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破滅の魔女は異世界を救う  作者: 藤川秋
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第59話 覚悟

ここが地球だったなら。

専門的な検査をすれば、真に魔法が使えるかどうか即座に判明したことだろう。

しかしながら、ここは地球ではないので、同じ方法を使うことはできない。

もし彼が、私と同じように障害を持つのなら、その時こそ私は土下座でも何でもしよう。


それでも私は、許されることならば、事実を究明してみたいと思う。

それが幸であれ不幸であれ、真実を知って初めて見えてくる世界もあると思うから。


「先に聞いておきたいんだけど、アルは魔法ってそもそもどういうものか理解してる?」


「全然。そういうことに触れないようにしてきたし、教わってたとしても覚えてない」


当然の返答であった。

もし仮に、教わったことがあるとしたならば、一度だけ受けたという訓練の時であろう。

三歳児の頭で、魔法について一度だけ教わったところで、覚えていられるわけがない。


「必要なことだけざっくり教えると、魔法っていうのは、要は頭の中のイメージを具現化する力で、身体的な障害さえ無ければ誰でも使える力なのね。あくまで理論上の話だけど」


誤解のないように付け加えておく。

地球ならば、夢物語でなくきちんと結果が伴うレベルまで技術が発達しているけれど、この世界ではまだそこまで到達できていない。


「じゃあ何故、使えない人も多くいるのかっていうと、魔法を使うためには結構な量のエネルギーが必要だから。ここで言うエネルギーは、イコールで情報量だと思ってくれればいいよ」


「情報量?」


「そう。ぼんやりとしたイメージじゃなくて、具体的に想像できないと駄目ってこと。例えば形とか、色とか、温度とか、そういう情報がたくさん必要になるんだけど、頭の中だけで思い描くのって存外難しいんだよね」


「確かに、いきなりやれって言われても、そこまで具体的に浮かばない気がする」


「でしょ?だから、使えない人が出てくるわけ。呪文詠唱がオーソドックスなのも、言葉を使ってイメージしやすくするためと、扱う現象を固定化して頭に叩き込みやすくするためだと思う」


呪文ごとにパターンが決まっていれば、型を覚えればいいだけなので、一から想像するより遥かにやりやすい。

勿論、パターンが固定化されてしまうデメリットはあるのだが、少なくともこの世界において、一番効率的に魔法を使えるようにする方法なのは間違いない。

地球でのやり方を普及させようと思ったら、魔法云々を語る前に、まずはこの世界に科学革命を起こすところから始めなければならないだろうから。


ちなみに、地球において爆発的に魔法が普及した理由は、エネルギー供給元をイメージ情報から科学知識に置き換えたからである。

呪文詠唱に比べれば、バリエーション豊かな上発動にかかる手間も省けるが、知識がないことにはどうにもならないので、物覚えが悪いと苦労すると誰かが嘆いていた。


「私が疑問に思うのは、アルが本当に魔法を使えない身体なのかってことだよ。だって、魔法の訓練を受けたのって、三歳の時なんでしょ?大人みたいに物事を理解できるわけじゃないのに、たった一日やっただけで使えないって判断するのはおかしくない?」


「───それは、そうかもしれないが。でも、上の兄は二人とも、その日の内に出来たって言ってたんだ。だから、使えない俺はおかしいって」


「訓練って、実際にはどういう風に習ったの」


「最初に父が手本を見せて、それを真似したんだったかな。詳しい内容は、さすがに覚えてないけど」


父親が教師代わりか。それなら尚のこと怪しいではないか。

彼に対する両親の態度を考えると、まともに訓練させてもらえたのかさえ疑問だ。

人様の親を悪く言うべきではないけれど、こればかりはどうしようもない。

少なくとも、ちゃんと使えたという上の兄二人は、アルとは比べ物にならないほど手厚く指導してもらえたことだろう。


「……ねえ、アル。もし、アルにその気があるならさ。もう一度だけ、試してみない?」


「試すって、本当に魔法が使えるのかってことか?」


「うん。勿論、強要するつもりは全然無いけど。そもそも、絶対に出来るようになる保証も無いし、出来たからってそれが良いこととも限らないし。でも、何かしらのきっかけにはなると思う。だから、アルの気持ち次第かな」


「……俺は」


彼は、言葉に詰まっている様子だった。

すんなり決まるはずがないことは、聞く前から分かっていたことなので、私は彼の返答を気長に待つ。


そうして、どれほど時間が経っただろう。

ようやく口を開く頃には、何かを決したような顔付きになっていた。


「───分かった。やってみる」


嬉しくも、彼は覚悟を決めてくれた。

今度は、私がそれに応える番だ。

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