第63話 方針決定
第63話
「アルは、物覚えは良い方?」
「まあ、悪くは無いと思うが……何故そんなことを聞く?」
これが私とアルの、訓練の日々の始まりにおける、最初の会話だった。
同時に、アルにとっては、地獄のような勉強の日々の始まりでもあったことだろう。
だって、イメージだけに頼って、ちんたらやってる暇なんて無かったのだもの。
よっぽど感覚的に生きてるか、想像力豊かじゃないと、あっという間に頭打ちになるのは目に見えているし。
親兄弟を越えたいというのなら尚更のこと。
私に指導を頼んだが最後。
どうせやるのなら、例え地獄のような日々であろうと、とことんやらせて頂くとしよう。
♢
遡ること、ほんの少し前。
晴れて、パーティーを組んだ翌日のこと。
ギルドに申請するべく、アルと二人で足を運ぶと、偶然にもラウルさんの休憩時間とかち合った。
「こんにちは、ラウルさん」
「よう、シオン。男連れか?」
「オッサン臭いこと言わないでくださいよ。別にそういう間柄じゃないです」
ニヤニヤと、いやらしい顔をして聞いてくるので、思わずどつきそうになった。
確かに、基本的に誰かと連れ立って歩くことがないから、珍しいのは分かるけれど。
「まあ、それは冗談だ。パーティーでも組んだのか?」
「当たりです。さっき申請してきました」
「やっぱりな。たまたま、二人一緒に受付してんのが見えてたんだ。シオンももうCランクだもんなあ」
「パーティー組まないとまずいって聞いたんで」
「その言い草、今までは組む気無かったってことかよ。普通───ああ、お前に普通とか言う方が間違ってたな」
やれやれ、といった表情だ。
今までのことがあるので、そのような態度をされても仕方が無い。
私自身、自分がここまで阿呆みたいなスペックを持っていなければ、もっと早くにパーティーメンバーを探していただろうから。
まあ、その場合、そもそもランクすら上がっていないだろうけれど。
「……何というか、お前が他の新人から避けられるのも納得できるな」
「え、今ので?」
「ギルドの職員すら異常視するレベルだなんて、そうそう有り得ないぞ。一体何をやらかしたのかとか、俺なら想像したくもないね」
「しない方がいいぞ。頭が痛くなる」
今までの所業を思い返しているのだろうか。
心做しか、ラウルさんの目が虚ろだ。
その姿を見たアルも、何かを察したように哀れみの目で見つめているし、少し話題を逸らしてあげた方がいいかもしれない。
「ラウルさん。ちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか」
「ん?何だ、聞きたいことって」
「魔法師って、どれくらい魔法の扱いに長けてるのか知ってます?」
「なんだ、唐突に。変なこと考えてんじゃないだろうな?」
ラウルさんが、訝しげな表情をして聞いた。
私の隣では、アルがいち早く反応して、何かを訴えたそうな顔をしている。
だかこれは、彼の目的を果たすためには必要な調査だ。
名称だけなら再三耳にしてきたけれど、実力の程を私は知らないのだから。
情報が無ければ、目標設定のしようがない。
非効率的な訓練は避けたいところである。
故に私は、彼の訴えを敢えて無視する。
少なくとも、素性がバレるようなヘマだけはしないから安心していてくれ。
「いや、あまりに関係性を疑われるものだから、逆に気になって。ひとまず、実力がある人達ってことだけは分かるんですけど」
「興味本位ってことか。俺も別に、詳しく知ってるわけじゃないんだがな。貴族の知り合いなんざ、いるわけもねえしよ」
魔法師とは、王族に認められ、宮仕えをする魔法使いの名称であると共に、貴族を表す言葉でもある。
その程度の知識なら、宿の女将さんに世間話のついでに聞いたことがある。
地球の歴史においても、魔法が神聖なる力の象徴であった頃には、その技術を一族だけで語り継ぐことにより地位を高めた者達がいたとあるが、経緯としては似たような流れを踏んでいるのではなかろうか。
それに、騎士にしても魔法使いにしても、その手の学校に通うにはお金がいる。
結局のところ、必然的に貴族が揃うように周りの環境が整っているというわけである。
「王族に仕える以上、余程の実力が無いと務まらないのだけは分かるがな。噂じゃ、無詠唱で魔法が使えるのが当たり前だとか」
「それなら、シオンは王宮で働けそうだな」
「いやあ、ご遠慮願おうかな」
「働けるどころか、シオン相手じゃ魔法師すら適わない気がするんだよな」
「そこまで言います?」
「言いたくもなるだろ、お前みたいな奴見てるとよ。まあ、普通なら口が裂けても言えないことだけどな」
(一応、元関係者が目の前にいるんだけどね)
ひとまず、口を滑らせるとまずい相手だということは分かった。
火のないところに煙は立たぬと言うし、噂が飛び交う程度には実力があるのだろうことも。
(とりあえず、無詠唱で魔法を使いこなせるようにすればいいかな)
一番は、自分と同じ方法、つまりは地球スタイルで学んでもらうのが確実なのだけれど。
果たして、地球における科学知識は、どこまで彼に受け入れてもらえることやら。
やってみないことには、結果が全く読めないところだ。
ならば、ひとまずはやるっきゃない。
ごちゃごちゃ考えるのはその後だ。
「ねえ、アル───」
♢
かくして、話は冒頭に戻る。
「おめでとう、アル。君はしばらくの間、お勉強道具とお友達になってもらうよ」
「は?どういうことだ、それ」
「訓練の一環だよ。実戦じゃなくて、座学だけどね。やると決めたからには、本気で上を目指してもらわないと。ねえ?」
後から聞くには、この時の私はかなり危なげな匂いのする顔付きをしていたそうで、身の危険を感じたと言っていた。
それだけは、申し訳ないと感じた次第である。




