12ー神からの助言と思わぬお宝ー
光の神曰く、この世界の神族が下界の住人を手助けする場合には、かなり厳正な審査と特殊な条件をクリアしなくてはならないらしい。神本人がいちいち過干渉してアレ、コレ、ソレ、ドレと、無闇に引っ掻き回すのは規則違反となる。まあ、直接手助けできないだけで、神族は下界の住民を助けるため、条件付きで神器や奇跡を手渡すことができるらしいけど。
その一つが僕が先ほどぶっ壊した“神聖剣ブリュンヒルド”だった。
このような武器屋道具は使い手が限られる。そして、この世界で救世の使徒として神より任命され、神器を用いて戦う存在が勇者や聖女などと呼称され、様々な分野に強力な力を持った者が選ばれる。神が創り出した神器により求められる天職も異なり、厳正な審査及びそれ相応の試練を対象者が乗り越える必要がある…らしいのだ。
『君はそのブリュンヒルドだった物を作った神族に、神敵となるように誘導されていたんだ。その内、君を討伐するための勇者が下界で任命され、さっきのブリュンヒルドを携えさせて君の所に送り込もうとしていたわけさ。多分、余程の事がないと君を倒す事はできないと思うけど……』
「ふ~ん。でも、それがどうして世界の主導権を握ることに繋がるんだ?」
『それは非常に言いにくい事なんだけど……。神の世界にも功績による位階の上下があるのさ。それだけではなくて、世界の運営に関わりやすくなるって言う最大の利点もある。一応、世界のために動いたってことになるからね』
「それに巻き込まれるのは非常に鬱陶しいな……」
光の神から嘲笑するような楽し気な雰囲気が途絶え、怒りに声が震え始めていた。
まあ結果的に見れば、僕が自分で敵対勢力の手数を潰したわけか。やっぱ神と言っても悪い事はできないよな。因果応報ってあるもんだよね。それから何故僕に神器だった物を所持していてほしいかと言えば、普通ならば神器は資格の無い者には扱えない。しかし、資格の無い者とは言え僕は神が作った物を破壊し手中に収めた。この段階でその神器は神とのリンクが途切れ、神器に釣り合いのある英雄を選べなくなってしまう。何よりも僕に所有権が移っている状態らしい。また、僕はその不正をやらかした神の被害者に当たるわけで……。言いにくいがお詫びの品の代わりなのだそうだ。
この世界の文明物に限定はされない。尋ねてみたらそう言う事なので、可能かどうかを確かめてもらい、細かくお願いして造形してもらった。造形した神族は光の神。なので、光の神の加護が搭載された聖なる魔法の“銃”だ。固定砲台もできるし、機動術法攻撃にも対応したハンドガンタイプを採用。そんでもって、僕が望めば僕の魔力や聖氣を糧に変型する。これぞ神器だよね。
『モデルはsocomMK23。だったよね。こんな感じ?』
「ええ。ありがとうございます」
『うん。それじゃ、これで要件は終了だね。……最後に僕からのサービス。聖剣の台座の裏手の壁、砕いてみなよ』
「台座の裏手の壁……。分かった」
『じゃ、引き続き、君の新たな生に幸多からん事を祈っているよ』
僕が光の神との交信を終了させると、時間が止まっていたように固まっていた僕の仲間達が動き出した。本当に時間が止まっていたようで、彼らは僕が握る大口径ハンドガンの存在に、大きく口を空けている。それもそうだよね。砕けてしまった柄の中心に嵌っていた宝石だけになっていた剣が、いつの間にか別物になってたわけだから。
それでも僕の周りでは常識外れのことが起きることは毎度のことと思われているようで、特に追及されることは無かった。
ただ、その後に僕が行った行動には、同行しているメンバーの全員が疑問を持ったようだ。特に護衛のシズカは制止の声をかけてくるが、これは光の神からのお告げのような物。これはやっておくべきだと思う。その事情も正直に話し、魔法銃のsocomMK23に風魔法の“エアロショット”の魔法を添着したマガジンをセットし……かなり威力を抑えつつ壁を撃ち抜いた。
「なーる……。アタイらを転生させた神さんからのお告げな。確かにこんな場所はそうでもないと気づけんよな。こんな場所なら特に」
「確かにそうですね。これは……書斎? いえ、魔法の研究室でしょうか? ……そして、これが部屋の主のなれの果て…ですね」
僕と共に部屋に入って来たメンバーにより、この部屋の全様はすぐさま明らかになった。この部屋は先ほどの聖剣を引き抜けず、どうにかして聖剣を利用するための研究をしていた者の部屋だったようだ。こんな場所での孤独な最期がどんな物だったのかは……。想像もしたくない。空間が隔離された場所だったからか、ミイラはかなり綺麗な状態だ。誰かは知らんけど、どんな存在であろうと故人である。あとから湖のほとりに埋葬しておくことにした。
この空間は僕達が今生活している空間に繋がっていたらしい。多分、部屋の主が亡くなってからだと思うけど、奥にあった階下に降りるための階段は落盤で埋まっていた。だからただの洞窟のように見えたけど、実際はあの遺跡をクリアせずに裏口として使われていたんだろう。部屋の雰囲気からかなり昔に生きていた人物で、この世界の時系列や歴史なんぞ全く知らん。けど、この故人はかなり高名な魔法使いだったのだろうな。持ち物からしてそれなりの品質の物ばかりだ。
「本にも経年劣化や虫害を防除する魔法がかけてありますね」
「魔法使いのような風貌ですが、奥の部屋にはそれなりの武器防具が所狭しと詰まっています。恐らく、遺跡などから出土する遺物の研究者だったのかもしれません」
なるほど、確かにそういう記述の歴史書や、自著だろう遺物の仕様書のような物まである。多くは魔法的な知識観点からの見立てで、この故人は魔法しか使えなかったのかもしれない。魔術書は多いが聖法や導術の記載がある書籍は限られている。参考程度にしか考えていなかった証拠だろう。
まあ、この故人の趣味趣向や研究の詳細は今は重要じゃないんだよ。
これまで僕達は光の神が与えてくれた転生特典の、“常識的知識”だけでなんとかやりくりしてきた。しかし、そろそろそれだけでは賄えない部分が出てきたのだ。この世界ではマイナーな錬金術や妖術などの事など特にそうだし、逆に文化に浸透しきった武技術などは詳しく調べる事ができなかった。それをこの故人…“アランドール・レブロン”の所蔵本や著書から拾える。これは実に有意義なお宝だ。金品や遺物などよりも遥かに価値の高いお宝なんだよ。
「これらの蔵書は全部移すのですか?」
「書籍に関してはここに置いておけば大丈夫だよ。別に外に持ち出す必要はないさ。持ち出すとしたら隣の倉庫にあった遺物の数々だよ。レオパード部隊が研究したいだろうし」
現に書籍関連の調査なんかの場にはレオパード部隊は一体も居ない。となりのコレクションルームで目を輝かせながら走り回って遺物を運び出し、どこかに持って行っている。たぶん、アレは研究のために錬金小屋へ持って行っているんだ。僕個人としては遺物なんてものは特に興味は無い。いや、完全に興味がない訳じゃないか。アランドール氏のデスクに立て掛けてある美麗なロングスタッフには興味がある。物欲…ではなく、第六感?とか勘のような部分でだ。いつか必要になるかもしれないので、もらっておこう。
こういう言い方はあまり気持ちは良くないかもだが、葬儀費用の代わりに遺品はこちらで有効活用させてもらおう。
ファットテール部隊に白くて大きな布と、担架を用意してもらった。それでアランドール氏の遺体を丁寧に包み、担架でまずは僕らの拠点まで運び出す。もう一度あの遺跡を上がるのはめんどくさい。だから、僕達の拠点側からアランドール氏の遺体を運び出し、簡易的ではあるが葬送の儀式を行う。それからアランドール氏の遺体を献花と合わせて棺に納め、もう一度山頂の湖のほとりに運んだ。孤島に……とも考えたけど、そこよりも穏やかな場所がいいと思って、湖のほとりに墓標を作って丁重に葬った。
「ご主人も変わってんな。生まれや素性も知らない赤の他人をここまで丁寧に葬送するとか」
「何も知らないからこそだよ。生前、このアランドールと言う人物がどういう人物か僕は知らない。正直、人も動物も…魔物であっても死んだあとは等しく物言わぬ躯。僕に実害があったならば話は変わるけど、僕に関わりが無く孤独に死んでいった故人の尊厳を冒涜する意味もない」
「そんなもんかねえ……。アタイからすればもっと簡素でもよかったと思うけどな」
「……僕も前世では孤独に死んだからね。自分と重ねてしまったってのもあるよ」
「ふむ。それはそれだな。そろそろ帰ろうぜ」
「うん。じゃ、帰ろうか」
少し感傷に浸りながらではあったが、遺跡での事はほぼほぼ片付いた。遺跡のトラップという面倒な事案は確かに残っているけど、遺跡のトラップは長い目で見て解決しなければならない物だ。あれは一朝一夕でどうにかなる物でもない。遺跡の風化の感じから数百年…下手すれば数千年の単位で最奥の部屋を護って来た防衛機構だ。そんな簡単に解決するなら誰かしらが既に攻略しているだろうし、僕らももっと簡単に攻略で来ていただろう。
僕が帰りつくと、皆まだ食事をせずに待って居てくれた。別に食べて居てくれて構わないのだけど……。
知識や技術関連が記された書物が大量に手に入ったのはいいけど、そろそろ食事の関係も充実させていきたい。調味料はあるけど、焼肉やカットフルーツだけというのはもう飽きがきている。前世は飽食の時代を生きて来た現代日本人。食文化はグローバル、味覚は素朴な物からケミカルなものまで、多くの味に慣れ親しんで来た。その僕には職のバリエーションが数種というのは…物足りないと思っている。必要十分以上の食料自給率があるこの状況に感謝しなくてはならないこともよく理解しているよ? けど……そろそろ食事のバリエーションを拡げたい。
「んう? 調理道具があれば、ウチらが作るんやで」
「え? ノーマル二号は作れるの?」
「体格の問題がある。だけど、作れないことはない。ご主人の知識を引っ張り上げれば、そこそこの完成品が披露できると思うわあ」
「なるほど。体格か……。体格と言えば、最近は皆体格が落ち着いて来てるけど、レベルとか確認してる?」
「してると思うんやで。ただ、内勤のウチらは変化が少ないよ。逆にペロ助ニキとか、マサムネ代表、シズカちゃんとかはかなり上がってるから、そろそろ外見の変化がでるかも?」
「あ、そこは未定なのね」
「分かるわけないやん。自分のことも分からへんのに」
思わぬお宝を得たと思えば思わぬ実態を知る事になったな。
小さなペット部隊達も身長10㎝程度で安定しているし、ペロ助に至っては慎重70㎝を越えて骨格もかなりがっしりしてきている。肉体の成長にある程度レベルが関わっているとは言え、ペット部隊の魔獣人族達の変化は早い。この変化を上手く活用すればこれからの生活も安定するだろうけど、ノーマル二号隊員が言うように、進化や成長速度については予測などできない。
それに戦闘職のメンバーの成長は早い傾向にあるけど、僕ら内勤組は術法の系統や職業系生産スキルの傾向に傾倒している傾向にあるのだ。レベルが成長に関わって来るというなら差は拡がるに決まっている。
これからの展望が開けつつある中であっても考えることは多い。ここまでやれることが増えたのであれば、いくら人嫌いな僕でも仲間のため、外部との関係性を持つことも考えなければならないだろうか? いや、それもまだまだ先の事だ。今はまだ僕らのこの拠点でのったりまったり生活をしつつ、ゆるゆると技術を成長させながら自給自足して行けばいいだろう。
「主殿。遺跡の事でうやむやになっておりましたが、いくつかご報告があります」
「報告? 何か面倒なことでもあったの?」
「いえ、面倒事というわけではありません。存在自体はお忘れではないと思われますが、クレス隠密部隊のヒノエとキノトがかなり広域を移動しつつ、エリアマッピングを行っておりました」
「そういえばずっと姿を見ないと思ってたらずっと外に居たのか」
「はい。そのヒノエとキノトの作成した地図を元に報告させていただきます」
僕が食事の席で果物にむしゃぶりついている二体に視線を向けると、二体は僕の視線に気づいたのかこちらにブイサインを向けてくる。うん。いい仕事をしてくれたことはいいんだけど、存在感を消し過ぎなんだって……。
人員の配置に関してはほぼほぼマサムネに任せきりだけど、まさか僕が知らない間にかなり広域を調査しているとは思わなかった。負傷も無く、食事が取れていないことも無いようなので問題ないが、今度からは僕にも報告するように言っておこう。そうしよう。




