第67話 ボランティア活動
その街は、隣国へと続く関所にほど近い場所に位置していた。
商業都市ロラン。
数多の商人や冒険者が、関所を抜けて最初に辿り着く街。
長い道のりを進み、無事に国境を超えた者達が疲れた体を休めるための、宿場町としての役割も果たしている。
隣国との貿易や、それらを目的に集まる者達を客として、商いを元にこの街は成長してきた。
つまるところ。
この街付近の交通が封鎖されてしまうことは、お互いの国に大きな打撃を与えることに他ならない、ということである。
だからだろうか。
まだ街に入ってすらいないというのに、辺りの空気がピリピリとしている。
関門付近に立っている、兵士のお兄さん方も、あからさまにピリピリしている。
というか、ビリビリしている。声量が。
「だから!今は住民か関係者じゃない限り、街には入れないんだ。頼むから帰ってくれ!」
「そこを何とか!もう食料も尽きちまったんだ、これ以上歩けねえよ……!」
「俺達が勝手に判断する訳にはいかないんだよ!保存食ぐらいは分けてやるから、他を当たってくれ!」
ちょっとした修羅場状態だ。
一人のみすぼらしい格好をした男が、兵士の足にしがみついて街に入るための許しを乞うている。
彼が果たしてどこから来たかは知らないが、こういうこともままあるのだろう。
おそらく、敵の魔の手が伸びるとすれば、真っ先に目を付けられるのはロランであるはずなのだから、おいそれと人を招き入れるわけにもいかないのが辛いところである。
取れぬ責任は負わぬに限る。
さすがに魔族と人間の見分けは付けられようが、この手の混乱に乗じて悪さをする奴というのもいないではないし。
そう安々と門をくぐらせる訳にもいくまい。
「んー……どうなんでしょうねえ、あの人。そういうフリしてる人だと思います?」
「怪しいところはあるよなあ。服装とかはそれっぽくしてるみたいだけどさあ、普通それだけの距離歩いてくるのに、あんなに手ぶらで動き回らなくねえ?」
「私的な判断ですけど、俺には言うほど疲れてるように見えませんね。やけに力が有り余ってるというか、足取りがしっかりしすぎているような気がします」
「うん、私もアルの意見に賛成かな。モーリスさんの言うことも尤もだし。何するつもりなのか知らないけど、あれだけ手ぶらってことは他に仲間がいるのかも」
「悪党の輩か。大変な時期だってのに、嫌なことする奴もいるもんだ」
「こういう時期だからこそですよ、フレイル。性根のひん曲がった輩の集まりですからね、賊というのは。あのようなずさんな計画では、中に入ることすら無理でしょうけれど」
残念だけれど、それはごもっとも。
たまたま運が悪かったのか、考えるおつむが足りなかったのか。
ともすれば、両方とも言える。
この非常時、警戒態勢強まる最中に、上手く潜り込めるだけの知恵と技術は持ち合わせていないようだ。
「これ、仲間も見つけちゃって、賊として引渡した方がいいんです?」
「ただの一般人なら危ないが、俺達はそうじゃないからな。万が一のことがあって、街中に入り込まれるくらいなら、捕まえておいた方が安心かもしれない」
「まあ、魔族云々で忙しい時に、あんなちんけな奴らのために労力割かせるのも悪いけどなあ。他のところで悪さされても、それはそれで困るし」
「ですね。さくっと見つけて捕まえちゃいましょうか」
ほんのちょっとしたサービス精神だ。
いわゆるボランティアといったところか。
時間をかけるほどの相手でも無さそうだし、さっさと終わらせてしまおう。
♢
「───というわけで、捕まえたのが彼らになります」
「げ!なんで捕まってるんだよお前ら!」
結局、掛かった時間はたったの数分で、彼が変わらず無駄な抵抗を試みる間に、あっさり捕まえることができた。
これまた馬鹿馬鹿しいことに、身を隠すことすらせず呑気に野営などしていて、手持ちの品から概ねの目的も推測できたほどである。
最後の無駄な悪あがきも、フレイルさん達にあっという間に抑え込まれ、コレットさんにすら手も足も出ず終いで、その無惨な姿に思わず目頭を抑えてしまったのはここだけの秘密だ。
「そこにいる男とグルになって、街に入って悪さをするつもりだったようなので、引渡しに参りました」
「なるほど、助かる。しかし君達、見たところ冒険者のようだが……ここら近辺には近寄らないよう、他の街にも警告文を出してあるはずなんだが。知らぬまま来てしまったのか?」
「いいや。俺達は所謂関係者だ。ギルドからの要請に応えて、サイラースから来た」
「あんた方がか?」
「ああ。ここに正式な文書があるから、ギルドに持って行って確認を取ってきてくれると助かる」
「……分かった。ここで少し待っていろ」
そう言うと、突き出した賊共を引き連れて、街の中へと入っていった。
程なくして、門の前には他の兵士が立ち、ひやりとした静けさだけがその場に残る。
「えー、嘘だろ?って顔してたな、今の奴」
くすくすと、モーリスさんが面白そうに笑って言う。
「こんなに早く来るわけがないと思ったんだろう。文がギルドに届いてから、日も経たないうちにここまで来たんだからな」
「緊急事態だしと思って、スピード重視で来たんですけどね。怪しむのも当然ではありますけど」
もはや、わざわざ言葉にする必要すらないほど定番になった例のアレでここまで来たので、その辺りの常識はまるで通用しない。
「スピード重視とか、そういう問題じゃないと思うんだがな。俺としては正直、魔法を教わる相手が本当にお前でいいのか、分からなくなってきたところだよ」
「なんでよ。そこは尊敬する方向に持ってっといてよ」
私ほど魔法の扱いに長けたものなど、この世界においてはそう居ないと思うぞ?
自惚れのようになってしまうので、口にはしないでおくけれど。




