第48話 馬車はつらいよ
帰りの馬車で思ったことは、乗り続けるほどにお尻が痛くなるということだけだった。
村人達からの厚い感謝の気持ちを、身体いっぱい、お腹いっぱいになるほど浴びきったところで、私達はその場を後にした。
感謝感激雨霰。
あの場に少しでも居座り続ければ、過剰なもてなしを受けそうな雰囲気で、誰が言い出すでもなくそそくさと抜け出してきたのである。
鉱山にロックイーターが現れるというのは、さして珍しいことでもないようだけれど、条件によって出現率は変わってくる。
事業の大きさ故に、比較的人の出入りが多いあの場所では、他の鉱山に比べて出現率が低く、だからこそ慣れないトラブルに気が滅入っていたようだ。
特に、年齢の低い若者達の場合、初めてロックイーターに遭遇したという者も多くいる。
そのような経緯を考えれば、まるでお祭りでも開いたかのように騒ぎ立てるのも分からないではない。
しかしながら、立場的な問題として、必要以上にもてなしを受けるのは好ましくないことだ。
今回に限って心配は無用だろうが、時と場合を選ばないとトラブルに発展しかねない。
正当な報酬は、きちんとギルドを通して支払われるのだし、私達は既に一度夕食をご馳走になっている。これ以上は、気持ちだけで十分だ。
こちら側の意図はそれとなく伝えたけれど、喜びのあまり気持ちが昂る村人達にはさしたる効果は無く、最後は比較的強引に村を出てきてしまった気がする。
最後の最後に至るまで、お礼の言葉を述べながら見送りをしてくれた村人達は、そもそもの性根が気の良い人達ばかりなのだろうと、微笑ましい気持ちになった。
(暇だなあ)
そのように、盛大な見送りを受けた後であるので、誰が喋るでもなく静かなこの空間は、落ち着くというよりとにかく暇でしかない。
ふと『紅蓮の炎』のメンバーを思い出して、彼らの気さくさを改めて痛感する。
歳が些か離れているとはいえ、仕事のこと以外にまるで会話が無いというのに、親しみを感じる訳もなく。
私からもまた、特別話題を振ることもせず、外の景色をぼうっと眺めていた。
他にすることが無いと、気付かなかったことにも気が行くようになる。
だからだろう。行きは全く気にならなかったのに、今は物凄くお尻が痛い。
ふかふかのクッションなど何処にもないこの馬車で、延々と座り続け、ガタガタと小刻みに揺られれば、そうなるのも必然だというのに。
早く王都に着いてくれないものかと、何回思ったか分からなくなってきたところで、ようやく馬車は動きを止めてくれた。
(身体がバキバキだ……)
ぐっと背伸びをすると、綺麗な夕焼け空が目に入った。
身体のあちこちから、骨の鳴る音が聞こえる。
早起きするのも、魔物を討伐するのもさして苦労はしなかったが、馬車の移動だけは正直言って疲れた。
道中、少しばかりの保存食も口にしたが、お腹もそれなりに空いている。
今すぐに食事にありつきたいところだが、残念ながらそれは叶わない。
お家に帰るまでが遠足、とは少しばかり訳が違うけれど、報告しないことには試験は終わらないのだから。
積んでいた荷物を降ろし、乗っていた馬車と別れを告げたら、そのままギルドへ直行する。
とはいえ、馬車は建物の目の前に付けられたので、荷物を持って扉を開けるだけではあるのだが。
中に入ると、受付の一人が即座に気付き、そのまま何処かへと消えていった。
おそらく、本部長の所へ報告しに行ったに違いない。
これだけ人が溢れかえる中で、きちんと細かい所にまで目が行くとは恐れ入る。
前から思っていたことではあるが、ギルドの受付係は皆優秀だ。対応も丁寧だし、仕事も早い。
用事はすぐに済んだようで、私達はほとんど待たされることなく、三階の客間へと通される。
私に至っては、ギルドに訪れる度客間へと通されるという、この一連の流れが板に付いてきたと言えよう。
部屋の扉をノックすれば、既に中で待機していたようで、アルヴァンさんが返事をした。
「入りたまえ」
足を踏み入れれば、お茶を片手に優雅に寛ぐ本部長の姿が目に飛び込んでくる。
待っている間も仕事をしていたダンカンさんとは、あまりに対照的な姿だ。
とは言え、仕事に厳しい人であることは既に分かっているので、彼なりのメリハリの付け方があるのだろう。
「ご苦労であったな。ひとまず座るといい」
促されて、私達はソファに座る。
こちらはちゃんとクッション性があって、疲れた身体にとても優しい。馬車に乗っていた時とは大違いだ。
暫く馬車に乗るのは遠慮しておきたいと、強く感じた瞬間であった。




