21ー大妖狐の謝罪とお詫びの品ー
転生後おおよそ70日。相も変わらずマスコットな僕。成長期はいつ頃来るのか…待ち遠しい。
そんなことを考えながら魔晶湖の遺跡をリフォームし続けている僕だったのだが、今日は珍しい来客があった。漸く落とし前の儀式が終了し、禊が終わったのかな? 南方に座す魅惑の太守ことタマモさんが娘さん5名を引き連れて正式に謝罪をしに現れた。
今回はいつもセットでいたヴィエラさんの姿はないので、完全に南に縄張りを構える太守としてのメンツから何かしらの要件があるのだろう。
土下座…とまでは行かなかったが、タマモさん含めた6名は深々と頭を下げ、今回の迷惑行為の謝罪を丁寧にしてくれた。実際問題だけど、僕の対応が比較的温厚と言うだけで実際の所は、報復攻撃を受けてもおかしくない事案だったのだ。他の太守の縄張りに同じことをしたらと考えたらば、凄惨な未来も考えられた。
「この度はまことに申し訳なかった。大神の大狼からも強く言い含められたが、貴殿とは敵対する意思は微塵もない。元から我々は貴殿とは縄張りぐるみで友好的な付き合いをしたかったと考えていた。謝罪の意味と、遅くなったが挨拶の品としてこれらを受け取ってもらえると嬉しい」
タマモさんが持って来たのは各種山の幸や鉱石、宝石の類だった。それからなんでか娘さんのお1人がその品々の前から離れないのだけど? もしかして娘さんも入ってる?
マサムネが耳打ちして来たところによると、ようは“人質”という事だ。
耳はかなりいいようで、タマモさんにも聞こえていたらしく、深く頷き真剣な表情で答えてくれた。先程も言ったが間諜を忍ばせた縄張りの主の性格によっては、全面戦争になり得た可能性すらあった事案……。タマモさんの部下たちはかなり練度の高い妖術師ばかりなので、かなり位階の高い魔物でないと気づくことは無かったのかもしれないが、今回はその驕りと判断ミスが最悪の事態を巻き起こしかけたのだ。
僕がかなりのお人よしと言うだけで、魔物の社会であるなら悪即斬ともなりかねず……。眷属の多くを失う事は言うまでも無く、そのまま勢力を維持できなければ縄張りを奪われ妖狐の一族は路頭に迷う事になかっただろう。ヴィエラさんの行ったお仕置きは…確かに私怨も多分に含まれていたが、その未来を考えたらば相当に軽い罰で済んだという事だった。
「本来ならば、アチキもこのようなことはしたくないが、貴殿の実力と仮に起きたかもしれない未来を掛け合わせると…な。貴殿の人徳は素晴らしいと思う。しかし、腐ってもアチキは南方に座す魅惑の太守タマモだ。一族を護るため、メンツを護るため、今回の血迷い事に対しては相応の責任を負わねばならん。それが謝罪の品と一族の者を人質に出すと言う事や」
「母が本当にご迷惑をおかけしました。本日よりお世話になります。どの様な労働も謹んでお受けいたしますのでよろしくお願いいたします」
「まあ、そういう事なら受け入れましょう。……それではもう一つの話をちゃんとしましょうか?」
「ん? いや、今日の要件は終わりやで?」
「いやいや、なんで僕らと友好を築こうとしたんです?」
こいつもかーーーーーい! ……と、心の中で叫びたい衝動に駆られたが、一応はメンツもある会談だ。ここはグッと抑える。
まずは真面目な理由。
きっかけはペロ助。ペロ助の戦闘力と大物を漏らさず狩る嗅覚に目をつけた。食料が潤沢で、防衛能力も高い。タマモさん達の妖狐派閥は物理戦闘力が非常に低い。術特化個体が多く、相応に高位の妖狐でもなければ一騎当千の力を得ることは稀だ。現状、タマモさんの直系であるお嬢さん達と、数名しか個人戦を行える強戦力は存在しない。そんな縄張りなので、近隣にまだどことも友好を築いていない縄張りと主が出現したならば手を組みたいと考えた。
そんでもって…本音。
ヴィエラさんが僕の拠点に来るようになってから、タマモさんはしょうもない悪戯心が沸き上がった。それと同時にヴィエラさんから酒の臭いが……。間諜部隊のリーダーである個体はすぐさま拠点の調査を行おうとした。しかし、ヴィエラさんが高頻度で来ているので内部調査はできず、外縁からの覗き見に徹し……美味しい食事と酒の情報が確定事項となったのだ。五尾のキツネはもちろんタマモさんに報せたのだが、僕が氣の大波を放ちかなりきっつい威嚇を行う。タマモさん達は大パニック。僕の実力はこれまで揶揄い続けていた狼王ヴィエラを軽く超える。そんな相手にこそこそと情報を嗅ぎ回っていたことがバレてしまった。これは……終わった。と思った直後にヴィエラさん達から強襲を受けたらしい。
「見方によっては…気に入らないがヴィエラに助けられたことになるのだろう。貴殿が攻撃の意志は持たずともアチキらからしてらば死の宣告に等しい物だったからな。おかげでなかなか酷い数日を味わったがのう……」
「それは自業自得でしょうが……。まあ、それはもう済んだこととして。試食してみます? 交易というか、取引の内容次第では僕達も来訪や食品の輸出の許可はしますから」
「ほ、ほう……。それは魅力的な提案…だが、アチキらの縄張りに貴殿にとって目ぼしい物があるかどうか」
「いえ、一つ。これだけでも量があれば滞在は許可しますよ」
「そんな石ころでかえ?」
「「「み、ミスリルーーーーーーーーーーー!」」」
いつの間にか現れていたレオパード部隊スーパーマックスノー班の面々が現れていた。その後に続くようにレオパード部隊が全員出て来た。スーパータンジェロ部隊とブラックナイト部隊の面々も、仄かに蒼白い光を放つ岩塊に目が釘付けだ。僕も気になって鑑定して分かった。これが探していたもう一つの素材。魔法金属とも呼ばれるミスリルを多く含有した鉱石だ。
これをヴィエラさんが持ち込んでくれるアダマンタイトと、体積比で見て同量運び込んでくれれば滞在を許可。それに南方の縄張りで不必要な資源の情報をもらえたらばその分だけ食料を融通する。
タマモさんもポカンとしていた。南北に縄張りを構える魔物達からすると、鉱石は全く恩恵の無いクズ物としか考えていないらしい。むしろタマモさんからすればこの鉱石は面倒な魔物を呼ぶことがあるので、石としては綺麗だが厄介者程度に考えていたようだ。
「この石ころを食らうために鉱石トカゲが現れるのだ……。アレは外殻が堅く、簡単には倒せん。アチキや娘の一部なら簡単に倒せるが、多くの妖狐には厄介な敵なのだ。宝石かと思って持ち込んだが……。そちらには使い道があるのだな?」
「ええ……。この鉱石は目の前にいる小さい彼らが研究している物の材料の一つと目されていた物の一つです。人族文明なら物凄く高価な品で、それを求め争いの絶えない鉱石なんですよ」
「……アチキらからすればただの石ころやからのう。これで腹が膨れる訳でもない。美味な食事が得られるわけでもなし。無価値の石ころだったのだが」
「大きく価値を持ちましたね。採掘権を譲ってくれるなら、相応の待遇をお約束しますけど」
僕のこの発言にタマモさん含め、娘さん達は大歓喜。確たる戦力を持つ縄張りの主との縁を結べただけでなく、これまで困らされて来た事案がいくつか同時に解決したのだ。それは嬉しいだろうね。会談に同席していたマサムネも頷き、ペロ助に関して言えば鉱石トカゲと戦ってみたいと言う。ただ、僕はそれだけでなく、もう一つかなり重要な素材を見つけているんだけどね。
これに関してはタマモさんとマサムネだけを交えて話を詰めたい。ミスリルよりもそれだけ危険な素材だからだ。特に人類種関連で面倒に巻き込まれそうな素材になる。
なので、まずはタマモさん含めて6名を僕達の拠点に案内する。彼女らには新たに新設した来客エリアでくつろいでもらう。その客間の奥の応接室でタマモさんだけ呼び、マサムネも交えてしっかりとその話だけしておく。ヴィエラさんが治める北の縄張りは人類種の中でも比較的害の少ないエルフ系統が点在するだけで、人類種とのいざこざは特にない。しかし、南方方面は“人間”が治める大きな国がいくつか魔物の森と隣接している。この素材“襟草”は生えている位置によっては大きな波紋に繋がるだろう。
「なるほど…な。貴殿はかなり詳しい鑑定魔法が使えるのか。その襟草とやらは人間種が求める伝説の“霊薬エリクサー”の材料の一つという事か?」
「そうです。必要不可欠な素材の一つですね。この襟草はどこに生えていましたか?」
「それに関しては大丈夫だ。この襟草は貴殿の縄張りと隣接する雑木林に群生している。このような奥地まで人間種が入り込むことは無かろう」
「それならいいですが……。ちなみにミスリル鉱脈は?」
「それは縄張りの中央に露出している場所が点在している。少し地面を掘れば露出するだろう。ミスリルに関しても危険と考えた方がいいだろうか?」
「見つかれば、確実に森は荒らされますね」
どこからかキセルを取り出し、火を入れた。良き隣人を手に入れたのは喜ばしいが同時に面倒な事実も知る事となったからね。感がることは多いだろう。元から妖狐は近接戦闘には適さず、集団戦闘が基本。そして、物理攻撃力の低さからどうしても長期戦にならざるを得ない。人化の術を使える三尾以上の個体になれば単騎での行動もそれなりに行えるようになるが、存在進化し神の姿と呼ばれる人に近い体へ変身できるようになる七尾以上は稀だ。そこまで長寿になる個体も少ないらしいし。
タマモさんは大妖狐と呼ばれるだけあり、毛並み美しい九本の尾をもっている。妖艶な肢体に露出の多めな独特な装束も相まって風格は十分だ。……このキツネもかなり残念な性格ではあるけど。僕らとしてもしてあげられることはあまりない。彼女の縄張りの事は彼女達でどうにかすべきなのである。縄張りを捨て、こちらに逃げ込んで来るならば、今後の関係性次第で僕らは温かく迎え入れようとは考えている。それ以上の事はしてはいけない。彼女はかなり大きな集団の長。いきなり最悪のシナリオを叩きつけるのは、彼女のプライドを傷つけるし、メンツにも大きな傷を入れる。ここが僕達3人だけの限られたメンバーだけしかいない場所でも、そういう事はちゃんとしておくべきなのだ。
「うむ。……今は考えても仕方ないな。その時次第で事を動かすだろう」
「分かりました。では、そろそろ料理の準備もできたでしょうから、宴会場へ案内しましょう」
縄張りの存亡に関わる重要な話の後だと言うのに……。このキツネも現金なヤツだ。
……いや、なんでキツネの集団に混じってヴィエラさん達がいるんですかね? もう、彼女がいつ来ても驚きもしない。いつも過剰なまでのお土産持参だし、最近では“抱っこ料”なる追加料金を添えることで、何とか僕を一日一回は抱き上げないと気が済まないらしいのだ。その環が伝播しミラさんやゼラさんまで毒されつつある。そこまでの事か? とも思うが、対価をもらってしまっては仕方がないので、甘んじて受け入れているが……。
ヴィエラさんは僕がプレゼントした?首輪をかなり気に入っているようで、ここに来るときは必ずつけている。そして、何故かタマモさんも例の拘束具の首輪をずっとつけているんだよね。ヴィエラさんもとりあえずのお仕置きは終了という事で、首輪の管理権を放棄していた。つまり、管理者のいない拘束具なのでただの首輪だ。デザインも悪くはないが、別にその首輪をつけ続ける必要はないと思うのだけど、タマモさんもそれなりに気に入っているようなので……。このことは何か深みに入っちゃいけない気がするので触れない方向で行く。こういう勘のような物は大切だ。
「おお! 新作の酒があるではないか!」
「ヴィエラさんは飲み過ぎに注意してくださいね? いつもみたいなのはご遠慮願いますよ」
「う、うむ……。自制を試みる」
「なんじゃ狼の。お主はいつも酔っぱらうのか? 相変わらず酒には弱いのだなあ」
「チっ。別にお主には関係なかろう。……さあ、気を取り直して飲むぞ!!」
今回増えたのはレオパード部隊がずっと研究し、製作を試みていた蒸留器が完成したので作り上げた酒だ。僕の古い記憶からサルベージして何度も試作を繰り返していたのは、異世界の自然環境と地球の自然環境の摂理が若干違うから。何度もガラス管やガラス容器を溶かしたり、温度差による熱疲労でガラスが弾けたり、酒気が充満した室内で火魔法を使って大爆発したり……。レオパード部隊の研究班はそれなりに苦労していた。
それから今回のブランデーやウイスキー、焼酎などの蒸留酒製作の功労者の一人が僕になる。絶妙に調整した熟成促成魔法陣と空水対応加圧魔法陣が大きな成果を出した。ワインやウイスキーなどの熟成に一役買っている。
……美味しいと飲んでくれるのはいいけど、ヴィエラさんは結局自制できずに潰れた。それから自分はそこそこ強いとヴィエラさんにマウントを取っていたタマモさんもべろんべろんになってしまっている。お酒は適切な量で飲んで欲しい。




