魔宝石竜族の長。その素材となればかなりの価値になる。また、竜は定期的に脱皮を行うし、角や歯などが生え変わる種類も多く居るそうで。縄張りにはたくさん素材があるそうだ。
また、宝石竜の場合に限定されるが、体表の宝石殻は一定の周期で剥がれ落ちる。その宝石殻は武器鎧の素材として最高質の素材とならしい。流石に内臓や眼球、生き血などを出すことはできないが、場合によっては労働力などになりしっかりと恩を返してくれるそうだ。
「次にハルドエン帝国への報復についてだな。それに関しては貴殿がワシと打ち合うに至る力を持った勇者やその他と渡り合えるかどうかによる。ワシも同行し、この目で貴殿の力を見てみたい」
「それはしばらくあとですかね? ハルドエン帝国への報復については僕へ依頼を出した神族から声かけがあるはずですから」
「……それほど強く神族と繋がっていると言うのか? ワシとて神託を降ろされるだけであるというのに」
その辺はよく知らんけど光の神からはまだその時ではないと言われている。光の神も僕と交信するとそれなりに時間を空けなければ、次の交信が来ることはない。ただし、光の神からの神託だけならそんなことはないらしいのだ。僕と先程交信したばかりなのだが、直ぐに神託が降りてきた。それが先程の内容だったのだよ。
ハルドエン帝国は実力主義の多民族国家。どんな種族であろうとも実力さえあれば高い官位につける国家であり、下克上も頻繁に起きる。だからと言って内乱が常時起きているというわけではなく、国家としての利益を最優先する国風もある。このような国風なので、非常に国家繁栄に貪欲な国家なのだ。
その代の皇帝にもよるが、ハルドエン帝国は魔境を開拓し、国土の拡大を続けて来ていた。
その矛先が魔境の一つである魔物の森に向いたと言う事だ。魔物の森は幾度となく人類からの開拓の手をはね退けて来た。その魔物の森は太古から誰からも手を付けられていない資源が未だに眠っている。外縁こそ何度か似たような文明が手を付けた痕跡こそあれど、魔境はそれら文明を何度も押し返し拡大している場所だ。それは魔物の森も同じ。東から南にかけては大きな文明国家が隣接している範囲ではあるが、魔境の危険性からどの国も現状維持がやっと。また、国家間の関係が必ずしも友好とは言えない。……僕から言わせてもらえば、魔境であり魔物の領域であるこの森に手を出したのは、愚かとしか言いようがないよね。
「あ、ハルドエン帝国への事に関してはお礼は要りません。その件に関しては神族から確約のある謝礼があるので」
「神族から?」
「ええ。これを見てもらえばわかると思いますが、僕は神装を所有しています。そして、貴女と戦った勇者が携えていた剣の柄にこの宝玉が嵌っていたでしょ?」
「……うむ。見覚えがある。そして、何故その宝玉を貴殿が所有している? それは神器の御霊。神族が神器を生み出す際に自らの一部を切り離し作り出すと言われている神威の疑似核だ。貴殿はそれを持っていてなんともないというのか?」
「そうですね。僕は二つの加護を持つ者ですから」
「な……。ダブルギフトだと? そんなバカな……」
そうとう驚いたらしい。女神的美人さんが驚愕から亜然としている。
詳しい事は今は聞かないけど、神の加護という物を複数持つことはとても奇異な現象なのだと理解した。サンドラさんは目頭に手をやりながら、ドカッと椅子に座りサテュロスが用意した抹茶を飲み下す。そのサンドラさんと話について来てるけど、口を挟むタイミングの無い二人の太守に僕のステータスを開示する。ステータスボードは基本的に自分しか見れない。鑑定系のスキル、もしくは鑑定魔法で覗き見ることはできるが、その場合は完全なステータスを見ることはできないのだ。なので僕はステータスを開示し、三人に確かめてもらう。
僕にはこの世界で大地の豊穣と生物の繁栄を司る女神…大地地母神の加護が乗っている。それが“剛健の加護”。あらゆる状態異常を無効化し、呪術を跳ね返すことができるという破格の加護だ。
そして、僕をこの世界に僕を導いた地球の神族である光の神がくれた“道標の加護”。この加護は先行きを明るくし、あらゆる物を透過する指針の加護。氣類感受性と運気に補正の入る下級の加護だ。
「……。いや、それは間違いだ」
「どういう事?」
「貴殿、三つ目の加護があるだろう」
「この“???の加護”ってやつですか?」
「さよう……。どの神族かはその神族が開示しておらぬ故にこちらからは判断できぬ。しかし、“加護”としっかりと記されておるではないか。つまり、貴殿はトリプルギフト。この世界における普く者が憧れる天上の御心を三柱分も授かる“特異点”と言える。貴殿は何気なく生きておるようだが……、ワシは断言しよう。お主の采配で世界が揺り動く。必ずだ」
「それはどうして?」
「話せば長くなるが……覚悟は良いか?」
物っ凄く長い話だったけど、要約するとこういう事。
この世界が創造神により創造されてから長い時間がたった。この世界は創造神が思ったような発展をせず、淀み…停滞が長らく続き、神力の行使もままならない程度には悪循環に苛まれている。それは現在も同じ。その世界の歪みを憂い、創造神以外の神も他界の神に救済を求め、投げ込んだのが異世界転移者や異世界転生者と呼ばれる。この世界ではそれらを纏めて“稀人”と呼び、神々の使徒であり、新世界の到来を告げる“特異点”という事になる。
その稀人達には力の差が明確に存在し、基本的には加護が一つ。稀に二つ……。そして、神族の思惑か…はたまた気まぐれ故か? 僕には三つの加護が与えられている。稀人はこの世界の住人とは違い、加護の取得限界が無いとは言え、三つの加護を持っていた稀人は歴代でも数える程。それらは一時代を築く強大な力を秘めているそうな。なんか壮大な話になって来たけども……。僕はそんな面倒なことはしたくないんだよな~……。




