第32話 荷物係
森から飛び出していた魔物は、ほとんど時間をかけることなく倒された。
コレットさんの寸分違わぬ弓の技術で、瞬く間に敵の急所を貫いていき、近づいてきた魔物はフレイルさんが即座に切り伏せる。
一応、いつでも応戦できるように、前日の準備の際に予め拾い集めておいた小石を片手に握りしめていたのだが、全く出番のないまま初戦闘は終わりを迎えた。
今更ながら、何故常に小石を使うのかという話だが、端的に言えば疲労軽減のためだ。
小石なんか使わなくても、魔法でいくらでも武器になりうる素材は生成できるが、当然魔力を消費する。
私は魔力を節約したい訳ではなく───私が敢えて魔力を節約したいだなんて、周りからすれば嫌味以外の何物でもないのだから───魔力を使うことで身体に蓄積される疲労を、なるべく減らしておきたいのである。
疲れというのは厄介だ。魔法を使う際に特に重要な集中力が低下してしまう。
長時間任務においては特に、如何に負担を減らすかが重要になってくる。そのための対策だ。
「予想はしていたが、数が多いな」
「どんどんと外に追いやられているのでしょうね、いつもより密集しています」
中に入ると、視界に捉えられるだけでも相当な数の魔物が蔓延っていた。
これだけ見える位置にいれば、敵もこちらに気付かないはずがない。私達はあっと言う間に囲まれた。
「ある程度は俺の方で引き付けておくわ。残りはフレイル達でよろしくな」
「ああ。終わったらそっちに向かう」
やりとりを聞いてすぐ、フェリクスさんがモーリスさんに補助魔法をかける。
終わるや否や、モーリスさんは盾を構えて腰を沈め、魔物の群れの壁に向かって突撃した。
横側から飛びかかろうとする魔物は盾の位置を調整しながら剣で切り伏せ、勢いを殺すことなく敵の体勢を崩していく。
そのまま、敵の注意を引き付けながら、群れの半分ほどをモーリスさんが攫っていく。
残った半分は、即座にフレイルさんとコレットさんが応戦し、続々と数を減らしていった。
流石というか、見事な連携だ。
いつも一人であったせいで、討伐には多少なりとも時間がかかっていたのだが、彼らの手にかかればこの程度の魔物など、束になったところで何の意味も成さないようだった。
下手をすれば、私の出番すらないほどで、負けじと参戦したのはいいが、正直居ても居なくても大して変わらない出来栄えだった。
今のところ、私のポジションは、せいぜい荷物持ちといったところだろうか。
自分で言っておいてなんだが、それはちょっと悲しい。
「出だしからこれじゃ、先が思いやられるな」
「初めっからこんな動くとか聞いてねえよお、これ思った以上にやばいんじゃないの?」
うんざりとした顔で言うモーリスさんを見て、思わず慰めたい気持ちに駆られた。
分かる。とても分かる、その気持ち。
何せ、私もつい最近同じ体験をした。
敵の強さに関係なく、囲まれるというのはそれだけで気が滅入るし、それがまだ入ってすぐの場所ともなれば愚痴を言いたくもなるだろう。
二度あることは三度あるというが、私の場合三度どころかこれで四度目である。さすがにありすぎだと言いたい。
「シオンは大丈夫か?これから先、もっと厄介なのに囲まれると思うが……」
「大丈夫です、もう見慣れました」
「……苦労してるのね、シオン」
まさかのコレットさんに同情された。
彼女に言われると重みが違いすぎる。
「もし、道中で他の冒険者を発見したら、森から避難させた方が良さそうだな」
「そうですね。これだけ数が多いと、普段より危険度が格段に増してしまいますし。実力の無い者だと、即座に死んでしまうでしょう」
「その辺りは特に指示されてませんけど、ここまで被害が広がってるなら、ダンカンさんもとやかく言わないんじゃないですかね」
お互いに頷きあう。
全員一致で、冒険者を見つけ次第避難するように言い、必要であれば護衛する方針となった。
他人を守ることについては、前世での経験もあるのでそれなりに役に立つだろう。魔法障壁をつかえば、大抵の攻撃は防げるのだし。
───魔法障壁。
そういえば、自分自身にはいつもの癖で使っていたけれど、今後のことを考えれば今から全員にかけておくべきではないか?
あまりにあっさり敵を倒すものだから、そこまで意識が及んでいなかった。
やっちまったな。今気付けて良かった。




