第31話 本番
話を終えて一階に降りると、やけに周りの視線が刺さった。
実力者の集まりである『紅蓮の炎』たる彼らを目の前に、同じ冒険者として浮き足立たずにはいられない様子である。
同時に、見知らぬ人間が傍に居ることで、訝しげな眼差しも集まっていた。
無名の新人が、平然とした顔で隣を歩いているのだから当然の始末だが、後ろめたいことは何も無いので、そんなものは知らんぷりだ。
「皆さん、人気者ですね」
「シオンも、中々に注目を浴びてるんじゃないか?」
「悪い意味で、ですけどね」
特に足を止めることもなく、そのままギルドを出て目的地を目指す。
そのまま街を出ようと考えていた私に、モーリスさんが話しかけてきた。
「そういえばさあ、シオン。随分と身軽だけど、買い物とかしなくて良いの?荷物は?」
「かなり長時間森に籠ることになりますし、場合によってはそのまま野営するかもしれませんから、準備しておいた方がいいですよ?」
心配されるのも尤もだった。
今の私は傍から見れば、まともな準備すらできていない素人にしか見えないし、実際問題、見える位置に私の荷物は一切無い。
これから危険な調査に向かおうという人間が、そのような格好でいるのでは、思わず声を掛けたくなるのも当然だ。
本当のところは、食品やら野営道具やら、持って歩くにはあまりに邪魔なので、全て魔法で収納されているのだが、彼らはその事実を知る由もない。
そういえば、収納魔法は今のところラウルさんにしか見せていないのだけど、彼らに見せたらどのような反応をされるのだろう。
「見えてないだけで、ちゃんと用意してありますよ。───ほら」
何も無い空間から、箱を一つ取り出した。
道中で食べる保存食や、宿の厨房を借りて作ったサラダを詰め込んだ、所謂お弁当箱である。
調味料がほとんど存在しなかった関係で、凝ったものは作れなかったのが残念だ。
というか、今までの境遇上、料理の経験自体がほぼないのでどっちにしろ作れない。悲しい限りである。
「……今、どこから出したんだ?」
「収納魔法です」
「収納魔法……?」
なあに、それ?
なんて言葉が聞こえてきそうなほど、その場にいた全員が目を丸くしていた。
やはり、こういう反応になるのか。
ここにいる皆が唖然とするのなら、誰に披露しようが結果は同じだろう。あまり無闇矢鱈に使わない方が良さそうだ。
「良ければ、すぐに使わないものはこっちで仕舞いますよ」
「あ、ありがたいですけど……量に際限は無いのですか……?」
「無限ではないですけど、ほぼ無いに等しいですね」
いちいち容量を広げるのも面倒なので、かなり広めにスペースを用意してある。
サイクロプス並の巨体を入れてもほとんど容量を食わないので、物を持ち運ぶという点においては実質無限であるのと同じだろう。
大っぴらに披露しない方がいいと学んだばかりであるので、一旦街の外に出て人がいない場所まで移動してから荷物を受け取った。
「すげえよフレイル、本当に全部仕舞っちゃったよ……」
「さすがに、開いた口が塞がらないわね……」
珍しくコレットさんも動揺しているし、仕舞っている間は誰一人として言葉を発することが無かった。
こんなものを街中で堂々と見せていたら、それこそ仕事どころでは無かっただろう。
街道を歩いている最中も妙な空気になってしまって、仕事前に気を散らしてしまったようで申し訳ない気持ちでいたのだが、森の入口手前まで辿り着いたところで事態は一変した。
森の外側に、既にベビーウルフが数匹うろついている。
「……どうやら、既に最悪の事態が起こりつつあるようですね」
気の抜けていた雰囲気はどこへやら、鋭い目付きで敵を睨みつけるフェリクスさん。
他のメンバーも皆、一瞬で集中を高め、いつでも戦える状態へと移行していた。
彼らの殺意が、仲間である私にも深々と突き刺さる。思わず息を飲んでしまうほどに。
その変わりようは、流石と言う他なかった。負けじと気を張っていなければ、今にも飲み込まれてしまいそうな程なのだから。
「放置するのはまずい。片付けてからいくぞ」
フレイルさんの言葉を合図に、戦闘が始まる。
ここからが本番だ。全力で挑まなければ。




