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破滅の魔女は異世界を救う  作者: 藤川秋
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第90話 絡繰の正体

 

自分のこれまでの行動を振り返ってみると、何かと爆発させて事態の解決を図るような人生だった気がする。

前世の時も然り、ダークウルフの時も、昇級試験の時もだ。

些か乱暴で粗雑だとは思うが、困ったことに、万能だと感じ取れる程度には実績も上がってしまっている。



規模の大きさとしては大小様々なれど、大抵の出来事は、取り敢えず吹き飛ばしておけばどうにかなってしまう。────それが、私という人間の人生なのである。



言葉にしてみても、相当質の悪い人生だと我ながら思うが、それだけ凄惨な環境に身を置く機会が多かったのだろうと、そういうことにしておいて欲しい。

これがもし普通の人間だったなら、そもそも何かを爆発させなければ生き残れないような────或いは、人生の幕引きに敢えて派手な方法を選ぶような────そんな状況に陥ることすらそう無いはずなのだから。



「────つまり、魔石をピンポイントに引き抜くのは難しいから、爆発させて全体の間隔を強制的に引き離すと。そういう認識で合ってるか?」


「はい、その通りです」


「なら初めからそう言え。お前は一々言葉が足りなさすぎる」


「はい、すみません……」



母親に叱られる子供のような図式になってしまったのは、間違いなく己の所業によるものである。

普段からどれほど彼の頭を抱えさせ、胃をキリキリと締め上げているのだろう。────思わずそう考えてしまうぐらいには、無理を強いている自覚はある。

明確な理由も述べずに、いきなり爆散させましょうと言い出す人間に二つ返事で頷く方がまずいので、彼の行動は至って正しい。



「まあ、そういう事なら、シオンに任せるよ。悔しい話ではあるけど、俺はその辺り全然役に立たないから」


「自分で言うのも何だけど、あれだけの巨体を気軽に爆発できる方が問題だと思うよ?普通に考えて、私がおかしいだけだから、そこは別に気に病まなくてもいいんじゃないかな」


「いやそれ、本当に自分で言う事じゃないだろ……」


「でも事実だしね。作業分担の割合がどうしても気になるんなら、周りに人がいないかの確認をしてきてくれると助かるかも」


「ああ、それくらいなら任せてくれ」



アルは、私の提案に二つ返事で頷くと、こちらの様子に何ら問題ないことを確かめてからその場を後にした。

そのまま数分ほど、周囲を警戒しつつも帰りを待っていれば、出かける前とさして変わらぬ表情で再び姿を現してくれる。



「俺達以外に人影は無さそうだ。作戦を進める分には問題ないと思うぞ」


「オッケー、ありがとう。それじゃ、一旦上に移動しようか。下手に距離を取るより安全だと思うし」


「分かった。シオンのやりやすいようにしてくれ」



その言葉に頷くと、視界はあっという間に開けて見通しの良いものとなる。

一面の緑が眼下に広がるのを確認しながら、意識は標的から離さない。


ありとあらゆる全てを蹂躙するかの如く、ゴーレムの体に隙間なく纏わり付いた冷たい檻は、その役目を無事に全うしてくれた。

────かの魔物を縛る鎖は、今よりその全てを破壊する起爆剤となる。




例えば、水が蒸発して水蒸気になると、その体積は約1700倍にもなるのだという。

あれだけの巨体を丸々覆うほどの氷が、一瞬にして気体まで変化したとしたら────ゴーレムの体にかかる圧力は果たして、どれだけ凄まじいものになるだろうか。




(一番外側の数センチはわざと残しておけば、密閉状態が作れる。そうすれば、威力を外に逃すこともない)




ここ最近は、自分自身の手間を増やしたり、余計な迷惑を周りにかけないための程よい力加減を覚えてきたところであるが、今日は敢えてそれを無視する。

最大火力────とまで必要かは分からないが、派手にぶちかます。それぐらいの勢いで行くつもりだ。




瞬間、猛烈な勢いで鼓膜を揺らす破裂音が響き渡った。

遥か遠くまでその振動を伝えたのではないかと思う程に、稀に聞く音量の爆発音である。


さながら、圧力に屈するようにして飛び散った岩と氷の群れは、側に人がいれば強烈な殺戮兵器として目に映ったことだろう。

何なら、視界に捉えることすら叶わず、意識を手放してしまうかもしれない。

確実に、人一人の命を亡き者に出来るほどの威力を携えて、聳え立つ木々の幹をえぐりながらそれらは四散した。




そして、後に残されたのは、紅の輝きを携えてぽつりと残る大粒の石と、その石の傍に佇む見慣れぬ何かだった。




「魔石だけ吹き飛ばされてないのもそれはそれで凄いけど……何これ?」


「分からない。というか、素手で触って大丈夫か?」


「魔力とかはこれっぽっちも感じないから、害はないと思う。ただ────魔法陣が描いてあるみたい」




周囲の安全を確認してから、再び地上に降りた私達は、初めて見る謎の物体に視線が釘付けとなった。

そこには、かなり緻密で複雑な模様が描かれている。

岩に刻まれている関係か、凸凹と線が歪んで見えるものの、きちんと一定の法則に基づいた図形のようで、魔法陣であることは容易に想像できた。


────何せ、その効果には心当たりがある。



「岩が自由自在に飛び交ってたのは、これが原因だね」


「あそこまで柔軟に対応できるものなのか?」


「これだけ複雑に設計されてるなら、或いは。よっぽどあらゆるパターンを想定しないと難しいけど、高度なプログラミングで制御されたロボットと思えば納得はできるよ」


「プログラミング……?ロボットって何だ?」


「うん、ごめん、こっちの話」



その手の単語は、誰とも共有することのできない未開拓領域であることをうっかり忘れていた。

もどかしいと言うよりは、言い知れぬ寂しさのようなものを感じるが、こればかりは仕方のないことである。



「どこで意識を制御してるんだろうと思ったけど、行動パターンが何十手もあるだけの絡繰人形だったって落ちね」


「こんな厄介な人形、頼まれても欲しくないけどな」


「全く同感。正直、倒すだけなら魔族の方がよっぽどましだったと思う」


「そう思えるのはお前だけだからな?」



ぽろりと本音を口にすれば、アルは釘を打ち込むかのような鋭さで言葉を切り返してきた。

確かに、私が描いた魔法陣で対策をしていなければ、それこそ洒落にならない結末が待ち構えていただろう。


────だが、逆に言えば、対策を済ませた場合のあいつらは、ちょっとばかり魔力抵抗が高すぎるだけのただの人間レベルでしかなかった。

物理で殴れて、その分の成果がちゃんと出ることを思えば、ゴーレムよりも数倍やりやすいと思うのは決しておかしいことではないと思う。



そう思って、目の前の男をちらりと覗けば、やんわりと首を振られた。

私の考えも筒抜けらしいし、世間一般的には全くそんなことはないらしい。やはり、自分が常識外れなだけのようである。



「これが、あの洞窟内にわんさかいるわけでしょう?……ちょっと気が滅入るね」


「毎回同じことをされるのは困るが、今回ばかりは先に見に来て正解だったかもしれないな。シオンの言ってた通り、仮に専用の捜索隊を組めたとしても、これは厳しすぎる。────もし、この騒動の原因が本当に、新たに上位の魔物が現れたことによるものだとしたら」



そこまで言って、アルは口を噤んだ。

その可能性は比較的最悪の部類に入るもので、私もあまり想像したくはないが、現状考え得る限りでは最も遭遇する確率が高いケースである。

あのゴーレムすら縄張りを明け渡す強さと考えれば、それこそ魔族に匹敵するほどの脅威になるかもしれないと想定したからこそ、こうして強行突破に踏み込んだものの、いざその気配が強く感じ取れるようになると、ため息を吐かずにはいられなかった。



当ても分からず、虱潰しに調査していくしかない迷宮。

狭い洞窟の中で戦わざるを得ない環境。

縦横無尽に飛び交う岩の塊を相手にするには、あまりに劣悪な状況だ。



「ああ……何か、今になって嫌気が差してきた……」


「率先して来た奴が言うなよ、頼むから頑張ってくれ。多分、お前に手を引かれたら、悲惨なことになる未来しか見えない」


「それは正直、分かるけど。分かっちゃうけどぉ」



どちらかと言うと、適任が私ぐらいしかいないことよりも、それほどに危機的な状況に陥ってしまった己の運の無さを嘆きたい。

何をせずとも降って湧いてくる災難に、これでもかと蓋をして見ない事にしたかった。その夢は決して叶わないと分かっていても。



「ええ……行く?行っちゃう?腹括って飛び込んでみちゃう?」


「それでいいのか、シオンは」


「良くない……ちょっと休もう、気分転換しないと」



そう言って、私は徐に飲み物を取り出した。

暖かくもなければ冷たくもない、ただの薬草茶だ。

ハーブティーのようにすっきりとした香りと味わいは、沈んだ気持ちも和らげてくれる。


革の水筒はさほど大きくなく、中に入れられているお茶の量はたかが知れているが、容量にほとんど限りのない収納魔法に物を言わせて水筒そのものを大量に運ぶ私は、よほどのことがない限りは水不足に困ることはない。

同じデザインの水筒を取り出してアルに渡せば、彼も中身を勢いよく煽った。あれだけ体を動かせば、喉が渇くのも当然である。


私は、ついでに取り出した果物も口に入れて頬張った。

風情もへったくれもないお茶会の出来上がりだ。景色が良いと言うには、ここは些か木々が生い茂りすぎている。



それでも、気持ちをリセットさせるには十分な癒しだった。

水筒はともかく、果物のような腐食しやすい食べ物は、本来であれば持ち運びには向いていない。

このような状況下においてすら、気兼ねなく美味しい食事を口に出来るということは、とてもありがたいことなのだ。



それもこれも、収納魔法のおかげである。

会得するまでの道のりは険しく果てしないが、一度手に入れてしまえば得られる恩恵も凄まじい。



(アルが相手だからいいけど、下手したら、便利な道具として扱われること間違いなしだな)



前世の末路は、まさにそれだった。

戦闘行為、医療活動、果ては物資の運搬まで。

多岐に渡る私の業務は、軍人のそれより、何でも屋と称した方が遥かに的を射ている。



冒険者だって、依頼の内容が多岐に渡ることを考えれば、そのように言い換えることも出来なくはない。

己の能力を鑑みても、その手の仕事の方が圧倒的に向いていて、遺憾無く実力を発揮できることもまた、一つの事実なのだった。────少々遺憾ではあるが。



「もうちょっと、平和に生きたかった」


「気持ちは理解できるが、難しいだろうな。俺でも分かるし、シオンはそもそも悪運が強すぎだ」


「それは言わないで……」



神の器でありながら幸運に恵まれないなど、一体何の呪いなのか。

ため息を吐きながら見上げた空は、憎々しいほどに澄み渡っている。

 

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