第66話 さながら悪代官
「それで、結局ヴァンパイアというのはどのような……?」
「まあ要は、魔族の一種だよ。さっき言った“魅了”だったり、“吸血”することで人間を操る厄介な相手だ。特に、後者は奴らの専売特許でな。当の本人が倒されても効果が切れることが無いっていう、最悪の代物でもある」
「幸い、一度に操れる数にも限りがあるみたいですし、今はまだ大きな街を丸ごと滅ぼすまでには至ってないでしょうが……報告書によれば、現れたのはロランに近い村だそうですから、早くに手を打たないとロランも危ないでしょうね。おそらく、村人達は既に魔族の手駒にされているはずですから」
「村人達を操って、街に攻撃を仕掛けるのも時間の問題だろうな。かといって、下手にこちら側から仕掛けるのもまずい。ロランから援軍要請が来てはいるんだが、どうすれば一番ベストか俺達と支部長で話し合ってたんだ」
「だから、その手の知識がないか聞きたかったんですね」
今回、一番懸念すべきは、送り付けた軍勢が相手に篭絡されてしまうことにある。
いくら操れる数に限りがあるとはいえ、実際の限度がいかほどか、私達には分からない。
何の対策も無しに向かっては、相手の手の内を増やすはめになりかねないだろう。
「実際に操られた人が、どういう状態になるのかは分かりますか?」
「過去の記録を読む限りでは、完全に意思疎通が出来なくなるらしい。あまり良くない言い方ではあるが、さしずめ操り人形といったところだろうな」
「そうなると、自力で抵抗するのは無理でしょうから、未然に防ぐ術を身につけた方がよさそうですね。敵の数が増えてしまうことを考えると、後から治療できたとしても余裕がありませんし」
方法だけで言うなら、力技でどうにかするという手もないでは無い。
殺られる前に殺る。
ただし、できるかどうかは別問題である。
そしておそらく、できる人がいないと思われるので提案はしない。
「残念ながら私は、魅了に対抗できる魔法を知りません。簡単な傷ならば、癒すこともできるのですが……。シオンさんなら、もしやと思って来ていただいたのですが、何かいい案はありませんか?」
「そうですねえ……魅了そのものを防ごうと思うと、扱う魔法が複雑になるので、人に教えるのは難しいと思います。私が使う分には問題ないんですけど」
魔法を使うためには、当然知識がいるわけだけれど、医療関連の情報を彼らに伝えるのは正直無理がある。
教えたところでまともに理解できないだろうし、そもそも時間をかけている暇はない。
加えて、扱う魔法が一種類だけならまだやりようはあるが、現実にはそう上手くはいかないのが厳しいところである。
───意思疎通は不可能。つまり、脳が支配されていることは確実だけれど。
脳からの伝達情報をいじることで身体を動かしているのか。
はたまた、肉体そのものを強制的に動かしているのか。
可能性が一つに絞れない以上、全ての事態に対応できるように魔法を組むしかないのだ。
───そんなの、他の誰かにやれって言ったって、無理な話だろう?
操る側からすれば、どれか一つの方法に絞った方が効率が良いのだろうが、魔族がそこまで徹底しているかは不明なところだ。
それにそもそも、それが魔法によるものなのかすら疑問の余地がある。
魔法とは全く別の代物であるならば、効率云々を考える必要すらないかもしれない。
そこのところ、魔族に限らず、魔物というのは今いちよく分からない生き物だ。
全く未知の生態系を見つけたのとまるで変わりないのだから、そんなものと常に命のやり取りをしなければならないなど、正気の沙汰ですらないように思える。厄介極まりない。
(ぶっちゃけた話、私が現地に向かうのが一番手っ取り早い気がするんだけどね)
どうせ却下されると分かっていて、わざわざ口に出すほど酔狂でもないのだが、それが事実であることは間違いないだろう。
その上で、求められるものがアドバイスだけとは、つまりはそういうことである。
さて、どうしたものか。
「───なあ。俺に一つ、いい案があるぜ」
そんな時、フレイルさんがおもむろに口を開いた。少しだけ意地の悪そうな顔をして。
学校に必ず一人、こういう悪ガキがいたものだよなと、懐かしく感じるような。
「いい案って、何かしら?」
「ようは、シオンが俺達と一緒に来れるようにしたらいいんだろ」
まったくもって、その通り。
彼の言う“いい案”が何なのか、この時点で察しのついた者も幾人か居たのではなかろうか。
つまるところ。
「一時的に、俺達のパーティー仲間ってことにすればいいんだよ」
ギルドには、こんな仕組みがあったはずだ。
基本的に、受けられる依頼は自身のランクより一つ上までだが、パーティーにランクが上の者がいる場合には、二つ以上差があっても受注可能であると。
彼らは全員Aランク。
さすれば、たとえ私がCランクでも、何の問題もなくなるというわけである。
抜け穴も抜け穴。
こんな非常事態に敢えてその穴をついて、仮にもCランクの冒険者をSランクの魔物と戦わせようだなんて。
そりゃあ、意地の悪い顔だってしたくなる。
───お主も悪よのう。なんてね。




