第53話 小競り合い
こんな所で押し問答していても、何の益にもならない。
「とにかく。代わるんですか、代わらないんですか?交代する気がないなら、このまま夜まで警備お願いしますね」
「は?なんで俺が」
「フレイルさん達の代わりに私が来たんですから、待ってたって他に誰も来ませんし。断るってことはそういうことですよ」
「他のやつに頼んでくればいい」
「そこまでする義理もありません。やるなら自分でやってください」
「ちっ……卑怯な奴」
卑怯?誰が?
別にこれ、代わって欲しければ不正を見過ごせとか、脅しをかけてるわけじゃなく、紛うことなき事実なのだけれど。
フレイルさん達は、仕事を代わってくれたからと溜まった依頼の処理に出かけてしまったし、きちんと許可を得てここにいるのだから、それを断られたからといって私がフォローする必要など何処にも無い。
明らかにこいつの我儘だもの、これ。
「そもそも、何でそんなに目の敵にするんですか。私、何もしてませんよね?」
「不正を働いただろう」
「それは貴方の勝手な思い込みです。ちゃんとギルドに認められてるって、さっき証拠を見せたばかりでしょう」
「あれは、Cランクであることの証明にしか過ぎない。ランクを上げてもらえること自体がおかしいって話をしてるんだ」
ああ言えばこう言う。
嗚呼、面倒くさいな、この男。
いくら顔が良くても、性格がこれでは。
「どんだけ捻くれてんですか、貴方」
「お前が悪いんだろ!?俺だって、誰彼構わず突っかかったりするものか!皆、何年もかかって必死に努力して、やっとの思いでランクを上げてるっていうのに、それをお前は!」
物凄い剣幕で捲し立ててくる。
なるほど、それが一番の本音か。
勘違いも甚だしいが、彼の言いたいことはよく分かった。
どうやら私は、彼のプライドを著しく傷付けたようである。
言動一つ一つは癇に障るものの、理屈としては理解できると、そう考えていた矢先。
「だから嫌いなんだ、魔法を使う奴は。自分のことしか考えてない」
「……はあ?」
ぶち殺そうかと思った。
間違えた。ぶっ飛ばそうかと思った。
危ない、危ない。
今度誰かを殺したりしたら、いよいよもって地獄に落ちるところだった。
いや、洒落にならないからね、これ。
そんなことより、この男。
ちょっとばかり思い込みが激しいだけの、至極真面目で真っ当な人間かと思ったら、思い切り自分の趣味嗜好の話を混ぜ込んでやがったというか。やっぱりただの我儘じゃないか。
憶測でしかないことを一々騒ぎ立てたり、挙句の果てには自分が気に食わないというだけで人を貶めようとしたり。
ガキか、こいつ。糞ガキか。
精神年齢の低いお子ちゃまだったのか。
腹立たしい。おしゃぶりねじ込んで粉ミルクぶちまけてやりたい。
「……警備、代わりますから。貴方は街に帰ってください」
「おい、俺はお前のこと───」
「邪魔だって言ってるんです。いいからさっさと帰れ、糞ガキが」
思わず睨みつけた。
ついでに、本音も漏れてしまった。
我ながら、相手を畏怖させるだけの威厳はあるらしい。彼は少しばかり青ざめて、喋りかけていた口を固く閉ざした。
何か言いたそうにしていたものの、そのまま踵を返して立ち去ろうとしたので、その背に向かって言葉を投げかける。
「まだあの宿に泊まってるんですか」
「……それがどうした」
「後でちゃんと話をしましょう。このままじゃお互いに納得がいかないでしょう?」
「……」
「名前を聞いても構いませんか」
「……アルノエル」
反発されるかと構えていたのだが、意外にも素直に答えてくれた。
どうしようもなく子供らしい一面もあったけれど、やはり根は真面目らしい。
タイミングというか、状況の組み合わせが悪かった部分もあるのだろう。私も、売り言葉に買い言葉で熱くなりすぎていた気がする。
あまり人のことは言えないか。
そう考えたら、自然と怒りは収まっていた。
「私はシオンです。女将さんには話をつけておきますから」
彼は何も答えない。
明後日の方向を向いたままで、どんな顔をしているのかさえ分からない。
結局、返事はしないままに、彼はこの場を立ち去った。




