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破滅の魔女は異世界を救う  作者: 藤川秋
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第76話 檻の中

大凡の距離を計算して、私は建物の中へと潜り込む。

上空で使用していたのと同じように、隠蔽工作はしっかりと施してあるので、誰にバレることも無く侵入は無事に成功した。


(中に入って正解だったかな)


結論から言ってしまえば、私の読みは見事に当たっていた。


───中に閉じ込められていたのは、まだ操られる前であろう村人達だったのである。


(だいぶ窮屈だな)


誰も彼もがやつれた顔をして、不安の色やら諦めの表情やらを滲ませたり、びくびくと恐怖に体を打ち震わながら身を寄せあっている。


元が何人住んでいたのかは知らないが、明らかに定員オーバーといった感じで、どの部屋もあまりスペースに余裕が無い。

このような状況下で尚、ゆったり寛げるほど屈強な精神の持ち主もいなさそうだが、それにしたってこれほど窮屈では休まるものも休まらないだろう。


気が狂うギリギリのところで踏みとどまっているのか。

はたまた、暴れるほどの体力や気力が無いのだけなのか。


(誰も喋らないから、静かだな)


兎にも角にも、早々に助け出すべき状況であることだけは確かなのだった。


───何しろ、異質なのは村人達の様子だけではないのだから。


つい先日まで、ごくごく普通に生活していた様子が見て取れるほど、この家の中は一切合切荒らされた様子が無い。


家具。日用品。食料に衣類。調理器具。農具。

日々生きていくためのあれこれ。


()()()()()()()()()()()()()


村人など取るに足りぬということか。

あるいはわざとか。

どちらにしても質が悪い。


(いきなり話しかけたら、確実にパニックが起こるだろうな)


この状況で姿を現せば、まず間違いなく敵かどうかと疑われる。

少しでも大きな声を出されては、魔族に私の存在がバレてしまうかもしれない。


ならば、やることは一つ。

話しかける前に、安全な場所に移動してしまえばいい。


「───え?」


「どういうこと……?どこなの、ここ!?」


幸いなことに、私にはうってつけの魔法があるからして。

ひとまず先に、ロランの街へ避難を済ませてしまうのであった。


いきなり周りの景色が変わったことに、住民達はパニックを起こしてしまっているが、それはそれ。

騒がれても、はたまた暴れられたところで、今この場所に限ってはさしたる迷惑もかからないし、私一人でも十分どうにかできる。


より安全な場所へ避難させるのなら、ロランより王都にでも向かった方が良いのだが。

さすがに、あれだけ人の大勢集まる場所で、集団ヒステリーでも起こされれば手が付けられないし。

何より、ここ数日間で起こった出来事について、当の被害者達から話を聞いておきたい。


「落ち着いて、皆さん。ここはロランの街です。今のところは安全ですから、どうか騒がず」


「だ、誰だあんた!」


「此度の件に関わっております、シオンと申します。一冒険者として、ひとまず皆さんをロランまで避難させていただきました」


そう言いながら、ギルドカードを村人達の目に入るように順に見せて回った。

さすがに、身分そのものを疑われることは無かったが、ロランの街に避難したことについては誰一人として理解が追い付いていない。


「確かに、今までいた場所じゃないことだけは確かだけれど、ここがロランだなんて嘘よ。だって私達、あの家から一歩も外に出てないのよ?」


「そうだよ。動いてすらいないのに、そんなとこまで移動できるはずがないだろう」


「じゃあ、まあ、とりあえず村じゃないことだけ分かってもらえれば大丈夫です。身の安全さえ確保できればOKなので」


私があっさりと引き下がると、その場にいた全員が戸惑うように押し黙った。

もっと食い下がると思っていたのだろうか。

あまりに拍子抜けで、思わず毒気が抜けたような顔にも見える。


「すみませんが、皆さんが知りうる限りの情報をお聞きしたいので、ギルドまで一緒に来ていただけますか?終わったらすぐに体を休められるように手配しておきますから」


「……い、嫌だよ。どこに連れてかれるか分かんないもん」


怯えながら言ったのは、一人の子供だった。

この手の状況で、真っ先に泣きわめくのは子供であろうに。悲しいかな、それほどの気力すら残されていないようである。


けれども、子供は正直だ。

なので、言いたいことは構わず口にしてしまう。

目の前にいる私が、魔族でなくて良かったなと思った。


「そうね、分かった。そしたら、職員さんの方から来てもらうことにするから、ここで待っててもらっていいかな?」


「え……?」


まさか、自分の我儘が通るとはさすがに思っていなかったのだろう。

何を言われるかとびくびくしていた子供は、気まずそうに伏せていた目を私に向けた。

どうして?とでも言いたげな眼差しで。


「大丈夫。だって、私は敵じゃないからね」


その視線に答えるべく、私は子供にそう告げた。

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