第57話 二人の仲
「あら。あんたたち、いつの間に仲良くなったの?」
二人揃って食堂に訪れる姿を見て、女将さんが声を上げた。
結局、夕飯の時間になるまで話し込んでしまったため、そのまま一緒に降りてきただけなのだが、彼女はとても嬉しそうにしている。
初めて会った時のことがあるからか、密かに心配していたようなので、喜びたくなる気持ちも分かる。
「あらまあ、良かったじゃないの!折角だから、サービスしちゃおうかね」
そう言って、いつもは決まった分だけ配られるはずのパンを、それぞれ多めに皿に乗せる。
そのついでか、スープまで気持ち多めによそってくれた。
───祝ってくれるのは有難いのだが。
「アル、パンいらない?」
「これ以上はさすがにきつい」
「だよねえ……」
この世界で食べられているパンは、所謂黒パンだ。
日本のようなふわふわと柔らかいパンではなく、まるでフランスパンのような固さがあるので、よく噛む分お腹も膨れやすい。
いつもの量に慣れてしまうと、ほんの数切れ増えただけでも厳しいものがある。
「どうしても無理なら、残った分だけどうにかするけど」
「本当?助かる」
ついでの話だけれど、私は彼に対して敬語を使うことをやめた。
顔見知りというだけの関係でもなくなったし、話を聞く中で彼が、自分と同い歳だということも分かったからだ。
アルノエルという名前も、少しばかり長く呼びづらいので、アルと略して呼んでいる。
「アル、ご飯終わったらもう少し時間取れる?」
「まだ何かあるのか」
「うん、まあ、ちょっとだけ気になることがあって」
「ふーん……?別に構わないが」
濁したような物言いに、彼は釈然としない様子だったが、私の要求には応じてくれた。
こうして、物腰柔らかな姿を見ていると、顔立ちの良さも相まって魅力的な男性に見える。
色恋とはまるで無縁の世界にいた身なので、私個人としてはあまりピンと来ないが、おそらく引く手数多に違いない。
(不思議と、女気は感じないんだけどね)
彼女がいそうかと聞かれれば、答えはノーだ。
恋人になることはできても、長続きがしないタイプというか。
外側を褒められて、内側はあまり受け入れてもらえない感じ。
要するに、損しやすいタイプということだ。
ただの憶測だから、実際がどうかは分からないけれど、当たっていても傷付けるだけなので、絶対口にはしないでおこう。
♢
食事を終えると、アルは自分の部屋に戻ることなく、私の後に着いてきた。
部屋に入ってからの位置は、先程と全く変わらない。
「それで、気になることって?」
「うん、そのことなんだけどね」
実は、彼の昔話を聞いている時にまた、気になることが一つできたのだ。
───しかしながら、この話をするのは少しばかり気が引ける。
今更、やっぱり無かったことにしようとは言わないけれど、伝え方を選ばないと必要以上に彼の心を傷付けることになってしまう。
「……一応、前置きをしておくけれど。今からする話は、ちゃんと理由があってすることだから、怒らないで───というより、怒っていいけど、ちゃんと最後まで話を聞いて欲しい」
「そんなに気に障ることか?」
「物凄く。要はね、アル。私が言いたいのは、貴方は本当に魔法が使えないのか?っていうことだから」
こんな話、彼が怒らないわけがなかった。
魔法が使えなかったからこそ、今までずっと苦しんできたのだから、それを否定することは彼の気持ちを踏み躙る行為になる。
私のお願いを聞いてか、我慢してくれているようだけれど、顔はあからさまに怒りの色を滲ませていた。
誰もが魔法を使えるものだなんで、そんな思い込みは私の中にはもうない。
それでも、怒らせると分かっていて話をしたのは、アルが本当は魔法を使えるのではないかという明確な根拠があるからだ。
私の聞き方はまるで、使えないお前が悪いのだと責めるような、そんな言い草にすら聞こえるだろうけれど、勿論そんなつもりは毛頭無い。
「詳しく聞かせてくれ。それから判断する」
「ありがとう」
判断する内容に、果たしてどこまで含まれているのだろう。
それでも、話を聞いてくれるだけ有難かった。




