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破滅の魔女は異世界を救う  作者: 藤川秋
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第8話 試験を受ける


「お前、ダークウルフってのはな、集団で行動するんだ。ただでさえ素早い上に、あいつらはしぶとい。そんなもんに一人で挑んだら、あっという間に囲まれてお終いだぞ」


「ああ、分かります」


「分かります、じゃないんだよ。あからさまな嘘をつくなって言ってるんだ。自ら信用を落とすような真似は止めておけ」



完全に嘘だと思われている。

Bランクということは、全体で見ても比較的強い部類に入るはずなので、そう思われるのも仕方ない。

冒険者でも、強そうな見た目をしているわけでもないただの女が、一人で倒しましたと言ったところで受け入れてもらえるわけがないのだ。



「ご忠告ありがとうございます、おじさん」


「おじさんとか言うんじゃねえ。ラウルだ」


「ラウルさんですか。すみません、格好があまりにラフだから、つい」


「お前な……別に、俺が雑だからこの格好でいるわけじゃないんだぞ?ここじゃ、解体作業も受け付けてるからな。きっちりした服なんか着てたら動きづらいんだよ」


「冗談ですよ。解体もしてくれるんですね」



冗談の多いやつだな、と彼は呆れ顔で言う。


だが、その言葉には語弊がある。

ラウルさんが嘘だと思い込んでいることが多いだけで、実際に冗談を言ったのは今回が初めてだ。



「需要は高くないがな。いちいち魔物を抱えて移動なんてしてられないから、必要部分だけ剥ぎ取って持ってくるのが普通だ」


「まあ、それもそうですね」



先程も説明したばかりだが、前世の時ですら収納魔法を使える人はほとんどいなかった。

だというのに、あんな大きいものを丸ごと持ってこようと思うはずがない。



「ま、とにかく。次はちゃんと、他の部位と一緒に持ってくることだな」


「分かりました。たぶん、また来ると思います」


「おう、気を付けろよ」



じゃあな、と軽く手を振るラウルさんに、お礼を言って別れる。

軽口を叩いても、邪険にせず言葉を返してくれるあたり、人柄の良い人だと思う。

お酒の飲める年になったなら、一緒に飲んでみたい相手だと少し思った。


ただし、本気で飲みに誘おうと思ったら、あと一年は待たないといけないことになるけれど。

それが叶う程度には、いい関係を築いておきたい。



ともあれ、魔石は思った以上に良い値で売れてくれた。

受験料は300ギル。銀貨3枚。

対する私の所持金は、8400ギル。銀貨84枚。

かなり余裕がある。今すぐにでも試験が受けられる金額だ。


街に来る前の日の登り具合からすると、時間にはまだまだ余裕がありそうだけれど、試験はすぐに受けられるものなのだろうか。

そのことも一緒に聞いておけば良かったと思いながら、先程説明してくれた女性の元へと足を運ぶ。

詳細を話してくれた時には、受験すること自体は問題ないような口振りだったので、そこに関しては心配ないはずだ。



「すみません」


「あら、こんにちは。また会いましたね」



長蛇の列を横目に話しかける。

試験を受けたい旨を伝えると、ちょうど午後の部の受付をしているようだったので、参加させてもらうことにした。



「こちらの受験用紙に、必要事項をご記入ください。試験に合格されましたら、記入内容をそのままギルドカードに記載しますので、ミスの無いようにお願いします」


「分かりました」



渡された用紙を確認し、それぞれ中身を埋めていく。

果たして、文字を知らないのにどうしたものかと最初は思っていたが、なんて事はない。いざ書き出してみると、勝手にこの世界の文字で書ける身体になっていた。

相変わらず、女神様直々のオプションは馬鹿みたいに便利だ。


街に着いてすぐの時もそうだったが、神様と名乗るだけの力はあるのだと、このようなところで実感させられるとは思わなかった。

一体どういう仕組みなのか、聞けるものなら是非とも聞いてみたい。



用紙に書かれていた必要項目は、それほど多くは無かった。

まず名前。次に年齢。希望する職業と使用武器。

魔法使いを志望の場合は、使える魔法の系統も書く欄がある。


職業に関しては、書類の下部に一覧があり、選択形式となっていた。

魔法が一番実力として高いので、魔法使いを選ぶのがベストな選択だろうが……使える魔法は果たして、どこまで正直に書いたらいいのか。


だいたいの魔法は使えるものの、ラウルさんとやり取りした時のことを思うと、あまり正直に書きすぎても面倒なことになりそうな気がする。

そう思って私は、ひとまず炎系魔法と書いておいた。


私の場合、武器は特に使わないので、使用武器の欄には無しと書き込んでおく。

照準を定めやすくしたり、魔法の威力を補うために、弓や銃にのせて使う方法も生前にはあったが、幸い性能には恵まれているので、必要としたことは一度も無い。



「終わりました」


「ありがとうございます。……あら、魔法使い希望とありますが、杖は使わないのですか?」



不思議そうに尋ねてくる。

どうやら、杖を持つのが普通のようだが、無いと何か不都合でもあるのだろうか。



「いえ、特に必要ありませんので」


「なるほど、腕に自信がおありなんですね。承りました。試験の準備をしてきますので、少しお待ちいただけますか」



そう言って、彼女は一旦その場を後にした。

カウンター近くに空いているテーブルを見かけたので、そこに腰掛けて待つことにする。



先程の彼女の言葉だが、心做し羨ましそうなもの言いに聞こえたのが、少し気になった。

どうやら、魔法使いは杖を持つのが一般常識のようだが、持たないことは寧ろ魔法が得意な証拠になるらしい。


実際、杖など無くとも魔法は発動できる。

わざわざ使用するこということは、弓や銃を使うのと同じように、何かしらの補助を受けられるのかもしれない。

今のままで十分すぎるほど、完成された肉体を用意してもらえた私には、どちらにせよ必要のない代物のようだ。



「お待たせしました、こちらへどうぞ」



戻ってきた受付嬢に案内されると、既に人が数人集まっているスペースへ案内された。

どうやら、私の他にも受験者がいるようである。


堂々としている者。

少しばかり緊張の色を滲ませる者。

態度は様々だが、どの人もまだ場の雰囲気に馴染みきれていない。


そこからもう暫くだけ待ったが、受験者は私で最後だったようで、試験を開始する旨が伝えられる。

全員揃っていることを確認すると、出入口とは違う扉から外へと連れられた。



その先に広がるのは、屋外演習場のようだった。



「来たな、新人。これから、この演習場で試験をする。魔法使い、僧侶以外は全員俺に着いてこい。向こうで試験をする」


「他の方はこちらへ」



試験内容は、職業ごとに分けられるようだ。当然の采配である。

呼ばれた方へと着いていき、他の志望者と共に演習場の奥の方へと到着した。


それとなしに周りを見渡してみれば、確かに私以外は全員、それが当たり前であるかのように杖を所持している。

そのせいか、何も持たずに佇む私は、妙に目立っている気がした。


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