ぼこぼこにされました
「そこを右に避けるんじゃ!」
「くっ!!」
俺は校庭でバラガ先生の訓練を受けていた。バラガ先生は松葉杖ながら右手に備えた木刀で、当たってしまえば致命傷。の剣筋を振ってきた。
いくら身体魔法をかけているからとはいえ、あの速度の木刀を振られると1歳児は木っ端微塵だろうな。
まて、この人達は俺のことを何歳だと思ってるんだ?
けど、先生達は当たり前のように俺のことをボコボコにする。さらに体育系教師の正気を疑ってしまう。
しかし流石と言っていい。第4師団長は伊達じゃないってことだ。基本両手が塞がっているけど器用に左手の松葉杖1本でバランスをとり襲いかかってくる。
また、松葉杖を持ち変えて左手で松葉杖を操り右手で攻撃!なんてこともできちまう。万能すぎか!
「うーむ。剣がイマイチだのぉ。とりあえずまた休憩挟んでからくるけんの。」
「はぁはぁはぁ……はい!」
やっと休憩きたぁぁあああ!
生活魔法で水を生成し、ガブ飲みした後は体を洗う。
魔法便利やわぁ…
ちなみに生活魔法は魔力を消費しない。この程度の魔法であれば大気中の魔力が働き自身に貯蓄している魔力を消費しないのだ。有能すぎか!
うむうむ。しかし剣は難しい。刃物なんて包丁とカッター以外は使ってこなかったからなー。
そうだ。居合斬りとかしてみたいな。めちゃめちゃかっこいいよね、あれ!
そうしてテレビで見たまんまの居合斬りを木刀で練習していた時だ。いつのまにかバラガ先生がいた。
「テル…それはどこで?」
「え、ああ、今自分で考えました。」
「うんぬ。そうか。まぁよい。では始めるぞ。」
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「お疲れじゃ。次は盗術の授業じゃったな。うーん。ま、お主ならできるぞい!んじゃのー。」
「えっ?!それはどういう意味で……あっちょっと!!」
えっ?!なに?!こわい、こわいよ?
バラガ先生が仰った言葉が凄く心に残るが次の授業に備え体を洗浄し、制服に着替えて既に座り慣れた椅子に腰を下ろす。教科書を事前にもらっていないのでどうせ……
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ぼーっとしていると急にガラッと戸が開いた。
うん。めっちゃびくってなった。けど、あれ?誰も入ってこないんだけど。
ゾワァーー「ひぃっ?!」
戸が開いたすぐに背筋の芯が凍り、体が金縛りにあった。体が動かない!襲撃かもしれない。どうする?大人に知らせるか?なら生活魔法で火を起こして火事にするか?あ、でもそうすればまた村移動しなければならないことになるし…
『解』
「くっ?!はあっ!」
誰かが耳元でコソッと声を入れてきやがった。その瞬間、呪縛が解け俺は戦闘態勢に入る。残り少ない魔力をありったけ練ってまだ未習得である火属性上級魔法の展開を行う。
「くそ!どこだ?!」
「ここよ?」
「ひぃっ?!」
また耳元で女性の声が響く。その声は黒く悍ましく、そして物寂しかった。
俺はすぐに魔法の構成を中止し、ゆっくりと席に着いた。なぜ俺は席に着いたのか魔法を中止したのかわからない。なぜか本能的にそうしなければならない。いや、してあげたい。と感じた。
これは末期だな。
「なんてコなのかしら…おねぇさんびっくりしたわ」
「うわぁっ?!」
「まぁ。驚かせてごめんなさいね?」
おれの右の耳から、黒く暗く、そしてどこか心の重りが外れたような、そんな声が入ってきた。
いや、びっくりしたわ。でもこっちの方が好きかも…俺。
「あ、あのぉ??」
「まあまあ。ごめんなさいね?あたしは貴方の盗術授業を担当するミマーフルよ。」
OH…また濃い先生ですね。しかしながらこの状況…は少しダメな気がするね。
美人が真横に座り右手を両手で拘束され耳元に口を寄せ囁かれるとどうしても不純な気持ちがオッキしてきてしまうね。
うん?これは仕方のないことだよ。
いやそんなしょうもないことはいいんだ。まずこの女性だ。真っ黒のフード付きマントを羽織っているため、前からは恐らく顔が見えることはない。しかし1歳の俺より身長が低いはずがないため、フードの下から顔全体がうかがえる。
目尻はキリッとしていて茶色の眼球。黒く長い髪の毛で綺麗な顔筋を隠している。胸元はわからないがブカブカのマントの上からでも豊満なバストを匂わせる。
「よ、宜しくお願いします。ミマーフルさん。」
「ふふ。とりあえず外に出ましょう?」
でたよでたよ。
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「では私からこのペンを取って頂戴?いくわよ。」
「は、はい!」
ん?女性からペンを取る?バカなー。いくら1歳児でも舐めすぎとちゃいますか?
ミマーフルさんから身体魔法をかけてもらい全速力でペンに向かって突っ込む。普通の1歳児だと思われちゃぁ困りますぜぇ?
「もらったぁぁあああ!!」
「あら?」
「えっ…」
い、いない?どこだ?どこにいった?!
「ここよ?」
「ひぃっ?!」
また耳元!?それびっくりするからやめろよ!
くそー、怒ったぞ。
「『電光強化』」
「へぇ?」
まだ大人には見せたことのない必殺技だ。
体全体に宿る魔力を軽い電流に変換し肉体を刺激する。それによって人知外の力を出すことが可能になるので、異常な速さで動くことができる。よって、そこらへんの1歳児では到底私に勝てないだろうな。
まあこの魔法?もデメリットはある。そのことがバレなきゃいいんだけどね…
その速さでミマーフル先生の胸のポケットに刺さっている羨ましい羽ペンに手を伸ばす。
あわよくばとか思ってないけど?いや、思ってないから!
「ふっ」
「あ、あれ?!」
まただ。触れる瞬間にミマーフル先生は姿を消す。
それが何度も続き、いい加減疲れが溜まってきて魔力の変換効率も悪くなってきた。やばい。デメリットが発動する!
「もうジリ貧ね。じゃあ、あたしの勝ちでいいのかしら?」
「ぎゅへぼっ?!」
俺は来ていた衣服をコンマで全て剥がされ、宙に蹴飛ばされた後、肩を掴まれ目の前にフードの女が姿を現す。
俺はその後からの意識はなく、目を覚ますと教室の椅子で寝ていた。
「うーん。やられたなあ」
黒板には陰気ミマーフル先生の伝言が記されていて内容は「明日の授業も外でやる」だと。やたら字がうまいところが腹立つよね。あとあの耳元で静かに囁くのやめてほしい。
さて、次の授業は体術だったっけな。そのままの通り、体を使った武術らしいけど使うことってあるのかな?俺は魔法と剣で戦うスタイルでいこうとしてたんだけど。
ふふ、いずれにせよ実践授業になるのは予想済みだ!
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「よろぴく」
「あ、はい。」
ガラリとドアが開き人が入ってきた。その人は不思議な人だった。顔はぼーっとしていて髪の毛はベリーショートの黄色。服は白色の柔道服?みたいなものを着ていて胸のあたりを白の包帯でぐるぐるに巻いている。そして一つわからないことがある。
女?男?
「んじゃ、外でよっか。」
「はひ…。」
外と言っても今回は教会の避難所となっている屋内の広い場所だ。体育館的な?
正直この村に避難所とかいるん?って思ったけど見かけ上設置しておくことも必要らしい。
武道場は木の床でできていて教会の廊下と同じだが、明らかにおかしいとこがある。見るからに固めの青いクッションが真ん中に構えている。
跳び箱の着地するマットみたいな、そんな感じ。
「身体魔法かけたよ。んじゃ、かかってこいや」
「う、うっす!」
おお、こりゃなんかわからんがヤル気が出てきた。
よっしゃ、行くで!
『電光強化』を発動させ瞬時に先生の元に体を寄せる。そして右腕を掴み自分の右足を先生にかけて、投げようとする。
「う、うごかな…ぃ」
「へぇ1歳なのに力があるんだねー?」
ドン
「うわあっ…くっ」
な、なんだ今の?!
背負い投げの実行を試みた俺は失敗したことを確認すると、すぐに距離を図ろうと後退した。のだが、俺の胸に手を当て先生が「ハッ」っと声を出すとむちゃくちゃ吹っ飛んで壁にぶち当たった。とても1歳にやるとは思えないんだが。
「へえー。気絶しないんだ。」
「絶対それ体術関係…な、いですよね。」
肺が圧迫されて息苦しいがなんとか喉から声を出す。その声は今にも潰れそうで降参の意を込めていたはずだ。
「もいっちょー。」
「きええええええ!!!」
どっから出たんだ?というような声が出る。
中性的先生は座り込んだ俺の小さな体を掴み反対側の壁に向かって吹っ飛ばす。その時にも「ハッ」と言っていた。
俺は瞬時に壁に足をつける態勢に入るが、すでに反対側の壁には先生がいた。
「まだ私の名前を言ってなかったね。僕の名はスワイプだよ。」
スワイプ先生は俺の足を手刀で下に叩き落とす。すると俺の頭はシーソーのように慣性に従って、先生の体に飛ぶ。
このままいけば頭突きでも食らわせそうだぜ。なんて、淡い考えを持ったような気がした。




