第9話 やりすぎたみたいだ
連れられた先の地面には、先端に円形の的が付いた木の棒が、何本か立てられていた。
それだけで、試験内容がどんなものであるのか、大凡の見当が付く。
試験内容は、魔法であの的を破壊すること。もしくは命中させること。
評価基準は、魔法の威力と命中率の高さ。
命中率が高いということは、それだけ精密に魔法を扱えるということだ。
例えば弓や銃を使う時に、手元が狂えば弾が的に当たらないように、構築精度が下がれば下がるほど狙った場所からは外れることになる。
魔法使いとしての実力を測る項目として、命中率の高さを見る事は理に適っている。
威力の高さは純粋に、力の強さだ。
高ければ高いほど、必要な魔力量が上がる。
複雑な魔法を使うためには、魔力の多さも大事な要素となる。
実際、その読みは当たっていた。
「これから魔法使いの方には、ここにある的に魔法を命中させていただきます。魔法の使用は三回まで。使える系統は一つのみです。なお、僧侶の方の試験内容は補助魔法の使用となりますので、魔法使い志望の方には後ほどご協力いただければと思います」
一通り説明が終わると、最初に受ける人の名前が呼ばれた。
試験内容が的の破壊でなく、命中させるだけに留まっているのは、的に使われている材質の問題だろう。
棒そのものは木でできているが、付けられた的は鉄で作られているようである。
既に焼け焦げた跡や凹みができていて、剥がれた塗装の下には鈍く光る銀色がこちらを覗いていた。
原型を無くす、という意味で破壊するのであれば、私の場合は高温で焼くか酸に浸すかしないとならない。
それを求めないということは、初心者に求めるレベルではないということである。
使う属性によっては、まともな方法すら無い場合もあるからこそ、的を破壊しろとまでは言わなかったのだ。
呼ばれた受験者は、指定された位置へと移動すると、持っていた杖を強く握りしめた。
よく見ると、その杖の頭部には覆うようにして魔石が取り付けられている。
────魔石って、ああいう使い方をするのか。
具体的な使用用途を、私はこの時初めて目にした。
確かに、魔石はかなり高密度の魔力結晶だ。
足りない魔力を補うこともできるし、使用する魔力を節約することもできるはずだ。
あれだけ太さのある杖なら、いざという時には武器として使用することもできる。
そこまで考えて、やはり必要ないものだったと確信した。
そもそも私は、生まれてこの方魔力が足りなくなった試しなど一度も無い。
殴ってどうにかなる場面なら、魔法でだってどうにかなる。
(でも、杖を持ち歩くのが普通ってことは、それだけ魔力不足に陥りやすい人が多いってこと?)
前世においては、一個人が威力の高い魔法を連続して使うことはそう無かった。
日常生活を営む上で、それほど強力な力を必要とすることがそもそもあまり無いからだ。
それに、もし魔力が切れたとしても、少々不便な思いをするだけで終えられる。
────だが、この世界には、命の危険を脅かす生き物が常に身近に存在するのだ。戦場において、魔力の有無はそのまま己の生死に関わってしまう。
そのための予防線を張っておくのは、ごくごく当たり前のことだ。
杖は別にいらないが、魔石くらいは常に持ち歩いておこうと考え直した。
わざわざ武器化するなら、せめてただの杖でなく別の何かにしたい。
「炎よ、集え。我が敵を穿ち、全てを焼き尽くせ────ファイヤーボール!」
ごちゃごちゃと余計なことを考える私をよそに、目の前に立つ受験者が魔法を使用し始めた。
声高々に叫んでいた言葉は、魔法の発動補助としてはポピュラーな部類に入る呪文だ。
────とは言え、地球においては、実際に広く使われていたのは昔の話になるのだが、この世界ではそうではないらしい。
次の瞬間、バレーボールほどの大きさをした火の玉が一つ現れ、遠くの的に向かって勢いよく飛んでいった。
そのまま二発、三発と同じように出現させ、それぞれ違う的目掛けて飛ばしていく。
その全ては、危なげなくそれぞれの的へと命中した。
この人はなかなかに、魔法の扱いが上手いようだ。
「威力も精度も申し分ありませんね。合格です」
試験官はそう結果を伝えると、受験用紙をめくり次の名前を呼んだ。
次に呼ばれた受験者もまた、呪文を用いて魔法を発動する。
手には勿論、杖。
魔法使いのイメージとしてありがちなセットで、ローブにとんがり帽子でもつければ、形としては完璧になれそうである。
使用する魔法の系統は、どうやら土魔法のようで、詠唱が終わると共に地面が隆起し始めた。
急速に盛り上がっていく土は、徐々に先端を尖らせ、針のように細くなっていく。
的を貫かんと鋭く突き上げる様はなかなかのものだが……あれでは駄目だ。
威力にばかり気を取られすぎて、的に当てられていない。魔法の扱いが雑な証拠だ。
結局、的に当てられたのは、三発目にしてようやくといったところだった。
試験官も同じ見解のようで、私が思っていた通りの駄目出しをしてから、軽くアドバイスすると共に不合格とした。
「次、シオン。前へ出てください」
「はい」
そしていよいよ、私の番が訪れた。
一瞬、試験官が怪訝そうな顔をしたように見えたが、気にしないことにする。
おそらく、杖も持たずに大丈夫なのかとか、そんなことを考えているのだろう。
私が受験用紙に書いた系統は、炎。
最初の人が使っていた魔法も同じ系統だったので、それと同等の結果が出せれば問題ないはずだ。
目にした光景を思い出しながら、頭の中にある術式と照らし合わせて組み上げていく。
五秒と経たずに、目の前に炎が集約され、先程とほぼ同サイズの玉が作り出された。
その数、三つ。
別に、一発ずつでないと駄目だとは言われていない。
なら、三発同時に撃ってしまえばいい。
かかる時間で言えば、分けて撃つのも同時に撃つのも大して変わらないが、一回で済ませられるものをわざわざ分割するのは、単に面倒だ。
やって楽しい無駄は好きだが、そうでないものは省くに限る。
同時に作り上げた炎の玉は、外すことなく全て的へと命中させた。
作るだけ作っておいて、当てられませんでしたでは話にならない。
問題なく終えられたことを確認して、そっと一息つくものの、肝心の試験管からはいつまで経っても声を掛けられる気配がなかった。
何かミスでもしただろうかと、試験管がいる方に視線を向けると、支える力を無くしたように口を半開きにさせて固まっている。
その表情が意図するものは何か、私は正確に図ることができずにいた。
ルール違反だったのか、単に私の行動に驚く何かがあったのか。
あれこれ思案していたところで、ようやく試験官が口を開く。
「無詠唱……しかも、三つ同時になんて……」
心、ここに在らずだ。
周りを見てみれば、同じような顔がそこかしこに転がっている。
どうやら、三つ同時に撃つのは、少しやりすぎだったようだ。




