第7話 疑われた
先程確認した買取場所へ向かうと、今は誰も利用していないようだった。
そのまま、職員の男性に話しかける。
「すみません、買取をお願いしたいのですが」
「おう、見ない顔だな。新人か?」
「いえ、まだ登録はしてません。視野には入れてますけど」
「そうかい。で、何を買い取ればいい?」
話しかけてみると、服装に限らず、態度までもがラフな人だった。
しかしながら、そこに不快さは感じられない。
無骨な態度というより、フランクな人と言った方が正しい表現だろう。
遠巻きに見てる時には気づかなかったが、この距離で見ると身体がよく鍛えられているのが分かる。
────そして、渋い。渋カッコイイおじさんだ。
顔つきを見るに、四十代といったところであろうか。いい歳の取り方をしていると思う。
「魔石の買取をお願いします、今出しますので」
私はそう言って、何も無い空間に右手を突き出し────そのまま突っ込んだ。
目に見えない境界面より先へ突き出された右手は、すっぱりと腕を切り落とされたかのように姿が消え、再び現れる頃には手にしていなかったはずの魔石を握りしめていた。
持ち運ぶ手段に当てがあると言ったのは、これのことだ。
ファンタジーの世界と違って、使う魔法に一々名前を付けたりはしないが、敢えて言うならこれは収納魔法というやつである。
「……は?」
「全部で七個。買取をお願いします」
「いや、ちょ……ちょっと待て。お前今、どこから出した?」
「どこから、と言われましても……」
素朴な疑問なのだが、この世界の人達は、科学に関する知識は地球と同レベルにあるのだろうか。
そうでなければ、説明したところで何も伝わらないままに終わる。
────そして、彼の反応をみる限りでは、言ったところで分からない可能性の方が高い。
下手をすると、魔法を使って出したことすら理解していない可能性すらある。
そう思えるくらいに、何が起こったのか分からないといった様子でこちらを見ていた。
地球でも、収納魔法を実際に使う人間は少なかった。
この手の魔法は総じて扱いが難しい上に、魔力消費量が半端なく多いからだ。
そうした意味で、本当に使えるのかと驚かれた事は何度かあるが、そのどれとも違う反応を彼は示している。
────ちなみにこれは、完全に余談だが。
この収納魔法、理論的にはブラックホールの中に自由に物を出し入れしてるのと同じである。あくまで、空間が出来上がる過程だけの話だが。
質量が重い物の周りでは、時空が歪められる。その究極形態がブラックホールだ。
それと同じ過程で作り出したスペースを利用して、私は物の収納を行っている。
この方法で空間を作ると、広さも然ることながら、時間の流れを遅らせることもできるので何かと便利なのだ。
この辺り、相対性理論が分からなければ、同じ地球の人間だとしても仕組みはいまいち理解できないだろう。
これは無難に、魔法で出したとだけ言っておくのが正解かもしれない。
「魔法で収納場所を作って、そこから出してるんです」
「そんな魔法、今まで見たこともないが……まあいいか」
考えたところでしょうがないと思ったのか。
深くは聞かずに会話を切り上げて、魔石に手を付けると、先程までの雰囲気が嘘のように顔付きが険しくなった。
何かまずかっただろうかと思いながら、何が原因かも分からず首を傾げる。
「おい、この魔石、どこから持ってきた?」
「獣を倒した時に出てきましたけど」
「嘘を言うな。どう見てもこれは、Bランクの魔物から取れたもんだ。冒険者でもないあんたが倒せる相手じゃないだろう」
魔石そのものの質の問題ではなかったらしい。
冒険者としての実力は積んでいないと言った矢先なので、仕入れ先を怪しまれているのだろう。
私だけでなく、ギルド側としても信用問題に関わる話なので、厳しく追及したい気持ちも分かる。
しかしながら、残念なことに嘘ではないのである。
Bランクかどうかは知る由もないが。
「そうは言われましても、事実なので……」
「何か、他に持ってきた部位はあるか?それが見れれば信じてやれるんだが」
そう言われて私は、やってしまったと後悔した。
魔石に関しては、売り物になるかもしれないと判断できたのに、獣の死体を有効活用しようという発想がどこにも無かったからだ。
損傷具合や見た目の問題で、資料には適さないと埋葬してしまったものの、一部を剥ぎ取れば何かしらの素材には使えたかもしれないのに。
「すみません、倒す過程で激しく損傷させてしまって。売り物にならないだろうと思って、埋めてきてしまったんですけど」
「皮の一部だけでも重宝されるのに、それも持ってこなかったのか。……知らなかったってことは無いよな?」
知りませんでした。
うっかり、そう口にしかけて、私は思わず息を呑んだ。
言えば余計に怪しまれそうな雰囲気である。
皮の話に関しても、臓器と共にある程度四散してしまったので、あれが売り物になったのかは微妙なところだ。
「とりあえず、盗品じゃないことだけは保証しますので、今回はそれで勘弁していただけませんか」
「本当だろうな……面倒事に巻き込まれるのはごめんだぞ」
そう言いながら、渋々といった様子で品定めをしてくれた。
融通の利く人だったようで、正直助かる。
たとえそれが端金にしかならなかったとしても、無一文よりは些かにましというものだ。
全てを見終えると、魔石を持って奥の部屋へと入っていき、麻袋と交換して出てきた。
歩くたびに袋が揺れて、中からはジャラジャラと音が聞こえる。
「魔石が七個。サイズと質から見て、七個ともおおよそ一年ものだな。一つにつき1200ギル。全部で8400ギルだ。確認してくれ」
内訳を説明し終えると、銀貨を八十四枚カウンターの上に置いた。
一年ものという言葉の意味は分からないが、今は金額さえ問題なければ構わないので、後回しにする。
置かれた銀貨を全て数え、問題ないことを確認した私は、貰った銀貨を再び袋に仕舞い込んだ。
「仮に、あんたの言うことが本当だとして、どの魔物を倒したんだ?」
「名前は分からないですけど、真っ黒の毛並みに赤い目をした四足歩行の獣でしたね。やたらとスピードが速くて、身体も大きくて」
「その特徴で言ったら、ダークウルフか?」
捻りも何も無い、見た通りの名前だった。
余所者の私にとっては、姿が連想しやすくて非常に良い。
「それで合ってると思います」
「有り得ねえ……」
私の返事を聞くなり、頭を抱えてため息をつき始めた。
訳の分からないことばかり言われて、頭が痛いと言った様子だ。
ここまであからさまな態度をとられると、逆に申し訳ない気持ちになる。
謝罪はしよう、心の底で。
とは言え、嘘は何一つ吐いていないけれど。




