第44話 鉱夫の住む村へ
ガラガラと音がする。
横に並んだ身体が小刻みに揺れ、落ち着いた空気が車内を包んでいた。
砂利道には轍が刻まれ、時折粒の大きい石ころが車輪を子気味よく跳ねさせる。
馬車に乗るのは、これが初めてのことである。
どこぞの誰かのように、テレポートについて言及してくる者は一人もいなかったので、手配された馬車に大人しく乗り込んだ。
鉱夫が住むための村が近くにあるそうなので、ひとまずはそこを目指し、今日はそのまま身体を休める予定となっている。
準備の時間もあったため、出発は正午より少し過ぎた頃になったが、それでも日が沈む前には余裕をもって着ける距離らしい。
「現地に着いたら情報収集をしましょう。事前情報だけでは足りない部分もあるかもしれません」
試験官の一人が口を開いた。
先立って流れを仕切るのは、見た目も態度も至極真面目そうな彼であることが多い。
試験という割に、ここまで積極的に仕切るものかと疑問に感じたが、ソロプレイである私の場合はパーティーメンバーとしての側面も兼ねているのかもしれない。
「責任者に聞くのが一番手っ取り早いですかね」
「おそらくは。普通なら、現場の状況は細かく報告が上がるはずですから」
ブラックな現場でないなら、確かにそうだ。
見込みが無さそうなら、目撃者に話を聞けばいいだろうし。
「村に着きましたよ。積み荷の確認はしておきますから、先に話を付けてきてくださると助かります」
御者から声がかかる。
次々に男性陣が降りていき、奥に乗っていた私は最後に降りた。
車輪の転がる音に気付いた鉱夫達が、村の外に出てくるのが見える。
「失礼、私達は依頼を受けて来たギルドの者ですが。代表の方はどちらに?」
「おお、もう来てくれたのか。ありがてえ」
「どうぞ中へ。今すぐ呼んできますんで」
喜びと共に迎え入れられ、案内されたのは村の集会所であった。
村は小さく、夫が働く傍らで畑仕事をして過ごす妻子もいると聞く。
中には、王都から出稼ぎのような形で来ている者もいて、同じ境遇の者とより集まって集団生活をしている所もあるようだ。
全員が家族のような、親戚のような親しい間柄なのだろう。仲はとても良いように見える。
「お待たせしました。早急に依頼を受けてくださり、本当に感謝します」
「礼には及びません。それが仕事ですから」
「普段なら、弱っちい魔物しか出ねえですから、自分達でどうにかなるんですがね。今回ばかりは、俺達じゃあどうにも……」
「お任せ下さい。下手に立ち向かっても、被害が広がるだけですからね。今日はもう時間が遅いですから、明日討伐に向かおうと思いますが、それで宜しいですか?」
「勿論です。どうか、よろしく頼みます」
男は、静かに頭を下げた。
様子を見守っていた他の村人も、合わせて丁寧に頭を下げる。
どうにかして欲しいと、誰もが必死の想いなのだろう。その顔は、真剣そのものだった。
皆、己の生活がかかっている。当然の話だ。
その想いを汲み取り、私達もまた、彼らの願いを真摯に受け止める。
私は今まで、何かを守るのではなく、壊すために利用されてきた。
誰かの願いを叶えるということは、他の誰かの願いや想いを踏みにじることになる。
それが、戦争における絶対だからだ。
自分達に無いものを、他人から奪い取るための争いだからだ。
だからこそ、誰も殺さず、誰も殺させず、何事も無かったようにして、争いを無くそうと務めてきた。
しかしながら、その目論見が上手くいくことはなく、結果私はここにいる。
人の欲に勝つことは叶わなかったのだ。
けれども。
ここにあるのは、己の欲を満たすための欲望ではない。
自分一人のためでなく、皆の命のために、神に捧げた祈りがここにある。
そして、私は今、奪うためでなく守るためにここにやってきた。
彼らの想いを救い上げることができれば、ささやかでも生前の罪を償うことができるのだろうか。
「すみませんが、うちの村には宿がねえもんでして。なるべく過ごしやすいようには整えますんで、この集会所を宿代わりに使ってくれますか」
依頼内容について、こちらから聞きたいことは概ね聞けたようで、今夜の寝床について話が及んでいた。
「いえ、場所があるだけでも有難いですよ。こちらに準備はありますから、お構いなく」
「申し訳ねえ、何から何まで……」
再び頭を下げると、男は村人に何かを指示しながら、連れ立って集会所を後にした。
その日の夜、おもてなしの意味合いを込めて、私達に料理が振る舞われる。
あの時、村人に指示していたのはこの事だったようだ。何かせずにはいられなかったらしい。
本当なら、寝具も食事もこちらで用意してあったのだが、その気持ちを無下にするわけにもいかず、夕食だけ有難く頂いて、それ以外は丁重にお断りした。




