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破滅の魔女は異世界を救う  作者: 藤川秋
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第19話 違和感


言った後に気付いても遅い話なのだが、そもそも馬鹿正直に話さずとも、周りの話に適当に合わせておいた方が遥かに楽だったのではなかろうか。

事実ではあるものの、要らぬ内容までベラベラと喋ってしまったせいで、これから先の展開が面倒になることは目に見えている。


いくら勉強ができても、物覚えが遥かによくても、こういう所で気が回らないと損をするものだと後悔した。

ほんの少しでも、自分の話に信憑性が増す何かが無いだろうかと思考を巡らせるが、あまりいい案は浮かばない。



例えばもし、サイクロプスが人と同じように食べ物を胃で消化しているのなら、誰も食べられていないことの証明くらいにはなるかもしれない。

でも、わざわざ胃の中を覗きたいとは思わないし、それを証明したところであれこれ難癖をつけられて、一人で討伐したとは誰も認めてくれないだろう。



そもそも、科学技術のあまり発達していないこの世界では、消化のメカニズムを正しく把握している人がいるのかも正直怪しい。

地球上の歴史においても、きちんと仕組みが解明されたのは18世紀に入ってからだ。

それまでは、『胃は石臼のようになっていて、食べた物をすり潰している』ぐらいの漠然とした常識しかなかったらしい。


そう考えれば、何の痕跡も無かったところで、すり潰してしまったのだから無くて当たり前だと返されるのが落ちのような気がする。



「あんた、ランクは?」


「Fランクです」


「一番下じゃねえか……職業は?」


「魔法使いです」


「はあ……あんた、嘘つくんならもうちょっとまともにつけねえのか」



予想通りの反応だ。

初めてラウルさんと話した時も、似たような事を言われた覚えがある。

あの時も今も、何一つ嘘はついていないが、信じてもらうことは到底無理そうだ。



「他の奴らが倒して置いておいたのを、横取りしようとしたとかじゃないのか?」


「さすがにそれは無いだろう。ついさっきまで戦ってる最中だったのは、近くにいなくても状況で分かる。何より、これだけ金になる素材を何一つ剥ぎ取らずに帰る馬鹿なんかいないだろうが」


「それもそうか。それなら、止めを刺したってのだけは嘘じゃないんだろうが……」



疑いの目を向けながら話し合う冒険者達。

これだけ騒ぎになっているのは、私がマナー違反をした可能性も考えられるからだろう。


例えば、パーティー全体の実績を独り占めしようと、嘘をついた可能性。

或いは、たまたま出くわしたのではなく、わざとやられるように仕向けてから美味しいところを奪い取った可能性も考えることができる。



勿論そんなことはしていないし、向こうもそこまで考えが及んでいるかは分からないが、方向性は大体そんなものだろう。




────しかしながら、当の私はと言えば、このような状況に置かれているにも関わらず、全く別のことに気が向いていた。



というのも、集まった人々に気を取られていたせいで今の今まで気付いていなかったのだが、サイクロプスに突き刺したはずの三叉槍が跡形も無く消え去っていたのだ。

あれだけ馬鹿でかい武器を見逃すはずがないのだから、普通なら誰か一人くらいは騒ぎ立てそうなものだが、誰もそのことには触れずいる。

先程誰かが、素材は何一つ剥ぎ取られていないと言っていたので、どうやら消えて無くなるのは当たり前のことらしい。



あれ自体が、サイクロプスの魔力で形成されていたということだろうか。

体内に魔石を持つ生き物なら、確かにそれぐらいのことは出来そうだと、その件については納得した。




────だが、気が向いていたのは、その事だけじゃない。

ある意味、三叉槍のことよりも印象的だったのは、”サイクロプス”という名前についてだ。

集まった冒険者の内の誰かが、最初にそう言ったのを聞いて、戦闘前に妙な違和感がしていたことを思い出した。



ギリシャ神話にある通りの特徴。同じ名前。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



(偶然で片付けるには、少し無理があるんじゃないかな)



そもそも、私が聞いている言葉は、女神様の計らいにより付けられた翻訳機能によるもので、実際に現地の人が使っている言葉そのものではない。

会話は当然の事として、魔物の名前ですら、私はダークウルフやベビーウルフなど聞こえた通りに沿って記憶しているが、実際は全く違う言葉で呼ばれているに違いない。


でもそれは、別段問題のないことだ。

元の言語が何であれ、相手の認識するものが何か分かればそれで構わない。

強いて言うなら、会話のようにニュアンスの違いがあるものだけでなく、種別を表すネーミングですら言語が不統一であることには疑問の余地があるが、今追求すべきことではないだろう。




────けれど、サイクロプスは違う。



ただ単に、サイクロプスという名前の何かがあるだけならば、ここまで気にすることはなかっただろう。

どうしてもこの件を無視できないのは、単語そのものというより、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が問題なのである。




表記による読み方の違いがあるにはあるが、犬や猫のような普通名詞と違ってサイクロプスは固有名詞だ。

人物名と同じ。由来がなんであろうと、そのもののみを表す名前であるということ。


サイクロプスの元となるキュクロープスという名前も、一つだけ付いた丸い眼に由来するものではあるが、名前そのものはギリシャ神話に登場する下級神のことを指すものだ。

そこから派生して、物語の中でも、果てはゲームなどの仮想世界でも、一つ目の怪物は大体がサイクロプスと名付けられている。それに関しては、当然の帰結だと言えるだろう。



だが、それはあくまで地球だけの話だ。

そうした逸話があって初めて成り立つ話で、何もない状態から名付けた場合に、全く同じ名前になる可能性は限りなく低い。

だからこそおかしいのだ。




────ならば何故、普通ならあり得ないようなことが、実際に起こっているのか。




(この世界に、ギリシャ神話に酷似した何かが存在しているかもしれない)



地球でないこの星で、地球に似た何かがそこにある。

それを知れば、女神様が教えてくれなかったこの世界を理解するのに役立つかもしれない。


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