第15話 一番の問題は
一応、最初に弁明をしておくが、私は決してうっかりミスをしてしまったわけではない。
私の言う問題とは、魔物に囲まれたことそのものではないのだから。
私は、実験がしたかった。
自らの推測が正しい自信はあったが、万が一外れていて、同じ目に何度も会うのは避けたかったからだ。
そこまでしてお金や実績を稼ぎたいとは思わないし、今のところその必要も無い。
ベビーウルフを回収し終えた後、散策を再開した私は、実験するに当たって事前準備をしておいた。
敵に見つからないように、魔力の気配を殺しておいたのである。
敢えて消さずにおいて、有効範囲を調べるのも無しではないが、それは今回の実験が成功した場合に取っておくことにした。
散策を始めてからしばらくの間は、わざわざ気配を殺す必要もないくらいに、魔物と遭遇することが無かった。
ほとんど、というレベルですらなく、全く、一切合切姿を見かけることが無いのである。
こんなにも広い範囲の魔物を一気に呼び寄せたのかと思うと、我ながら化け物じみた所業であると切に感じるくらいだ。
魔物が敏感なのか、想像を超えるレベルで私が異常なのか。
どちらにせよ、敢えて利用する時以外は常に気を付けた方が良さそうだ。
「そろそろかな」
すっきりしていた空気は徐々に無くなり、最初に感じていた不快さが再び戻り始めていた。
ここからは、魔物の巣窟に逆戻りだ。
敵に見つからないよう気を付けながら、さらに足を進める。
しかしながら、先程とは打って変わって、どれだけ待っても魔物が近付いてくる気配を感じない。
予想は当たった。
試しに、ほんの少しだけ、気配を漏らす。
近くに居ないのか、魔物が気付く様子はない。
さらに量を増やしていく。
すると、今度は魔物がこちらに気付いたのか、辺りの空気が揺れたような気がした。
そうして、隠していた気配を全てさらけ出す頃には、すっかり魔物の包囲網が出来上がっていたというわけである。
うじゃうじゃという言葉がこんなにも似合う光景など、魔物に対してそうお目にかかれるものでもない気がするのだが、ここまでは予想通りであるので、最初に述べたようにそれ自体は別段問題では無い。
今度の群れは、見知った顔と初めての魔物が入り乱れていた。
僅かに残っていたのであろう、ベビーウルフ。
昨日ぶりに出会ったダークウルフ。
────そして、猪の姿をした魔物。
もしや、あれが噂のクレインボアではなかろうか。
名前を直訳すると『小さい猪』という意味になるが、特別小さいようには感じない。
他の猪型の魔物がいて、そっちがあまりに大きいのでそう名付けられたとか、大方そんな理由だろう。
自前の牙は中々に立派なもので、大きく反り返るようにして付いている。
食らえば一溜りもなさそうだ。
相変わらず数が多いので、分かっていてやったとはいえ逃げ出したい気分になった。
でも、やる。
わざわざ稼ぎたいとは思わないが、折角の稼げるチャンスは美味しく頂いておくに限る。
お金に関しては、あるに越したことはないのだから。
そうと決まれば、あとはひたすらに作業をこなすだけである。
万が一、なんてことのないようにしっかりと障壁を張り、地面に転がる小石をかき集めて、ひたすらに撃つ。
狙いを定め、音速を超える速さで、数多の敵を貫いていく。
今更ながらに思うが、普通に獣を殺す感覚で倒せる相手で良かったと思う。
脳を破壊しても生き残れます、なんて化け物だったりしたら、私は真っ先に冒険者を辞めていただろう。
というより、そもそもなろうとすら思わなかったに違いない。
それなら、ダークウルフに会った時点で人生詰んでいただろうから。
この状況ですら、人間ですらないが故に乗り切れているだけに過ぎないというのに。
さながら魔物大戦争のごとく、寄り集まったそれらをあらかた倒し終えたところで、異変は起きた。
今までも、他人からすれば十分に異質だっただろうが、私にとっての問題はここからだったのである。
地面が揺れている。
重たい何かを落としたかのように、何度も繰り返し、次第に揺れが大きくなっていく。
一際濃密な魔力の気配が揺らめいている。
ゆっくり、ゆっくりと近付くにつれ、嫌でも視界に入るその姿。
一つ目の魔物。
青い身体の巨人が、目の前にいた。




