第20話 釘を刺す
あれこれと余計なことを考えている内に、話がまとまってしまうのではないかと思っていたら、全然そんなことはなかったようだ。
自分の中で、浮かび上がった疑問に対するある程度の答えが出たところで意識を元に戻してみたものの、訪れた他の冒険者達はああでもないこうでもないと未だに話し合いを続けている。
名前の話はひとまずいいとして、この状況はどうしたものだろう。
自ら放置していたことを敢えて棚に上げて言うなら、当事者を差し置いて勝手に話が進んでいるのもどうかと思うし、証拠も無しに憶測で話したところで意味が無いというのに。
結局のところ、私の話が信用できないから、こうしてありもしない罪について議論を交わしているわけである。
その終着点は当然、私にとって不利な内容になる可能性の方が遥かに高い。
部外者からしてみれば、自分さえ納得できれば問題無いのだろうが、私にとってそれは、どう転んでもただの迷惑行為だ。
既に、事実を話したにも関わらず、嘘付きのレッテルは貼られている。
その上、妙な疑いをかけられてしまったら、資格剥奪などという最悪の事態にも成りかねない。
他人を危険に晒したり、手柄を横取りしたことにされてしまったら、ギルドにとって不利益な行動をしたと見なされる可能性も十分にあるのだから。
勿論、己の浅はかな行動で多少なりとも迷惑をかけたことは反省すべきだし、結果として誤解を与える方向に自ら誘導してしまったのも事実だが、それはそれ。
やってもいない罪について、あれこれ言われる筋合いなど何処にも無いのである。
「あの、少しお話いいですか」
「ん?なんだ」
「要は、私が不正を働いたかもしれないことが問題なんですよね。それなら、素材も実績も手放しますので、ギルドに目をつけられるような話にするのは控えていただけませんか?犠牲者の有無に関しては、残念ながら今はこれといった証拠は出せませんけど、誰ともパーティーを組んでいないことくらいはギルド側が証言してくれるかと思います。もし、サイクロプスが装備ごと丸呑みするわけでないのなら、見た通り死人はいませんし、仮に負傷者が居たとしても、当の本人達が後でギルドに報告しにいくでしょうから、そちらに関しても自然と容疑が晴れるとは思います。なので、それで手打ちにしていただけるとありがたいです」
私の提案に、話し込んでいた冒険者たちは困惑の表情を向ける。
多少なりとも、私が悪者であると決めつけて話をしていたのだろうか、ばつの悪そうな顔をしている気がする。
「勿論、自分の名誉のために言っておきますけど、これっぽっちも嘘はついてないですよ?でも、信じられない気持ちは十分分かりますし、無理強いする気も毛頭ないのでそこはひとまず問題無いんですけど。仕事が出来なくなるのは困るので、やってもいない罪を押し付けるのだけはよしていただきたいんですよね」
刺すべきは釘は刺しておこうと語気を強めたせいで、怒っているような物言いになってしまった。
面倒な展開になったとは思っているが、実際のところはそれほど苛立ちは無い。
世の中、これ以上の理不尽なんてごまんとあるのだから、この程度ならまだまだ可愛いものだ。
「……悪かった。確かに、あんたの言う通り全部を信用するのは難しいが、そこまで言わせておいて疑うわけにもいかねえよな」
「だな。止めを刺したってのだけは間違いないんだろうし、素材を譲る必要もねえよ。そこまで自分を安売りしなくていい」
そうさせたのは誰だよ、と思わず突っ込みそうになるのを、腹の奥底で押し留めた。
子供じゃないのだから、わざわざ喧嘩を売るような真似はしない。
「ただ、そもそもここにサイクロプスがいること自体が問題だ。一連のことはギルドに報告させてもらうが……それは構わないか?」
「大丈夫ですよ」
悪いようにさえ扱われなければ、事実を報告するのは全然構わない。寧ろ当然の義務だと言える。
────だがそもそも、今の言葉は一体どういう意味なのだろうか?
彼は今、ここにサイクロプスがいること自体が問題だと言った。それは裏を返せば、本来ならここに現れるような魔物ではないということだ。
この森にサイクロプスがいるのが問題なのか、本当はもっと奥深くにいるはずだという意味なのか。
後者の方なら、十中八九私が原因だと思うので、今は黙っていた方が良さそうだ。
「それじゃあ、俺達はひとまずギルドに戻る。あんたも後で話を聞かれるかもしれないから、その時はすまんが頼む」
「分かりました」
「おう、それじゃあな。解体大変だろうけど、頑張れよ。なんなら、手伝った方がいいか?」
「ありがとうございます。でも大丈夫ですので、お構いなく」
「そうか」
結果的に、誰かを貶めるつもりは無いことが伝わったのか、少なくとも悪い人物でないことは理解してもらえたようだ。最後は、こちらを気遣うようにしながら去っていった。
思いの外多くの人物が集まっていたようで、途端に辺りが静まり返る。
心が落ち着くようだ。
騒がしいことが嫌いなわけではないが、そういう環境に身を置くことは少なかったから、静かな方が安心しやすい。
例に漏れず、事前に辺りの魔物を狩り尽くしている関係で、空気もとても爽やかだ。
同時に、忘れていた身体の痛みも一緒に思い出した。
さっきよりは余程ましだが、腰周りの痛みは治らないままである。今のまま歩いて帰るのは正直厳しい。
おそらく、さっきの流れから予想するに、今回の話が通ればギルドは私の帰りを待つことだろう。いつまでもだらだらと居座るわけにもいかないなので、手早く治療することにした。
自身にとってベストな状態の身体を記憶してあるので、それにそって身体を調整していく作業だ。
回復魔法は、緻密な作業が必要なことから、魔力と神経を多くすり減らす。
曖昧な知識で手を出すと、逆に悪化させてしまうこともあるリスクの高い魔法である。
戦争における治療要員として使うために、鬼のような勉強スケジュールで習得させられたのを思い出して、私は思わず苦い顔になった。
あの時は、頭の出来が良くて助かったと切に感じたものだ。
そうまでして戦争の道具として駆り出したいのだから、人間の欲や野望というのは恐ろしい。その辺にいる獣よりよっぽど厄介だ。
できれば、争いごとには二度と関わりたくないと、改めて強く実感した。




