第18話 いつものパターン
空間を扱う魔法においては、有名な二代巨頭が存在する。
一つは、私が使っていた収納魔法。
そしてもう一つが────テレポート。所謂、瞬間移動だ。
以前も軽く触れた気がするが、空間を扱う魔法は総じて難しく魔力消費が激しい。
テレポートは特に、移動する上で必要な座標や距離に加えて、様々な条件をクリアするための複雑な計算が必要とされるため、扱えるものはほとんどいないとされている。
────そのテレポートを、よもやこのような経緯で使う羽目になろうとは、己の浅はかさには呆れるばかりである。
結局、倒れ来る魔物を避けることは叶わず、障壁ごと丸々地面に埋まってしまった私は、仕方がないのでテレポートで地上に戻ることにしたのだった。
魔物はもはや、立つことすらままならない状態だ。煮るなり焼くなり、邪魔されることなく好きにできる。
ここからどうしたものかと考えながら眺めるその身体は、相変わらず馬鹿みたいに大きい。
見ているだけでも皮膚とかが分厚そうで、解体しようと思ったら一苦労するのではないだろうかなどと、余計なことを考えてしまう。
いつも通り、脳か心臓を狙えれば確実だろうが、これだけ大きいと小石では効果がなさそうだ────と、そう考えたところで、視界の端に映るものがあった。
ああ、なんだ。丁度良いのがあるじゃないかと、私はそれをまじまじと見つめる。
そこにあったのは、巨大な三叉槍だった。
今は目の前で力なく倒れている魔物が、これ見よがしに振り回していたあの武器である。
あれだけの巨体に勝るとも劣らない、人が握るにはあまりに太く長い柄が、魔物の脇に無蔵に落ちていた。
これだけの大きさがある槍ならば、巨人とて一溜りもないのではないだろうか。
そう狙いをつけた私は、魔法で三叉槍を操り、魔物の頭上まで移動させることにした。
その光景は皮肉にも、先程の私と魔物の立ち位置を真逆にしたかのような構図になっている。
やられたらやり返す、なんて信条は一切持ち合わせていないが、結果だけ見ればその言葉通りの光景である。
まるでUFOキャッチャーのように高さを付けて位置調整をし、納得のいくポジションに合わせたところで操っていた魔法を打ち切る。
支えを無くした三叉槍は、自らの重みに任せて勢いよく真下へと落ち、寝転がったままの魔物の身体に深々と突き刺さった。
苦しむ様子は見られない。
それは、魔物だから痛みに鈍感であるとか、それすらも許されぬまま息絶えたとか、そんな生易しいものではなく、この上ない苦痛に苛まれながらも訴える術を持たないからである。
悶える力を、私が奪った。
叫ぶための声を、三叉槍が封じた。
生きていた証を、死にたくないという慟哭を誰かに聞かせることもないまま、目の魔物はやがて死に絶える。
相手がただの人なら、私の行いはとても残酷なことのように見えるだろうが、結局生きるとはそういうことだ。
誰かの命を奪い、食らい、他の誰かが生きていく。
戦争の最中にいた時に見た、この世の地獄のように思えたその光景は、生き物としてはあまりにも当たり前の出来事であることを自覚する。
誰も彼もが、言葉を交わして、お互いを理解して共存していけるわけではないし、生き残るためにはどうしようもないことだってある。
全ての物に命が宿るとするなら、何も殺さずに生きられるものなどどこにも存在しないのだから。
────とはいえ、勿論、欲に飲まれて行う殺戮はするべきではないと思うけれど。
そうした意味で言えば、私の体験した戦争は、やっぱり地獄の有様でしかなかった。
「……なんか、騒がしいな」
倒したは良いものの、この巨体をどうしてくれようとか、これだけ大きい魔物でも解体してもらえるものだろうかとか、ぐるぐると考えていた私の思考を遮ったのは、遠巻きに聞こえる人の話し声だった。
随分と人数が多いようで、その距離が徐々に縮まってきているのが分かる。
耳に入る音を拾ってみると、ざっと確認できる限りでも5人ほどはいるようで、どこぞのパーティーがたまたま森の奥まで来たのかと初めのうちはぼんやり考えていた。
しかし、自分が起こした行動を振り返る内に、あれだけ派手にやらかしたせいで他の冒険者が集まってきたのではないかと冷や汗をかき始める。
────斯くして、その予想は見事に当たってしまい、防具や武器に身を包んだ人々が焦った様子で勢いよく姿を現した。
「おい、見ろよ!やっぱりサイクロプスだ!」
「大丈夫かあんた、他の奴らはどうした?」
魔物を見て驚いたように声を上げる者や、私の心配をしてくれる者、反応は様々だ。
知らぬふりをして逃げることも出来ただろうに、危険を承知で真っ先に駆けつけてくれる辺り人柄の良い人達だと感心するが、その一方で余計な心配をかけてしまったことに対する申し訳なさが膨らんでいく。
自分があまりに知識がないせいで、今ここに居る人達まで危険に晒していたのだ。
最終的に無事で済んだからまだ良いが、何も知らなかったで許されることではない。
「仲間はやられちまったか、可哀想にな」
「目の前で食われちゃあ、たまったもんじゃないよな」
一人で倒したなどとは夢にも思わないのか、憐れむように声をかけられた。
そればかりか、たった今聞き捨てならない言葉を聞いた気がする。
────食べるのか、人。
確かに、キュクロープスにはそんな設定もあったけれど、出来る事なら実現して欲しくはなかったし、ますます自分の無謀さが笑えなくなってきた。
衝撃の事実に頭を抱えながら、誤解している様子の人達の言葉を反射的に否定する。
「いや、元々一人なんで問題ないです……」
「ん?あんたが止めを刺したんじゃないのか?」
「そうですけど」
「ああ、他の奴らが戦ってやられたところに、あんたがたまたま出くわしたってことか」
「そうではないですね」
「んん?……すまん、意味が分からん」
会話が噛み合わない。
当然だ。端から勘違いをしているのだから。
「私一人で遭遇して、そのまま一人で倒したってことです」
「……は?」
その一音で、いつもの流れに入ったことを察した。
この世界に来てから私は、他人のとぼけ顔を量産するプロになり始めている。
目撃者がいない限り、私が全て一人でやった証拠など出しようもないので、この後の展開はここで概ね確定したのだった。




