第25話 同業者
解体作業を少しばかり手伝った後、リーリアさんに薬草採取の依頼報告を済ませ、一旦ギルドを後にした。
薬草は薬草で、比較的あちこちに生えていたため数がそれなりにあり、Fランクの仕事とはいえそこそこのお金にはなった。
折角なので、稼いだ小銭片手に食事処でお昼を食べようと街を散策する。
定住者だけでなく、商人や冒険者も頻繁に出入りするこの街では、家を持たない者達のためか料理屋もそれなりに充実していた。
日本での彩り豊かな食事に比べれば、この世界の食事は質素でシンプルなものだが、それはそれで悪くない。
昼間からお酒を提供する店も多いらしく、静かでお洒落と言うよりは、居酒屋のような騒がしさに包まれた店がほとんどだ。
適当に見切りをつけてお店の敷居を跨ぐと、より一層喧騒に包まれ人々の熱気が波のように押し寄せてきた。
「いらっしゃい。好きに座ってくんな」
口調からして気の強そうな、少しばかり体格の良い女性店員に言われるがまま、空いている席を探して回る。
細かくテーブルを分けるなんてことはせず、横長の大きなテーブルの周りに椅子が置かれており、グループとグループの間にぽつんと空いた一人分の席をようやく見つけて、そこに腰掛けた。両隣はとても賑やかだ。
周りの声に負けないよう大きな声で店員さんを呼び、料理の注文を済ませたところでようやく気持ちが落ち着いた。
今日はとても疲れた。
朝に出発してから今に至るまでおおよそ半日、時間にまるで見合わない量の厄介事に見舞われ続け、息をつく暇がこれっぽっちも無かった。
知らぬ間に疫病神にでもなった気分だ。
そう思いながら、先に運ばれた飲み物を手に寛いでいると、私の横で何かが倒れる音がする。
ぱしゃりと、突然の冷たい感触。
何事かと目を向けると、足の付け根あたりは何かの液体で濡れていて、テーブルの上にはジョッキが横向けに転がっていた。
先程の音の正体はこれか。
どうやら、隣に座っている人の飲み物が私の足にかかったらしい。
ほんのり漂うアルコールの香りから察するに、ビールか何かでも飲んでいたのだろう。
倒した側もすぐそれに気付いたようで、慌てて声をかけてきた。
「うわ、すまん!大丈夫か!?」
「ああ、はい。何ともないです」
「いや、何ともないって、今確実にかかっちまったよな!?うわー、本当すまん!ちょっと待ってくれ、何か拭くものを……!」
「あ、すぐ乾かせるんでお構いなく」
そう言って、服に染み込んだ水分を魔法でさっくりと乾かした。
汚れを取り除いた訳では無いので、後で洗濯するなりしなければならないが、ひとまず身体が冷えなければそれでいい。
「ほら、もう大丈夫でしょ?」
「あ、ああ。魔法が使えるのか、あんた」
「そうなんですよ。便利ですよね、魔法」
そこまで気にしてませんよ、とでも言うように茶化してみせる。
あっけらかんとした態度に絆されたのか、相手はだいぶ落ち着きを取り戻していた。
一緒に飲んでいたグループの人たちも、こちらを気にかけるようにしていたので、加えて大丈夫ですよと目配せをしておく。
「しかし、迷惑かけといてあれってのもなあ……そうだ、あんたさえ良けりゃ一緒に飲まないか?ここは俺が持つからさ」
「え、そこまでしてもらわなくても、本当に大丈夫ですよ?」
「いや、俺の気が済まない!だから、あんたが嫌じゃなければ奢らせてくれ。な?」
「はあ……私としては有難いですけど」
良い人ではあるようなのだが、少しばかり強引なタイプの男性だ。
でも、不快な感じはしない。全体的に爽やかで人懐こい雰囲気がする。
変に警戒する必要も無いだろうと、折角のお誘いであるので受けることにした。
「それなら、お言葉に甘えてお邪魔します」
「おう、何でも好きに食べてくれな。俺はフレイルだ、よろしくな」
「シオンです、よろしくお願いします」
差し出された手を握り返すと、ごつごつとした感触に包まれた。
随分と使い込まれた手のようだ。掌は豆だらけだし、あちこちに傷跡がある。
よく見れば、手だけでなく腕などにも同じような跡が沢山付いていた。
「ああ、傷跡が気になるか?冒険者やってんだ、俺。こっちにいる皆はパーティー仲間だよ」
私の視線で察したのか、彼はそう言って他の皆を紹介してくれた。
どうやら、彼らは同業者らしい。




