第50話 帰ってきた
出発日を含め、述べ4日。
再びサイラースの街へと舞い戻る。
普通に報告書を届けたのでは、王都にすら着いていないのではないかというスピードで事が済んでしまったが、そのほとんどはテレポートのおかげである。
燃費の悪さ故に、短距離では使いたくないこの魔法も、長距離移動となれば頼もしいことこの上ない。
王都の熱気を散々浴びた後では、この街の程よい人気に気分が落ち着くくらいであった。
「あー!シオーン!」
「モーリスさーん、ただいまぁー」
「おかえりー!」
ギルドの中へ入ると、タイミングよくモーリスさんと出くわす。
久しぶりに会ったわけでもないのに、彼のノリが懐かしく感じられた。
『紅蓮の炎』はあれから、森林周辺の警備を行うためにこの街に滞在し続けている。
「おお、帰ったかシオン」
「おはようございます、フレイルさん。あれから森の様子はどうですか?」
「意外と落ち着いてるぞ。一応、万全を期して立ち入り禁止にはしてるが、魔物が外に溢れたりとかは特に無いな」
「じゃあ、後は調査隊のメンバーが集まるのを待つだけですね」
「そこが一番厄介でしょうね。支部長も必死に呼びかけてはいるみたいですが、迷宮を調査するとなると人選も大変でしょう」
「そうね。私達はたまたま街に居たからいいけれど、外から集めるとなるとそう簡単にはいかないわ」
手紙一つ届けるにも、人の足か馬で駆けるくらいしかないこの世界では、かなりの日数を要してしまう。
届いたからといって、すぐに人が集まるわけでもなし、完全に解決するまではまだまだ時間がかかりそうだ。
「本部の反応はどうだった?」
「いやもう、予想通りですね。行かなかったらアウトだったかもしれません」
行ったら行ったで、アルヴァンさんを苛つかせてしまったみたいだが、何もしないよりは遥かにマシだったろう。
手紙だけ寄越していたら、果たしてどんな反応を返されたことだろうと、想像しただけで背筋が凍る。
「試験はこれから受けるのですか?」
「いえ、もう受けてきました。準備に時間がかからなかったので。ラッキーでしたよ」
「マジで?カード見てもいい?」
「いいですよ、どうぞ」
モーリスさんに、貰ったばかりのギルドカードを渡す。
全員がそれを覗き込み、ちいさく感嘆の声が上がった。
「本当ね。ランクが上がってるわ」
「えー、Cランクにしかしてくんなかったの?本部ってケチなのな」
「仕方がありませんよ。大人の事情というやつでしょう」
「ああ。あんまり大きな声で言えたことじゃないが、無駄に頭のお堅い連中ってのは、何処にでもいるからな。貴族なんかは特にそうだ」
確かに、アルヴァンさんもそのような事を言っていた。
具体的に誰とは言わなかったけれど、どの世界にも厄介な連中というのは存在するらしい。
体裁の問題もあるからと、このような形で今回は済まされている。そこに不満は特に無い。
大人同士のしがらみというのは、兎にも角にも面倒くさいものだ。
不必要に拗らせるのは得策ではない。
「Cランクじゃ、森林には入れないよなあ」
「諦めなさい、モーリス。幸い、依頼はそこまで立て込んでいないのですから」
「森がどうかしましたか?」
「気にするな。ほら、今は森林が立ち入り禁止になってるだろ?既に出されてた依頼とか、常駐依頼に頼ってた素材が滞ってんだ。それを俺達が出来る限りで処理してるんだよ」
「ああ、なるほど」
普段と違い、Aランクの魔物に出くわす可能性も高い今の状況では、フレイルさん達くらいの実力が無いと森に入れさせてもらえない。
しかしながら、いつまでも放ったらかしの状態では、困る人も出てきてしまう。
警備だけでなく、依頼の処理も全て請け負うとなると、負担は相当大きそうだ。
「ちょっと、ダンカンさんに相談してみますよ。どちらにしろ、試験結果を報告しようと思って来ましたし」
「本当か?なんかすまんな」
「いえ、全然。力になれることがあるなら、是非とも手伝いたいので」
中に入るのは無理でも、警備くらいなら手伝わせてもらえるかもしれない。
一つでも仕事が減れば、多少なりとも気持ちが楽になるだろう。なればこそ、話を持ちかけるだけの価値はある。
こういう時こそ、自分の力をフルに使わなければ、宝の持ち腐れというものだ。
人の役に立ってこそ、生きている意味がある。
それを、あの村での一件で強く感じた。
何より、これ程の才能を持って生まれたのだから、それを正しく使うことこそ、私の負うべき義務でもあるような気がする。
私利私欲のためにこき使われるのはもうごめんだが、人々の生活のため、そして何よりギルドの仲間のためならば、喜んで仕事をしよう。




