第13話 聞いてたんと違う
「ところで、もう一つ聞きたいんですけど、この辺りの魔物って他より強いんですか?ランクの高い依頼が多い気がするんですけど」
「そうですね、確かにこの辺りは強い魔物が比較的多い地域です。特に東の森は、奥の方に高ランクの魔物が多く生息しています。入ってすぐのところはそうでもないんですけど……シオンさんも、行かれる際には気を付けてくださいね」
「そうします。でもそれだと、初心者は少し厳しそうですね」
「ええ、こればっかりはどうしようもないんですけどね。実際、ランクの低いうちは他の場所で仕事をして、実力を付けてから来る方も大勢いらっしゃいますよ」
なるほど、それも一つの手である。
命あっての物種。死んでは元も子もない。
冒険者こそ特に、命を大切にすべきだ。
「ありがとうございます。……今更ですけど、名前をお伺いしてもいいですか?」
「リーリア、と申します」
「リーリアさん、改めてよろしくお願いします」
優しく微笑む彼女と握手を交わす。
依頼対象の魔物と薬草の特徴を聞いてから、再びお礼を言ってギルドを後にした。
さっそく、今日から一仕事だ。
街の門を抜け、街道に沿って歩くと、少しした所で丁字路に差し掛かる。
真っ直ぐ進んだ先が、どこに辿り着くのかは知らない。
左に伸びている方は、昨日私がせっせと歩いてきた道だ。
そして、今日の目的地は左に進んだ先。
つまりは、東の森に向かおうということである。
正式名称、サイラース森林。
街の名前を冠しているという話で、その時初めて、滞在場所がサイラースという名前であることを知る。
この森林はとにかく広大で、あらゆる魔物が生息し、魔物の巣窟のようになっているらしい。
常駐依頼対象の魔物もここに生息し、薬草も多く生えているそうだ。
入口に近ければ近いほど低ランクの魔物が存在し、奥に行けば行くほど敵は強くなる。
初心者は入ってすぐのところで魔物の討伐と薬草採取をこなし、上級者は奥深くに入り込んで高ランクの魔物を狩る。
魔物も冒険者も、お互いの生息地や狩場がきっちりと棲み分けされているというわけだ。
そして、私は初心者。
入口付近で細々と仕事をさせてもらおう。
「んー、いい空気!……と言いたいところだけど、そうでも無いんだよね」
天気は快晴。
吹き抜ける風も、カラッとして涼しく気持ちがいい。
────でも、森の中の空気は悪い。
原因は分かっていた。
おそらく、住み着いている魔物のせいだ。
魔物は独特の空気を醸し出す。
それは、ダークウルフと対峙した時に嫌というほど味わった。
魔石の影響から溢れ出す高濃度の魔力に、剥き出しの殺気が入り交じり、不快さが増しているのだ。
加えて、魔物から出る魔力というのは、どろどろと澱んでいて気持ちが悪い。
魔法を扱えない者からしてみれば、魔力の流れというものはてんで分からないだろうが、殺気だけでも慣れてないものが当たれば気分を悪くするだろう。
これだけ空気が澱んでいるということは、魔物が多く住み着いていることの裏返しでもあった。
そう考えると、冒険者というのは、常に自ら気分を害しに行かなければならない職業ということになる。
それはそれで、なかなかにストレスの溜まりそうな環境ではあるなと感じた。
────とはいえ、それも仕事の内。
どうにもならないものは、さっさと割り切るに限る。
「思ったよりいっぱい生えてるな、この薬草」
そういうわけで、せっせと薬草探し。
作業をしながらも、周囲の警戒は怠らない。
見つけた薬草を収納魔法でぶち込みつつ、少しずつ森の中を進む。
入ってから五分と経っていないと思うが、既に嫌な予感がひしひしとしている。
予感というより、ほぼ完全に確信だった。
どろりとした空気が、周りから着実に集まってきていたからだ。
最初に出会った時もそうだが、どうにも魔物に囲まれやすい何かを私は持っているらしい。
程なくして、近寄ってきていたものの正体が目の前に姿を現した。
黒い斑が特徴の、灰色の毛をした魔物。
ベビーウルフ。
今回の狩りの目標物だ。
ベビー、と名が着くように、サイズは普通の狼より一回り小さい。
狼系の魔物というのは、総じて集団で敵を狩るらしいが、この魔物に関しては二体から三体と総数が少なく、比較的対処がしやすいのも特徴だ。
勿論、油断をすればあっという間に殺されてしまうが、急所さえ狙われなければ多少攻撃を受けても死ぬことはないだろう。小さいが故に、殺傷能力が低いのだ。
初心者一人では荷が重いかもしれないが、ほんのちょっと工夫するだけでどうにでもなる。
故に、ランクはE。
圧倒的に身体能力の高い他の魔物と比べれば、ただの獣が群れを成しているだけに過ぎないという事だ。
────というのが、本来の情報である。
そう。そのはずだった。少なくとも、リーリアさんから話を聞いた限りでは。
種類は間違いなくベビーウルフ。
聞いた通りの毛並み。聞いた通りのサイズ。
ただ一つ違うのは────群れの数。
視界に入ること、およそ十体越え。
聞いてたんと、違う。




