第29話 食事に誘う
渡された紙を確認し、細かな内訳を把握したところであることに気付いた。
「ラウルさん、これちゃんと手数料多めに引きました?」
「ん?ああ、引いた引いた」
「返事雑すぎません?」
誤魔化す気ないだろう、この人。
そうでないなら嘘をつくのが下手すぎる。
実際の金額を知っている訳ではないので私感だが、総額を計算した上で手数料を算出してみたところ、どうにも正規の金額しか差し引かれていないように思える。
何だかんだで、ラウルさんはとても人が良い。
私が良いと言ったところで、端から多く貰うつもりなど無かったのだろう。
「ラウルさん、今度一緒にご飯行きましょう。大人しく私に奢られてください」
「何だよ突然。悪いが、お前みたいなガキに奢られるほど金に困ってねえよ」
「奇遇ですね、私も全然お金に困ってないんです。なんてったって、ほら」
先程受け取った袋を、わざとらしく振ってじゃらじゃらと音を鳴らす。
「お金持ちですから、私」
「こいつ……言ったな?覚悟しとけよ、お前」
「望むところですよ」
不敵に笑みを浮かべて、ラウルさんの挑発にあえて乗ると、こちらから折れることはないと察したのか諦めたような顔をした。
「はあ、分かったよ。それで気が済むなら、折角だし甘えさせてもらおうか」
「はい、是非そうして下さい」
お礼の為とはいえ、ラウルさんと一緒に食事に行けるのは素直に嬉しい。
こうやって、お互いに冗談を言い合えて、楽しく話ができる相手がいるというのは、とても喜ばしいことだ。
年齢差を考えると、気分としては新しく親戚の叔父さんができたような気持ちである。
それを言ったら怒られそうだけれど。
「今晩空いてますか?無理なら今度でいいですけど」
「いや、仕事が終わったら後は暇だ。すまんが適当に時間潰して待っててくれるか」
「分かりました、後でまた顔出しますね」
食事付きで部屋を取ってしまっているから、一旦宿に戻って今日の食事は必要ないと女将さんに話をしておかないと。
そのついでに買い物を済ませておけば、自然と時間も潰れるはずだ。
大事なお金は収納魔法できっちりと仕舞っておき、ベビーウルフの皮が入った袋を持ったまま建物の中へと戻る。
いきなり、52枚もの皮を差し出したら、リーリアさんにまで引かれてしまうだろうか。
お金に困っている訳では無いし、ランクを早々に上げたいわけでもないので、纏めて報告するのはやめて、何回かに分けて渡そう。
そう。私は、ちゃんと学習するのだ。
今回のことも、魔物の件だって。
♢
「ラウルさん……それは、ちょっとないですよ」
「は?何の話だ」
「服の話です」
仕事終わりにラウルさんと合流してみれば、先程と全く変わらぬ作業着のまま現れた。
あちこち汚れが目立つのは、仕事着としてなら別段気にもならないが、そのまま人様と食事に出掛けるとなると、いくら何でも惨めすぎる。
解体もするせいで、少し赤黒く染まったところまであるというのだから尚更だ。
地球と違って、そう頻繁に着替えるものでもないのは分かるが、それにしたって普段着と分けるくらいはしたっていいだろう。
「そんなに気になるもんか?だいたい、服一着買うのだって馬鹿みたいに金がかかるってのに、いちいち着替える奴の方が珍しいだろう」
それは知っている。
転生の際に着ていた分しか服が無かったので、替えが欲しいと思って服屋に寄ったこともあるのだが、シャツ程度の薄い布一枚でも10000ギル以上する程だったのだ。
今泊まっている宿ですら一泊200ギルなのだから、恐ろしいことにその50倍も値段が高いのである。
これはあくまで新品価格で、一般市民が買ってせいぜい中古の服であるが、それすらも1000ギルは下らない。
ビジネスホテル並に宿代が安かったとしても、まるでブランドもののシャツのような価格設定だと言える。
機械による大量生産など当然無いだろうから、値段そのものには理解を示せるが、ほいほい買える物でないことも確かだ。
「分かってますよ。冒険者の人とか、一々防具脱いだりしないで、そのままに普通に食事してますしね。ただ、ラウルさんって女っ気なさそうだから、ちょっと心配になって」
「よーし、お前、一旦歯食いしばれ」
さすがに怒られた。
ラウルさんの目が全く笑っていない。女っ気が無いのは図星のようだ。
いつか、誕生日プレゼントとでも称して、ラウルさんには服一式プレゼントしよう。
なんというか、元日本人としては、理解はできても気分的に耐えられないから。




