13ー今の所外に出るつもりはないけれどー
お疲れ様です。転生後、活動開始からおおよそ一か月。30日程経過した。
僕らが異世界に不自然な転生をした直後に外敵を掃討。その外敵であったゴブリンの巣をそのままリフォームして自分達の住居へと作り変えた。その当時は現在地がどのような場所かはよく知らず、とにかく生存のために食料確保と危なげない居住施設を設営する方向に全力を投じた。
さらにそこから10日から15日経過した頃に大きな変化が。ある程度は周辺のマッピングを行い、地図情報が完成し始めた頃に例の遺跡の発見と、“魔術師アランドールの隠し部屋”が見つかった。……おまけとして神器とか聖遺物の類の一つを僕が破壊し、僕がそれを使わせてもらっている。我が家のメンバーにはあまり気にされてはいないけど。
「それにしても凄い範囲をこの短期間で良くもまあ……。資源分布とかはざっくりだとか言ってたけど、強力な魔物の縄張りだったり、地形や環境なんかはかなり綿密に書いてあるよね」
「ですな。クレステッド隠密部隊は戦闘には適しておりませんが、情報収集能力だけに関して言えばアカメカブトトカゲ特殊部隊の遥か上の能力を持つでしょう」
「それよりも……。これってマジなのかな?」
「あまり認めたくはありませんが、彼らが嘘を吐くとも考えられません。彼らはとにかく事実に忠実ですので」
それはよくわかる。ただ、僕やマサムネが仕事を振らないと何もしないのも少し問題ではあると思うんだよね。レオパード部隊やファットテール部隊程ぐいぐい行く必要はないけど、もう少し考えて行動してほしい。
クレステッド隠密部隊のヒノエとキノトは双子の兄弟だ。当時僕がバイトをしていたペットショップで売られていたクレステッドゲッコーが産卵した。オーナーはエキゾチックアニマルやアクアリウムなどは好きだし販売はするけど、繁殖して数を増やしたり系統育種などには興味が無かった。そんなオーナーだったから僕が卵をもらってもって帰り、孵れば御の字程度のつもりで管理したのがこの二体になる。
前世でもケージの中でジッとしているから存在感が希薄なヤツらだったけど、こっちの世界に来てもかなり存在感が希薄な兄弟なのは変わらない。ペット部隊の人員管理を頼んでいるマサムネに常駐任務を与えるように頼んでからは、拠点内の警備は二体の仕事だが、それ以外の時間はどこで何をしているのかよく知らない。本当に不思議なヤツだ。
「僕らの拠点は“魔の森”と呼ばれる人類未踏の危険地帯。接触を持とうとは考えていなかったけど、これはなかなかだな。一番近い何らかの亜人が住まう集落が直線距離で見ても200㎞……。それだけならまだしも僕らの縄張りの外って、かなりヤバい魔物の縄張りで囲われてんじゃん」
「逆に言えば何故かこの地点だけはその強大な者達でも近づかない何かがあるのでしょう。それに関しては……」
「例の遺跡と遺跡の中心にある“無の魔晶石”が原因だろうね」
この辺りの事はレオパード部隊の錬金術師や開発班がいろいろ調べてくれた。僕が砕いた“神聖剣ブリュンヒルド”が刺さっていたあの魔晶石は大気中の魔力を旺盛に吸収し、ランダムで属性付きの魔晶石を発生させるという代物。言わば魔晶石の親玉のような物らしい。それから余談だけど、無の魔晶石に莫大な属性魔力をねじ込むと、その属性に対応した魔晶石に早変わりする。これはアランドール氏の研究レポートに記されていたのでやってみた。いろいろ便利な物だよね。
また、この無の魔晶石は曲者でもあり、『旺盛に魔素を吸収する』と言う点に大きな難点がある。強大な力を持つ魔物がこの周辺に近寄らないのはそれに原因があるようなのだ。
無の魔晶石は高密度の魔素を吸収すると肥大する。この時、無の魔晶石は指向性を示し、魔素の密度が高まれば高まる程外部から多くの魔素を吸おうとするらしいのだ。つまりは僕が聖法術に卓越していなければ、僕もガンガン魔力を食われたことになる。僕と僕の庇護にある魔獣人族の皆はプロテクトが掛かっているようで、何の問題もないようだが……。
「あのゴブリンの集落は何で無事だったのか凄く謎だ……」
「それについては考えても仕方ありますまい。それよりも今はご近所づきあいをどうするかを考えるところですな。それから主殿が計画している家畜の種を増やす計画も、それに大きく関係してきますぞ」
「それね……。あんまり縄張りばかり気にしても仕方ないから、思い切ってご挨拶するべきなのかな」
「その場合はわたくしが先方へあいさつに向かいます。主殿は腰を落ち着けてこの地を守護くださいませ」
「仕事を任せすぎな気もするけど大丈夫?」
「なんのなんの。これしきなんの問題もございませんぞ」
マサムネが有能すぎる件……。
このマサムネは前の飼育者の管理が悪く、ダニに取り付かれて片目を失ってしまった。その奥さんのシズカは脱皮不全で右手の指が全部壊死。このようにつらい目に遭ってから、僕が働いていたショップに下取り出されたのだが……。その当時はかなり状態が悪く、生き残らせるのもそれなりに厳しいと思われていた。それを僕が格安で買う形で引き取り、気長に治療を続けて生き永らえたのだ。……結果的に僕と共に死んでしまったわけだけど。
そのマサムネは僕に強い忠義をもってくれており、明らかな献身の念が見て取れる。そんなマサムネだからこそ、僕も頑張り過ぎで潰れて欲しくはない。だから、もう少し彼の待遇についても考えてみよう。
「だが、周囲の猛者が我らに敵対する意思を見せた場合はどうするのだ? 現状、摩訶不思議な力を操る主殿とペロ助ニキ以外は対応不可だぞ?」
「だからこそ主殿には本拠で腰を据えて頂きたいのだよ。外部での折衝はわたくしや貴殿が行うのが良いだろう。逃げることくらいはできるだろうからな」
「むう……。あまり重責を背負いたくはないのだがな。しかし、マサムネ殿に任せきりもならんか。……ペロ助ニキには頭を使う労働は向いて居らんし」
苦笑いしているマサムネ。その対面に座り、両目を閉じながらため息をついているアカメ一号。
まさにそれなんだよね。僕らの陣営には対人…いや、対外に対しての折衝に適した存在が枯渇している。僕を頭数に入れてもマサムネとアカメ一号、ミギワとナギサだけなのだ。これだけ居ればいいと思うだろ?
そんなことはない。
僕はマサムネの言う通り、強大な力を持つ魔物がいることを知った今、本拠地かその周辺に腰を据えた方がいい。マサムネとミギワに関しては同等の統率能力と管理能力を持つが、ミギワは現場との摩擦低減のため、日がな帳面仕事に拘束されている。主に在庫管理と、この拠点内の規則を管理してもらって居るから……。こういう仕事は僕もやっているが、僕よりもミギワの方が何かと効率的にタスクを回す。なので割合できにはミギワ七割に対し、僕三割という配分。ミギワはこの役回りから外せない。ナギサに関しては現在、アランドール氏の書籍を熟読して医療に関してを猛勉強中。この拠点のヒーラーでもある彼女が医務室に詰めることは多く、そのまま医療関係は彼女の管轄に納まっているのだ。
「ペロ助ニキは脳筋だしな」
「家内のシズカはあのような性格なので交渉事はさせられませぬ。わたくしの代わりに拠点のシフト管理は行えますが……。それも多少ムラがあります」
「一見そういう事ができそうな太陽も超天然のドジっ子体質だからね。外との接触には出せないよな」
「他の皆は……自由人過ぎる。アカメ二号殿と子供達は生産班の素材採取を請け負う御用聞きと化しておるし……。ヒノエとキノトは指示した仕事は完璧だが、考えて働かねばならん外交など務まらん……。詰みましたな」
「おう。詰んだな」
「うん。まあ、現状は僕達三人で何とかするしかないんじゃない? 拠点に持ち込まれた外部の情報の精査や考察は僕の方で受け持つから、二人は情報の探り出しとつかず離れずの付き合いを心がけてほしい」
「御意」
「承った」
まあ、最初からなんとなく解ってたことだよね……。
今のところは外の世界に出て行くつもりは特にない。僕達が住んでいる拠点は僕が居ることで非常に濃い環境魔素に満ちており、巨大な無の魔晶石と均衡を取っている現状だ。生態系を大きく崩すようなこともしていないし、僕達という一勢力の自給自足だけを考えるならば、現状でもなんとでもなる。周囲を高い山々に囲まれ、最短距離にある人型生物のコロニーは直線距離で300㎞以上。僕らの拠点を囲っている山には全て主が住み着いており、縄張りを過度に荒らさなければたぶん向こうも触れては来ないだろう。
鉱産資源や食料資源、飲み水もしっかりとある。唯一問題なのは岩塩鉱床が枯渇したら塩分が手に入らなくなるという点だけど……。アカメ一号の話ではアカメカブトトカゲ特殊部隊が採取してくる岩塩の鉱床はかなり潤沢らしいので、この数を養う程度では千年単位で枯渇はないだろうと言うし。余計に外へ足を向ける必要がなくなったな。
「いやー……。それがだな? レオパード部隊の一部が採取依頼を出してる鉱石の種生産地が、実はとなりの主の縄張り内にあるのだ」
「まさか外縁とかじゃなくてど真ん中とか?」
「そうであるな。その鉱石は“アダマンタイト”という。暗い緑色をし、凄まじい硬度と重量をしておる希少金属だそうだ。アランドールの著書に記されていたらしい」
「それって必ず必要になるの?」
「我は渋ったのだがな……。なんでも以前に主が破壊した竜の機械の一部がそれでできているらしい」
「あちゃー……。それはめんどくさい」
「うむ。という事で、我が貢物をもって物々交換して来ようかと考えておるのだが、問題ないか?」
「できるだけ荒事にならないように頼むよ」
「それは当然。こちらに害が出そうならば取引はせぬよ」
ドラゴンゴーレムの件は危急の問題ではないけど、危険物を扱っていると言う点では、この問答自体は早めに解決しておく必要は十二分にあるのだ。その一部でも手がかりが見つかってしまった以上、僕が無視することも難しい。何よりもベリーマッドなサイエンティストさん達をいつまでも言葉で抑え込むのは難しいのだよ。
何分それだけのバイタリティとアクティビティと、面倒なことに暑苦しい程の情熱を併せ持つ彼らの事だからな。僕らが段取りを考えてもそれを無視して凸しかねないのだ。それはご近所付き合いの観点で見ても最悪の行動となる。隣の家の庭に良い野菜が作られている菜園があるからと、勝手に収穫して良いわけじゃない。むしろ一発赤色灯案件。だから、早急に動きかつ穏便に事を済ましておかなくてはいけないのだ。
「苦労を掛けるね」
「構わぬ。その分の報酬や生活の保障を受けているのだ。我らもその恩義を返すべく働かねばならんだろう。それでは準備をしてくる」
「よろしく」
アカメ一号が会議室を兼ねている食堂から退出するのと入れ替わりに、魔導師のローブっぽいいでたちになっているスーパータンジェロ一号が入室。その手には何か事細かに書かれた木片があるので、彼も報告に来たのだろう。マサムネは関係してこないだろうけど、ついでだからとスーパータンジェロ一号の報告を聞くつもりのようだ。
スーパータンジェロ一号は錬金術師を天職に薬師や開発者、魔道具職人などとサブジョブも多く頭の良さが抜きん出ている個体である。前世では何度かケージから脱走してペロ助に食われかけた前科持ちだ。
そのスーパータンジェロ一号が持ち込んだ報告の軸は、ドラゴンゴーレムや魔法防除に使われていた素材の事。アランドール氏の著書や魔道具、機材を上手く活用しているようで、かなり細かく分析していた。その組成や組付け方、加工の手順方法、どうして魔力を阻害するのかなどなど。事細かに順序だったレポートは感心する程のできだったのだが……。なるほど、これがアカメ一号を困らせた原因か。
「この“特定不可能”って書かれてる素材を調べてるんだね? 複数あるけど」
「おう。アランドール氏の魔道具を使ってかなり細かく段階を踏んだ解析作業を行ったんだ。その結果、いくつか俺達が見たこともねーし、ご主人の知識にもねー素材が上がった。その内の一つで、一番含有量の比率が高い素材をアランドール氏の著書の中に似た素材の記述がないか調べに調べたんだ」
「それで可能性が高いのが“アダマンタイト”ってことか」
「ほぼ100%アダマンタイトだと俺は見てる。だが、ちゃんとピースをはめ込まねーことにはジグソーパズルは完成しねーだろ?」
「分かってるよ。今、アカメ一号がそのアダマンタイト採取のために動いてくれてる。それよりも、他の特定不可能素材の目途はたってるのか?」
「一応…な。だけど、仮にそれが正しくても仲間を危険な場所に行かせんのに、確実性が欠片もない賭けはしたくない。そこは俺も理解している」
スーパータンジェロ一号はマッドなメンバーの中ではそれなりに理性的なヤツだ。まあ、何度かペロ助に食われかけて体に大きな傷を負っている彼だからね。危険な賭けが命の危機に直結しかねないリスクは感じ取っているんだろう。そのスーパータンジェロ一号の残りの報告を聞きつつ。この先の展望を考えておこう。これからもそういう事案は増えていくだろうから。




