第21話 心当たり
無事に治療を終え、横たわるサイクロプスの死体を丸ごと仕舞い込んだ私は、いそいそとサイラースの街へと戻ってきた。
正直、さすがにこれだけの巨体をそのまま持ち帰るのは気が引けたのだが、買取してもらえる部位を私は知らないし、放ったらかしにしておくよりはましだろうと考えてのことだった。
もし次があるとするなら────なるべくそのような機会は設けて欲しくないが────解体方法と売れる部位さえ分かれば自分でどうにかすることも出来るし、今回の件について聞き取りを受けるのであれば、何か役立つことがあるかもしれない。
自分にとっては価値の無いものでも、周りが必ず同じように感じるとは限らないことを、私は最初の買取のときに思い知ったのだから。
街に入り、寄り道することもなくギルドへ真っ直ぐ向かうと、扉を開けてすぐにリーリアさんが駆け寄ってきた。
「シオンさん!良かった、無事だったんですね。サイクロプスに遭遇したと聞いて心配しましたけど、どこも異常なさそうですね」
「もうそんなに広まってるんですか」
「ええ、シオンさんが戻ってきたらすぐ報告するように言われてますので……。支部長が詳しくお話を聞きたいそうですが、今すぐご案内して問題無いですか?」
「はい、大丈夫です」
そうなるだろうと予想はしていたが、正しくあの人達の言った通りになった。
一番の当事者は私なのだから、当然の結果である。
どこまで正直に話すべきか悩むところだけれど、ここで尻込みしていても仕方が無いと、私は一も二も無く頷いた。
リーリアさんの案内を受けて、初めて2階へと上がると、客間であろう部屋の中では既に人が待っていた。
「初めまして、シオン。私はサイラース支部長のダンカンだ、よろしく頼む」
迎えてくれたのは、きっちりとした清潔感のある服装に身を包み、茶色の髪をオールバックに整えた気品溢れる男性だった。
年は、ラウルさんと同じか、もう少し上を行くぐらいの印象だが、比較的恰幅の良い筋肉質な体つきであるラウルさんとは違い、細くスラリとした体型をしている。
冒険者に舐められたりしないのだろうかと、余計な心配をしてしまったが、別に野蛮な人間しか集まらないわけではないのだから平気だろう。案外、怒ると物凄く恐ろしいタイプかもしれないし。
「疲れているだろうに、呼び付けてすまないな。ひとまず座ってくれ」
「お茶を用意してきますね、支部長」
「ああ、助かるよリーリア。ありがとう」
ダンカンさんがお礼を言うと、軽く会釈してからリーリアさんはその場を後にした。
私は促されるまま椅子に座り、彼と向かい合う形になる。
待っている間仕事をしていたのだろう。彼は机の上に置かれた何枚かの紙をまとめ、裏返して端の方に寄せた。
こうしていると、女神様と話をした時のことを思い出す。
あれからまだ2日と経っていないのに、随分と濃密な時間を過ごしたものだ。
「ひとまず、話を聞いたよ。災難だったな、冒険者になったばかりだっていうのに、サイクロプスと遭遇する羽目になるなんて」
「仰る通りだと思います」
「しかしまあ、試験結果が優秀だったことは聞いていたが、それでも倒せたことには驚きだよ。よっぽど腕が良いんだな、君は」
「試験官の方には、破格だと言われましたね」
「はは、そいつは間違いない」
軽く冗談を交えると、ダンカンさんは愛想良く返してくれた。
その様子に笑顔を返しながら、ここのギルドは人柄の良い人が多いようだと心の中で思う。
彼と軽く雑談を交わす中、扉をノックする音が聞こえて振り返ると、お茶の入ったカップを持ってリーリアさんが戻ってきたところだった。
目の前に置かれたカップからは、すっきりとした爽やかな香りが漂う。
何の葉っぱを使っているのかは分からないが、さながらハーブティーのようである。
疲労回復効果があるので是非に、と彼女が優しく勧めてくれるので、早速一口頂いた。
味に関しては、薬っぽさを感じる風味だが、特別不味いということはない。癖もそこまで無いので比較的飲みやすくはある。
香りはとても良いので、確かに気分は和らぎそうだと思った。
思うに、私を気遣って選んでくれたのだろう。心配されるほど疲れてはいないが、その心遣いはとても有難い。
「ありがとう、リーリアさん。おかげで疲れが取れました」
「それは良かったです。では、私は仕事に戻らせていただきますね」
リーリアさんが部屋を出ると、同じくお茶を飲みながら寛いでいたダンカンさんが居住まいを正し、本題を切り出した。
「さて、既にリーリアから聞いているかと思うが、今回の件について当事者である君からも詳しく話を聞きたい。少しばかり時間を取ると思うが、この後の予定は大丈夫か?」
「はい、問題ありません」
「それは助かる。実はどうも、サイラース森林全体で異常事態が起きているようでな……今回の件も間違いなく関わりがあるだろう」
そう言って、彼は苦い顔をした。
私も少し、表情が曇る。
内容を聞かないことには何とも言えないが、もしかすると自分が原因かもしれない心当たりがあったからだ。
もし私が原因なら、全力で土下座をしようと覚悟した。




