第36話 フラグを回収した
休憩もそこそこに、私達は調査を再開した。
一々魔物と戦っていては、あっと言う間に日が暮れてしまうだろうということで、今のところは魔物を避けつつ行動する方針を取っている。
正確に位置や数を知ることは出来ないが、近くにいるかいないかくらいは魔力の気配で分かるので、進行方向の指示は専ら私の仕事となっていた。見事、荷物係から昇進を果たしたというわけである。
「しかしまあ、平和だな」
「シオンには頭が上がらないわね」
「本当だよなあ。俺達だけだったら、もっと大変だったもん」
有難いことに、彼らの私に対する株は急上昇しているようだった。
一切の含み無しに、手放しで褒めてもらえるのは、果たして何時ぶりのことであろうか。
裏が無いと思えるからこそ、素直に嬉しいと思える言葉だった。
「かなり歩いて回りましたけど、森そのものに異常があるようには見えませんね」
「だな。そうなると、新たに強い魔物が発生した可能性が高いか」
「問題は、それがどこにいるのかということですが……」
今までより更に強い魔物か。
近くにいるのならすぐにでも分かりそうだけれど、先程から漂う気配は一定している。
これだけ広大な場所から、ピンポイントにその魔物を探し出すというのは、さすがに骨が折れそうだ。いるかどうかも分からないのだし。
いい方法は無いものかと思案していると、ふと視界にあるものが映った。
───岩が一つだけ、ぽつんと置かれている。
(何でこんなところに……?)
周りは木と草ばかりで、何故ここにあるのかてんで分からない。
人が運ぼうにも、サイズがかなり大きく、身の丈半分を越すほどに高さと幅がある。そのまま運ぶには少々無理がありそうだ。
何より目を引いたのは、僅かに漂う魔力の気配だった。
そこまで密に感じられる訳では無いが、たとえうっすらとでも感覚があるのは珍しい。
人間や魔物からそれを感じ取れるのは、体内に多くの魔力を保有しているからであって、それと同レベルに魔力を保有する物質というのはそうあるものでは無い。
この世界では魔石という代表例があるが、それこそ特例中の特例だ。
まして、ただの岩から気配がするなど、生前でも経験したことは一度も無い。気にならない方がおかしいというものだ。
「どうした?シオン」
「いや、こんなところに岩があるのが気になって。しかもこれ、僅かにですけど魔力の気配がするんですよ」
私の言葉を聞いて、全員の表情が曇った。
何か思い当たる節でもあるような、現実を認めたくないような、そんな苦々しい顔だ。
「……フレイル、私、とても嫌な予感がするのですが」
「俺も。っていうかこれ、俺が行きたくないとか言っちゃったからこうなってる?」
「そうかもしれないわよ」
「マジかよー!うわー、余計なこと言うんじゃなかったわー!」
モーリスさんが頭を抱え始めた。
私を除く全員が岩の正体におおかた気付いているようで、何も知らない私は置いてけぼりを食らっている。
これまでの記憶を頼りに、言葉の意味を理解しようとして、ふと先程の休憩の時にモーリスさんが言った言葉を思い出した。
確か言っていたはずだ。
サイラース迷宮にだけは入りたくないと。
「つまりは、サイラース迷宮が関係している可能性が出てきてしまったということですか」
「たぶんな」
見事なフラグ回収だった。
「ここに岩が落ちてて、魔力が感じ取れるってんなら、ゴーレムがどこかに居るかもな」
「だよなあ……そうなるよなあ……」
「ゴーレムって、あれですか。動く石像みたいなやつ」
「まさにそれだ。普段は迷宮の中にいるから、森で遭遇することは無いんだが、こいつがまあ厄介なんだ。Aランクの魔物だしな」
モーリスさんが嫌がっていた理由はそれか。
洞窟のような逃げ場のない空間で、Aランクの魔物に囲まれでもしたら、それこそ悲惨なことになるだろう。確かに、わざわざそんな所に入りたいとは思わない。
「ゴーレムが出てきたとなると、原因は森じゃなくて迷宮の中にあるってことですよね」
「そうなるな。本当にいるかどうかだけ確認して、一旦引き返した方が良さそうだ」
「ギルドに報告して、迷宮用の調査隊を組んでもらった方がいいでしょうね」
「それがいいわ。私達だけで行っても、迷って危険な目に遭うだけよ」
全員の意見が一致した。
後は、この広い森の中からゴーレムを探し出すだけだ。




