第35話 嫌な予感
冷やした状態でしまっておいた果物を頬張りながら、固まったままの皆を眺める私。
少しして、ようやく頭が追いついてきたのか、死体と私を交互に見ながら必死に状況を飲み込もうとしていた。
「夢じゃ、ないのか?」
「わっかんねえ……何食べてんの、それ」
「リンゴです。食べますか?」
「食べる……」
ぼうっとした頭で受け答えをして、訳の分からぬままにリンゴを食べるモーリスさんは、いつも以上に見ていて面白い。
匂いや気配に釣られて魔物が寄ってこないように、対策も済ませてあるのでその辺りは問題ない。
対するモーリスさんは、食べ物を口にしたことで、いろいろと実感も湧いてきたようだった。
「冷えてて美味いわ、これ。すげえな、何でも出来るんだなあ、シオンは」
「ありがとうございます。まだ食べます?」
「いいの?じゃあ貰おうかな」
「他の皆さんも、お疲れでしょうし良ければどうぞ。今なら周囲に魔物もいませんし、今のうちに休んでおいた方がいいですよ」
私の言葉で他のメンバーも集まり、束の間の食事休憩と相成った。
シャクシャクと小気味良い音が響く中、必然と今後についての話題が上がる。
「しかし、これからどうしましょうかね。今の時点でこれでは、考え無しに進むのはあまりに危険なように思います」
「それについては同意見だな。シオンのおかげでだいぶ楽はできてるが、この先どうなるかは正直予想がつかねえし、今の内に策は立てておいた方がいい」
「シオンは、魔物の気配が分かるみたいよね。どのぐらいの範囲なら気付けるとか、分かるかしら?」
「居るか居ないかだけなら、それなりに距離が離れてても分かりますよ。もう少し具体的に探るにしても、方法が無いわけじゃないですし」
魔物の気配は性質上分かりやすいので、ただ敵を避けるだけなら今のままでも十分だ。
もし、調査のために情報が欲しいのであれば、魔法を駆使してどうにかすることも不可能ではないだろう。
「そもそも今回の件、何が原因だと思う?」
「んー、そうなあ……ここからじゃ、まだ全然分かんないんだよなあ」
「私も同じです。可能性はいくつかありますし、特定するにはまだ情報が足りません」
二人の言う通りだ。
今はまだ判断材料が足りていないし、だからこそ私達はこうして調査をしている。
しかしながら、こと私自身においては、そもそもの基本情報すら満足に持たない。
以前の反省を生かし、一日で出来るだけは調べてきたけれど、分からないことは沢山ある。
「例えばですけど、突然上位種が現れたりなんてことはありますか?」
「あるな。それも考えられる原因の一つだ」
「全く別の場所から魔物が移動してくることは?」
「それも無いわけじゃない。何らかの理由で前の場所に居られなくなって、新たな住処を探してまわることもある」
「でも、サイクロプスすら追いやられるような魔物が移動してきたなら、何かしらの情報が入ってきそうなものですよね」
「確かにな。全部がそうじゃないが、ランクの高い魔物ってのは図体のでかいやつが多いし」
これだけ広い森で、溢れかえる程に他の魔物を追いやろうとしたならば、例えランクが高くともそれなりに数はいるはずだ。
もしくは、異様なまでに身体が大きいか、森にいる魔物全てを圧倒する程に強い魔物か。
何であれ、それだけ目立つ存在ならば、移動している間に誰かしらが気付くだろう。何の報告もないまま放置されていることは考えづらい。
「できれば、この森だけで調査が終わって欲しいところですね」
「分かるわあ。俺、サイラース迷宮だけは流石に入りたくねえや」
聞き慣れない名前が飛び出した。
サイラース迷宮とは何なのだろう。
「あの、サイラース迷宮って何ですか?」
「ああ……この森の奥に洞窟があるんだけどな。中が広い上に入り組んでるもんだから、迷宮みたいになってんだよ。だからそう呼ばれてる」
初めて聞いた話だ。
モーリスさんの嫌がりようを見るだけで、まともな場所でないのは容易に想像がつく。
───あ、何か今、急に嫌な予感がした。
絶対に、良くないことが起こる。そんな気がしてままならない。
所用で今日中に更新できるか微妙でしたが、何とか間に合いました。
クリスマスを満喫していた訳では無いのです。寧ろ仕事で地獄のようでした。辛い。




