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僕は無難にニューライフがしたい  作者: OGRE
ご近所付き合いも大事
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14ー最初の外部接触・大神の大狼の縄張り・(アカメ一号視点)ー

 うむうむ。本日も晴天なり。本日も晴天なり。

 諸々の諸事情はすっ飛ばすが、我らが地球から異なる世界に移され、約30日。地球でならば一か月は経過したことになろう。我らが主はあまり人付き合いが得意ではなく、引きこもりがちな性格であったことから、こちらの世界でもあまり外に出て行こうとはしない。我は主の忠実なる臣下。これまで受けて来た恩を思えばこれしきの事は何でもないだろう。

 その我は現在、拠点から北方にある強大な力を持つ魔物の縄張りを一直線に目的地へ向けて走っている。

 そろそろその対象が本拠地としている縄張りに入るはずなのだが……。実に警備が緩い。縄張りの外縁にたどり着いた段階で、陰に隠れて我を追跡する黒い狼は監視に付いたがそれだけだ。我に敵意が無い事を理解しているのか?


『おーう! よく来たな! 小さいの。そんで? お前さんは何の用でこんな敵地のど真ん中まで来たんだい?』

「我が主よりの言葉を預かっている。この場で伝えても?」

『かまーねーよ! お前さん一匹程度がなんの思惑を思って来たかも気になってたかんなあぁ!!』


 ああ、たぶんこの蒼銀の巨狼はペロ助ニキと同種のタイプだ……。これはちょっと雲行きが怪しいかもしれない。我が縄張りの中心地に入り、喉元に刃を立てられる位置まで敢えて誘い込んだと見える。蒼銀の巨狼とその眷属であろう個体が、我の退路を塞ぐように動き始めているからな。

 ただ、勘違いして欲しくないのは、別に我…いや、我々はこの巨狼と敵対するための口上を上げに来たわけではない。むしろ着かず離れずの距離を取って欲しいから、贈り物まで持ち込んで対話をしに来たのだ。ご主人様は物々交換だと言ったが、こちらが出した菓子折りはかなり価値の高い物だ。……中身は菓子ではないが。


「我はアカメ一号。これより南方の空白地帯に居を構えた至高なる孤高の鬼が眷属。我が主、ユウゼン シロイ様からの言葉を伝える!」


 相手は短気そうなので、かなり手短に伝えた。仲良くしたい事。縄張りの接点付近の資源は共有物である事。こちらからの敵対理由はなく、着かず離れずの距離を維持したい。それから定期的に“アダマンタイト”を採取する権利をもらう代わりに、こちらからからも贈り物を送りたい。……こんなところだろう。

 我がその旨を伝えると、縄張りとの接点でのことや、関係性までの所では難しい表情をしていた巨狼。だが、アダマンタイトの事を口にした後に我がストレージより取り出したそれに視線を向けて離さない。まさに釘付けだ。正直、交渉したいので、あまりこの燻製肉にばかり注意を向けられても困るのだが……。


『そ、そそそそそそ、それ、それれれれ、それが贈り物というのか?』

「はい。我が主の叡智より生み出される肉の加工品になる」

『芳醇な香り……、そしてこれは木の香りか? 本来ならば草木など食わぬが、この香りの塩梅は至高の域。のう、アダマンタイトと言ったな? あんな物を欲しいがため、そのような至高の品を用意したと言うのか?』

「我々にとってはそのアダマンタイトが必要不可欠になりかねない品だからだな。我が主はこれらの他にも実に様々な加工品を創造できる。どうであろうか? 話し合いに応じていただけるであろうか?」

『もちろんだ。しかし、配分にもよる。その乾いた肉のような物の量で大量のアダマンタイトを持ち出されても困る。我が直接、貴殿の主…ユウゼン殿と話したい。そちらも構わぬか?』

「こちらは構わないが……。こちらに連れてくることは難しいぞ? 主殿の魔力は強い。あの地を離れるのは得策でない」

『相解った。ならば、魔晶湖まで我が赴こう。その代わり、その肉の増量を所望する』


 食い意地の張った狼だ……。急なことではあるが、主は基本的に拠点の内外で日がな日曜大工や製薬、金属製品の製作に勤しんでいる。時折、書き物仕事をこなしておられるが、本日は特に予定はなかったはずだ。

 我も一通り頭を働かせ、巨狼に返事を返す。

 巨狼は我を頭に乗せ、先にアダマンタイトが含有される地層があるらしい洞窟へと案内してくれた。巨狼や他の狼達からすればアダマンタイトは特に重要な物ではなく、ただそこにある物なのだと言う。その為、我々が出す燻製肉の量によっては、巨狼達の側の方が利益が非常に大きい事になるらしい。狩りで得られる食料には限界があるし、恒常的に獲物が得られるわけではないのだ。野生とはそういう物だからな。それがアダマンタイトを提供するだけで定期的に食生活の安定と質の向上が見込める。これ以上ない条件なのだ。


「これが……アダマンタイト」

『初めて見るか? この緑の岩は我が物心つくよりはるか昔からこの地に存在している。我らにとってはここにただあるだけの岩だな。まずは……この程度運んでいこう。物量については当地で交渉しようではないか』

「分かった。このまま向かうのだろうか?」

『うむ。ああ、それから護衛として月狼を二体つけるが、形式的な物だ。気にせんでくれ』


 我も主が外に出るならばそうするだろうから、巨狼の両隣りをかける大狼達の気持ちも分からなくはない。我よりも非常に大きいこともあり、足も速いな……。羨ましい限りだが、巨狼の快速により、我々の縄張りの中心地でもある“魔晶湖”へとたどり着いた。分かってはいたが、我々の縄張りに入った段階で、我が子達が警戒態勢で臨場。しかし、我がついている事や、相手から敵意が無い事。何より我の説明により子供達の一人である五号が本拠地に向けて駆けだした。一番足が速いのが五号だからな。

 それから数分とせず、ペロ助ニキの背に乗った形で主とマサムネ殿が現れた。

 縄張りの長がこのような距離で平和的に対面する機会は珍しかろう。主が一歩、また一歩と近づいていく途中、まさかの現象が起きてしまった。我もこれは想定外だったのだが、巨狼の護衛として随行していた大狼が体を跳ねさせたと思えば失神してしまったのだ。主もそれに気づき、歩みを止めた……のだが遅かった。我に対しては横柄な態度で接して来ていた巨狼は、小刻みに体を震わせその巨大な魔力の塊に恐怖以上の圧迫を受けていたのだ。


「……これは、もう少し気を使うべきだった?」

「しゃーねーだろお? これは俺らも想定外だったんだしよう」

「然り……。主殿は聖の氣で気配を収めください。そうでもせねば交渉にすらなりますまい」


 主殿が距離を取ったうえで、その気配を収縮させていく。我々は主殿の眷属であり、主殿の氣を受けて成長が助長されるので忘れていた。我らがご主人様は強大な氣を持つ故にここに他とは相容れぬ。ご自身が外部からの干渉を嫌がることもそうなのだが、ご主人の存在感は他の存在からすれば近寄りがたく感じさせる物なのだ。


 ~一時間後~


 巨狼が真っ先に正気を取り戻したが、かなり遜った態度に急変した。その後、巨狼がいきなり人間のような姿に変身する。それは主殿の氣に中てられ、気絶していた月狼達も同様。我々は、そのままありのままだが……。

 我が両者の間を取り持ち、まずは我らが至高の主を改めて紹介する。対面していると受ける感覚が大きく違うようだ。それにあれだけ大きな氣に押しつぶされた後では、我らが主の空気感は異質に感じるのだろう。我らがご主人様のユウゼン様は来る物を選別し、去る物は拒まぬ御仁。身内になった者に対しては柔らかな態度で接してくださる。現在は来客用の顔なのだろうが。

 その主殿の紹介の後は相手からの自己紹介。先ほどの態度に関しても深く頭を下げて謝罪の念を述べている。我に対しての態度と大きく異なるので困惑するが……。まあ、ユウゼン様に敵対したらば死が待っているのだからな。下手にも出ようて。


「お初にお目にかかりまする。至高なるお方よ。我は御地より北方にて縄張りを営む狼の長。ヴィエラと申す。我が一族は太古の昔、月の女神が産み落とせし守護獣であり、あらゆる狼種の頂点に君臨する者。以後お見知りおきを。こちらは私の従者であり同胞のミラとゼラにございます」

「ご丁寧にありがとう。それよりも体調は問題ありませんか? こちらももう少し気を使うべきでした」

「いえ……。それは我々が惰弱故に起きた事にございます。ユウゼン様がお気になさることではございませぬ」

「そうですか? ならいいのですけど……。おっほん。それでは物々交換のお話しに入りたいと思いますが……」


 我と話していた時はそれなりの増量と譲歩を要求してきそうな気配がしたが、ヴィエラ殿は終始低姿勢のままにこちら側の要求はほぼ全て飲んでしまった。まあ、あれだけ大きな氣の圧力に押しつぶされ、単純な存在の大きさの差に晒されればああもなるだろうが。ただ、少し気になるのが、我が友好を申し出た時は難しい顔をしたくせして、ユウゼン様に対しては自ら進み出て友好を求めた。何か裏の思惑が無ければいいのだが……。

 それからはたまたま時間が夕食時になったこともあり、ヴィエラ殿とミラ殿、ゼラ殿も交えて夕食の席が開かれた。そもそもからして我らが拠点は来客など考えていない作りなので、我々と等列の席で単に食事をしてもらって居るだけなのだがな。ただ、三人のがっつきようは凄まじかった。

 我々も短時間で慣れ親しんでしまったが、よくよく考えれば調味料で味付けされた食事ができる場所は限られる。転生特典の知識にもあるが、この世界では食料事情がよろしくない。調味料を使える贅沢な食事は大金持ちの大店や、王侯貴族の中でも資産力のある者だけだ。その調味料だけではなく、技術力がまず違う。レオパード部隊の研究成果をファットテール部隊が形にすることで成すに至った調理器具での高品質な料理だ。うんむ。ああなるのが当たり前だ。


「……ふ、風呂?」

「うむ。我は雄故に男湯に入るが、我が妻に女湯へ案内してもらう。ぜひ胆嚢するとよいぞ」

「すまぬ。風呂とはなんだ?」

「簡単に言えば適度に温められた温水に浸かるのだ。余計な皮脂を浮かせ、体表に付着した汚れを落とすことができる。体を清潔に保つため、この居住地の者は欠かさぬぞ」


 たぶん水浴びが嫌いなんだろう。ゼラ殿が二の脚を踏んだが、我が妻の二号が構わずヴィエラ殿とミラ殿を案内してしまったので、ゼラ殿も行くしかなくなったようだ。

 食事に風呂とこの拠点にはとても充実した生活設備が整っている。それだけではなく、この拠点では最近になり寝具も大きく文明的に充実し、直後は寝坊する者が続出した物だ。この三名も驚く事だろう。この後は急遽用意された来客用の宿泊施設に案内されて寝るのを待つだけだ。この拠点で夜なべするのはレオパード部隊の連中だけ。我々は基本的に日の出と共に起床し、日没と共に一部の仕事を残し終業。我も順番に組み込まれているが、主殿を就寝中に警護する夜番がある。今日は確かペロ助ニキのはず。彼は高確率で居眠りしているけども……。


 ~翌朝~


「二号よ。彼女らはどうした?」

「ダメ。気持ちいい寝床の虜になってる。これは長期戦になりそう」

「いや、もう昼なのだが……」

「知らないよ。全く起きないんだもん」

「これは主殿に一撃きついのを叩き込んでもらうべきかもな?」


 最終的に主殿が扉越しに声掛けをしたことで、昼間で寝過ごしたダメ狼達は赤面しつつ、昼食をしっかり食べて帰って行った。彼女らには主が生産していた100㎏を超える燻製肉をお土産に、帰りたくなさそうではあったが帰って行った。もちろん、アダマンタイトは入手済みだ。湖での交渉の席の段階でアダマンタイトは手持ち分全てもらえた。その代わりと言ってはなんだが、ヴィエラ殿やある程度の実力者に限り、我が拠点に遊びに来ることを許可して欲しいと言う要望を受け入れることになっていたがな。

 これは後日談ではあるが、最初期のヴィエラ殿は狩人風の装束で来訪したのだが、いつの間にかかなりめかし込んで我らが拠点へ来訪するようになる。手土産はアダマンタイトに始まり、珍しい魔物の素材だったり、山菜やキノコだったりと様々だが……。彼女の目的はこの拠点の美味なる食事。心地よい風呂。そして、温かく安全な寝床。……何より、彼女は度々この拠点に来訪し、我らが主との語らいを楽しみにしているのだろう。しかし、かなり鈍いらしい我らが主。彼女の想いが伝わるのはかなり先になるだろうと、我や拠点の住民は生暖かく見守るのだった。

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