第45話 坑道へ
鉱山は、村から少しだけ歩いた所にある。
事業の規模は鉱山ごとに異なると言うが、ここは採掘から製錬に至るまで全てを賄う大規模な事業所である。
圧巻の光景だ。
村から少し歩いただけで、こうも景色が変わるものかと感激する。
あの程度の規模に住める人数で、よくもこれだけ広大な事業所を回せるものかと思ったが、どうやら魔石が深く関係しているようだった。
この世界に、前世で使われていたようなハイテクな機械などは存在しない。
当然、基本は人の手で作業し管理せねばならないのだから、その負担は凄まじいだろう。
それを軽減してくれるのが、魔石だ。
正確には、魔法により作業負担を軽減し、魔力消費を魔石で賄うことで、魔法を使うことによる身体への負担を軽減させている。
結果として、一人一人の作業効率も上がり、少ない人数でも切り盛りすることが可能となっている。この世界ならではの仕組みだった。
魔石にかかる費用も、サイズの小さいものなら大してかからない。
何なら、時折出るという魔物を狩れば、多少の経費削減すら可能ではなかろうか。
「すみません、案内役を任せてしまって」
「構いません。魔物が出た日も、普通に作業してたくらいですからね。まあ、例の魔物が現れたら、さすがに逃げさせてもらいますが」
事業所の中は私達には分からない。
それ故、代表者の方に案内してもらっている。
魔物が出たのは坑道らしく、しばらくの間中を歩き続けていた。
目撃情報にしたがって突き進むと、だんだんと魔力の気配が濃くなっていくのが分かった。
間違いなく、ここを進んだ先に、目的の魔物が存在する。
「案内ありがとうございます、後は私達でどうにかなります」
「シオンさん?」
「よろしいんですか?確かに、ここから先は一本道だから、迷うことはないですけど……最後に見たのは何日も前のことなんで、ここにいるとも限りませんよ?」
「大丈夫です、確実にいますから。近付くと危ないでしょうから、先に戻っていてください」
この世界に来て、ほんの数種類ではあるが、それぞれランクの違う魔物と戦ってきた。
根本的に、魔物の魔力は普通のそれとは質が違うことも、気配の強さがそのまま魔物の強さに比例していることも、私は理解している。
普段、外部に頼らずとも魔物を退治できているということは、おそらくその魔物達はランクが低いはずだ。
それを考えれば、この気配の強さは通常ならありえない。
「本当に、返して良かったのですか」
「まさかあんた、魔物がいるかどうかが分かるとでもいうつもりか?」
「分かりますよ。一旦理解できたら、誰でもすぐに気付けるぐらい分かりやすいですからね、魔物の気配って」
その証拠に、サイラース森林の時のように、辺りの空気はどんどんと澱んできている。
あの森の場合、至る所に魔物が蔓延っていたせいで空気が悪かったが、この坑道は閉鎖的な空間であるが故に魔力が籠ってしまっている。
このように魔力が籠りやすい構造の場所は、強い魔物が生まれやすい環境にあるのかもしれないが、普段さして強い魔物が現れないのは、人の出入りが頻繁にあるからだろう。
そもそも、魔力はどこから生まれるのかという話になるが、元は空気中に存在する魔素という成分が魔力の源なのだ。
質としては、魔素も魔力も大した違いはないのだが、差別化を図る為として、人の体内に取り込まれた魔素のことを魔力と呼んでいる。
魔物からもれなく魔石が取り出されることから考えるに、魔石を元に魔物が生成されていると推測できるが、その魔石はおそらく魔素が結晶化したものであるに違いない。
つまり、魔素が籠りやすい場所ほど魔石ができやすくなり、強い魔物も生まれやすくなる。
だが、人が多く集まる場所の場合、魔素が人の体内に取り込まれて結晶化されなくなるので、必然的に魔物が生まれなくなる。
街中に魔物が出ることが全くないのはこのためであろう。この坑道にしてもそうだ。
逆に言えば、サイラース迷宮にAランクの魔物が生息しているのは、あらゆる理由が組み合わさった結果と考えることができた。
「それなりに歩いてきましたが、特に魔物は見当たりませんね」
「外れだったんじゃないのか」
言わんこっちゃないと、当てつけるようにこちらを見る者がいる。
しかしながら、それを気に留める必要など微塵も無かった。
───もうすぐ、姿を現すだろう。
「残念ながら、すぐそこに居ますよ」
刹那、それは視界に入る。
わずかに曲がった道と影に隠れて見えなかった姿が、近付くに連れて鮮明になっていく。
姿が見えれば、もはや疑いようもない。
あれだけ嫌らしい眼差しを向けていた男は、言葉通りに魔物が存在したことに息を呑んだ。
ロックイーター。
今回の討伐依頼の対象だ。




