↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破滅の魔女は異世界を救う  作者: 藤川秋
55/93

第54話 和解

その日の夕方。

徐々に日が傾きはじめ、次に鐘の音がなる頃には街の門が閉まるだろうという頃。

夕食にはまだ早く、かと言って今更街に出てすることも無し、部屋でゆっくりする他なかったところに、扉をノックする音が転がり込んだ。


「アルノエルだ」


聞き慣れた声だった。

散々言い争いをした男のものである。

返事を一切してくれなかったので、期待はしていなかったのだが、あれだけ騒ぎ立てた割に素直なものだ。律儀な性格と言えよう。

部屋に入るよう促し、扉が開かれた先に待っていたのは、意外にも申し訳なさそうな顔をした男の姿であった。

あの時の威勢はどこへやら、心做しか身体が縮こまって見えるほどで、数少ない彼との面会の中では初めて見る姿でもある。


「ここ、どうぞ」


先程まで座っていた椅子を、彼に勧める。

残念ながら、この部屋に椅子とテーブルは一組しか置かれていない。

ベッドを椅子代わりに、彼と向かい合うように座るが、一向に喋り出す気配は見受けられないので、私の方から切り出した。


「さっきはごめんなさい。少しばかり、感情的になりすぎました」


「……いや、俺の方こそすまなかった」


そう言って、頭を下げた。


「その……どうにも苦手というか。魔法が使える人というのが、生理的に受け付けないんだ。本人を前にして言うことじゃないかもしれないが」


「まあ、何となく分かってましたよ」


今日の発言は勿論、宿で会った時も、忌々しそうな目で睨みつけられたのを覚えている。

彼の言動から察するに、何かしらの嫌な出来事があって、一種のトラウマ状態に陥っているのだろう。


「貴方にも事情があるんでしょうし、それは別に構わないんですけど、やっぱりあからさまに態度に出すのは良くないと思います。何の非もない人からしてみれば、不愉快極まりないですからね」


「───直したほうがいいって、頭では分かってるんだ。周りにも同じようなことを言われたことがあるし。でも、実際に相手を目の前にしたら、どうにも上手くいかなくて」


苦しそうに顔を歪める。

結局のところ、彼の本質はそこにあった。

生真面目で、良くも悪くも素直な性格で、誰かを傷付けることは良しとしない。

まるで漫画の主人公のような、そんな男だ。

だからこそ、彼の心に巣食う闇が、より一層際立っている。悪目立ち、とでも言おうか。

当然、直すべきではあるのだろうけど、一筋縄では行かないことは、火を見るよりも明らかである。


「直そうと思うなら、一番はやっぱり根本的原因を取り除くことでしょうね。たぶん、貴方の場合、嫌いだと思ってる内はどれだけ頑張っても顔に出ると思いますよ」


素直だからね。

それが原因で、今の今まで上手くいっていないのだろうし。

トラウマを克服するのは大変なことだけれど、性格を直すのもまた然り。

同じような苦労をする羽目になるのなら、少しでも精神的負担が減る方を選ぶのが、私としては得策のように思う。

顔に出ないようにしたところで、きっと彼は罪悪感を感じてしまうだろうし、それを続ければいつかは、彼の心が壊れてしまうかもしれないのだから。


ここまで話し合った以上、何か力になってあげたいのは山々だが、具体的な事情が分からないことにはアドバイスのしようがない。

しかしながら、私がそれを聞き出せるようにはならない気がする。

何せ私は、彼の嫌いな魔法使いだ。

ここから仲良くなるビジョンは、今の私にはまるで見えない。


「───ああ、そうだ。もう必要なさそうですけど、一応これ」


懐から───と見せかけた収納魔法で───書類を一枚取り出す。


「……?何の紙だ?」


「いわゆる証言書です。ダンカンさんにお願いして、書いてもらいました」


「は!?証言書って、お前、わざわざそこまでしたのか!?」


「だって、正直ここまで素直に謝ってくれると思わなかったから、保険にと思って」


いわゆる悪魔の証明で、不正が無かったことを証明するのは無理があるのだけど、無いよりはマシだろうと思って事前に用意しておいた。

彼の名前は伏せて、事情だけの説明で済ませておいたが、それでも快く書き上げてくれたダンカンさんは懐が深い。

これでもまだ文句を付けるようなら、いよいよもってお手上げだと考えていたのだが、蓋を開けてみれば予想と全く違った展開で、いらぬ心配だったようである。


「とりあえず、私が話したいことはそれくらいですかね。その書類も、信じるかどうかはお任せしますし、私からはなるべく関わらないようにはしておきますから、安心してください」


「……分からない。わざわざ書類まで用意したくせに、何でそこまで割り切れる?」


「理屈さえ理解できたら、大抵のことは飲み込めるからですよ」


勿論、腹が立たないわけじゃない。

嫌気が差すことだってままある。

それでも、状況さえ把握できれば、出来ることと出来ないことの区別がつくし、どうにもならないことには諦めがつく。


「まあ、考えた方としてはあまりおすすめしませんけど。半分心が死んでるようなものですから」


実際、私の心はおそらく死んでいる。

きっとどこかで、人として大事な何かを失ってしまった気がするのだ。

喜怒哀楽とはまた別の、大切な何かを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。