第52話 石頭
フレイルさんに尋ねてみると、どうやら早速警備の仕事があるということで、街を出て森林へと向かった。
森は兎に角広いので、何ヶ所かに分かれて警備しなければならない上、人手もそこまで多いわけではないため一人の持ち時間が長いらしい。
教会が鳴らす鐘の音を目安に、一日三回それぞれ交代するそうだが、街の門が開かれてから閉じるまでのおよそ半日を、たったの三分割で済ますのだからそう感じるのも致し方ない。
パーティーやソロの違いであったり、チームごとの人数比も考慮しながらシフトを組んではいるものの、現状ひたすらに森を見守るしかすることが無いそうなので、一人でいればいるほど暇な時間が増すと言えよう。
ちなみに、フレイルさん達はそれぞれ二人組に分かれて警備していたらしく、思いの外シフトを多く受け持つことになってしまった。
当の本人達は、申し訳ないので半分で構わないとは言ってくれていたが、他に手伝えることもないので問題無いと断ったのは私の方だ。
実際、何時間もただ暇を潰すだけというのは、いくら平和である方が良いとは言っても、全くの別問題であるというか。
ぶっちゃけ、物凄く疲れるに決まっている。
やらずに済むならその方が良い。
他にやるべき事があるなら、尚更だ。
逆に言えば、私にはそれくらいしか出来ることがないので、疲れるだけと分かってはいても引き受ける他無かった。
「お疲れ様です、交代の時間なので来ました」
指定位置に向かうと、一人の男性が立っていたので声をかけた。
綺麗な銀色の髪がさらりと揺れて、こちらを振り返ると、紫色の瞳とかち合う。
「───何で、お前が」
男は口を開いた。
その言葉は、私の心を揺さぶる。
───この人、何処かで会ったことがある?
「……もしかして、風呂桶直した時にいた人?」
そう、この男。
何となく見覚えがあると思えば、宿に泊まった初日に睨みつけてきた奴ではないか。
相変わらず表情が険しいのだが、折角の端整な顔立ちが台無しな上、態度としても失礼極まりない。
心の中でどう思おうと個人の勝手であるが、顔に出さないくらいのモラルは持ち合わせてほしいものだ。
何が気に食わないのか知らないが、こちらは何も悪いことなどしていないのだから。
「何でも何も、交代しに来たと言ったばかりですけど」
「お前は新人のはずだろ。何でFランクの人間が警備の仕事に参加しているんだ」
「貴方こそ、何でそれを?」
「別に。この間、ぞろぞろと連れ立って外に出てくところを、たまたま見かけただけだ。あんなの、誰が見たって新人の集まりだって分かる」
なるほど、試験会場に向かうところを見かけたから知っていたと。
確かに、あの場に集まっていた受験生は、誰もが新人らしい雰囲気でいたのは覚えている。
私がどうだったかは分からないが、一緒に外へと向かったのなら、必然と受験生であることは周りにばれるだろう。
加えて、私の外見は特に目立つ。
彼の場合、初めてでなく二度見かけているのだから、十分に顔は覚えられるはずだ。
「言いたいことは分かりました。ですけど、残念ながら今はCランク冒険者ですので、仕事が出来ない理由にはなりませんね」
「……何を馬鹿なことを言ってる」
阿呆らしい、と吐き捨てた。
「分かりきった嘘をついて、お前は何がしたいんだ?俺を馬鹿にしたいのか?」
「全然。そもそも嘘じゃないですし」
言って、私はギルドカードを彼の目前へと突き付けた。
ばっちりと刻まれたCの文字。
それを見て、彼は驚いたように押し黙る。
当然だ。私の言葉が事実であると、それこそ嘘偽りなく、このカードが指し示しているのだから。
ただ金属に文字を掘っただけのカードなど、いくらでも偽装できると思うだろう?
ところがそうじゃない。
実はこのカード、とある塗料が塗りつけてあるのだが、この塗料というのが肝なのだ。
聞いたところ、特殊な手法で製造する上、ギルド以外が使うことを禁止している特注品だそうで、使えば一発でギルドが発行したものであると分かるようになっているのである。
その上、カードは様々な場面で提示を要求されるし、その都度内容を確認される。
ギルドに保管されている情報と組み合わせて、少しでも食い違いがあればそこから不正が分かる仕組みになっており、偽装対策はそれなりにきちんと施されているようだ。
つまるところ、私が見せたカードは正式に発行されたものであり、間違いなくギルドが認めた上でランク上げが行われたという証拠にもなるのだ。
ざまあみろ、青年。
「お前……コネでも使ったのか」
「貴族じゃあるまいし、使えるコネなんかどこにもありませんよ。ちゃんと王都で試験を受けた結果です。そこまで信用ならないなら、本部にでも問い合わせてください」
「何で俺がそこまでしなきゃならない」
「それを言ったら私だって、本当かどうかを証明する義理なんて何処にも無いんですけどね」
どうあっても、私のことを認める気は無いらしい。石頭か、この人は。
早く仕事を代わるか、代わらないのなら帰らせてほしいところなのだけれど。
果たして、彼のことを覚えている人がどれだけいるでしょう。
後々のためにと伏線を張ったものの、再登場させるまでに41話も使ってしまいました……ごめんよ青年。
全然覚えてねえって人は、是非11話をご参考ください。ああ、こいつかってなります。




