第17話 間一髪
突き刺すことは叶わないと悟ったのか、魔物は攻撃の手を止め、再び三叉槍を天へと掲げた。
力は化け物並みに強いが、それ故に思考力はさして高くはないようで、行動パターンは一辺倒である。
それならばと、雷が落ちる瞬間を狙って、魔法を発動した。
どうせなら、相手の手札を封じるついでに、攻撃してしまえばいいという目論見である。
ほんの一瞬の出来事であるので、上手くいくか微妙なところだったが、見事に作戦は成功した。
雷の軌道を逸らすことで、眩しい光の塊を私ではなく魔物へと直撃させることができた。
最初に攻撃された時は障壁で弾いてしまったので、実際の威力は分からないが、全くの無傷ということは無いだろう。
そう踏んでの作戦だったのだが────結果としては大失敗だった。
魔物は、雷を全て吸収してしまった。
どころか、己の力として利用しようとまでしている。
青かったはずの巨体は光り輝く黄金色へと変色し、時折バチバチと電気が走る様子が見える。
集められた雷は徐々に三叉槍の方へと流れ込んでいき、今にもはち切れんばかりの強大な力が輝きをより一層強めていく。
これはまずい。私の勘がそう告げる。
瞬時に起こりうる最悪の事態を予想した私は、未然に防ぐための行動を起こし始めた。
自身の周りに展開していた障壁と同じものを、森全体を覆うぐらいの心持ちでかなりの広範囲に渡って展開する。
直後、三叉槍に集められた力は空高くへと放たれ、5秒と経たずして豪雨のごとく降り注ぎ、空一面を眩く染め上げた。
「あっぶな」
まさに間一髪。
予想していた最悪の事態そのものが、目の前で起こっていた。
もし、すぐ行動に移していなかったら、今頃山火事が起こっていたかもしれない。
そうなれば、私一人だけでなく大勢の人にまで被害が及んでしまう。
そうでなくても、もし近くに他の冒険者がいたら、雷が直撃していたかもしれないのだ。完全に私のミスという他ない。
あまりの浅慮さに思わず渋い顔をしてしまった私は、次回からは、仕事に行く前に周辺の魔物の情報をちゃんと集めてから出掛けようと心に決めた。
今回のことは、深く反省しなければならない。
────ともあれ、今はこの魔物を倒してしまうのが先決だ。
集めた力はすっかり使い果たしてしまったようで、攻撃を仕掛けるなら今がチャンスだ。
一番厄介なのは、例の巨体が手にしているあの武器。
おそらく、あれさえ無ければ雷を撃たれることはまずない。
武器を取り上げる事ができれば、その分リーチも短くなって動きやすくなる。
(まあ、私、今は動けないんだけどね!!)
どうやら、尾骶骨にまで衝撃が加わっていたみたいで、立とうとするだけでも激痛が走る有様だった。
そのせいで私は、これだけ緊張する場面だというのに、先程から終始座りっぱなしである。
正直なところ、これまでやらかしたことや、自分が置かれているこの状況を全て棚に上げて良いのなら、今すぐ寝転んで休みたいくらいだ。
だが、休むにはまだ早い。
後始末のため、もう一仕事しなればならないのだから。
魔物が再び動き出す前に、今すぐ仕掛けるべきだ。
私はすぐさま、魔法を発動できるよう集中力を高めていく。
まずは余計な邪魔をされないよう、動きを封じておくために。
出来れば、武器もさることながら、あの馬鹿力も厄介なので封じておきたいところだが────はて、魔物の力を削るには何が一番有効なのだろうかと、ふと疑問が湧いて出た。
何だかんだ獣を殺す感覚で倒せていたものだから、身体の違いのことなど深く考えていなかったが、どうにも目の前の生き物が獣と同じ部類とは思えない。
異世界にいる以上、知らない物質から構成されている可能性もないではないのだ。そのことに少しばかり戸惑ったが────それならそれで次の作戦に移ればいいと、ほんの一瞬の内に私は開き直った。
そう腹を括って、最初に浮かんでいた方法を変えることはないまま、構築していた魔法を発動する。
私達、生き物が持つ力とは何か。
一番単純で、一番明快は力とは、すなわち筋肉だ。
だから、魔物の力を無くしたいのなら、全身の筋肉量を大幅に減らしてやれば良い。
そうすれば、あの魔物はたちまちに、巨大な身体を支えることすらままならなくなるだろう。
採算失敗してきた私が、二の舞を演じてしまわないだろうかと内心ドキドキしたが────今度こそ作戦は成功した。
武器を握る力も、その場に立ち続ける力すら無くなった魔物は、大きく崩れ落ち始める。
────だが、安堵したのも束の間。
二度あることは三度あるとはよく言ったもので、次なる問題が私をすぐ襲った。
ほっとする私の視界が、どんどんと薄暗くなっていくことに気付く。
ふと顔を上げれば、青々とした大きな塊は、近くに座り込んでいた私を巻き込まんとしながらこちらに倒れ込んできていた。
私は、何度失敗を繰り返せば気が済むのだろう。
迫り来る青を視界に捉えながら、不覚にもそんな事を考えてしまった。




