相棒が凄すぎて俺の努力が目立たないんですが。
こちらに載せることにします。
「くそっ!そっちに行ったぞ!」
「追え!追え!」
「一人やられた!」
所々に見える赤い光は東大陸のある山中に陣を引く盗賊団の焚き火である。うっすらと光る星々が綺麗な夜空に満天の煌めきを地上へ落とす。森の中に広がるテントのような彼らの家から様々な人が飛び出す。服をまとっていない男女や、多いのは獣人である。
盗賊団『月光蝶』の手の届かない大陸では、未だ山賊や、盗賊団が乱暴に活動し、領土の国も手を焼いていた。そこは俺たちに依頼があったというわけ。月光蝶で育ってきた俺にはこの村に単騎で挑むこともそう難しくはない。それに『鑑定』によって少しでも厄介な能力を持つ団員をターゲットに絞っているので俄然遂行しやすい。
逆にわざと姿を見せて混乱させる方が難しい。
「こっちも燃やされた!」
「バカどもを団長の元に集まろ!何としても金物だけは守るぞ!」
「あっちで火が起こったぞ!奴隷檻の方だ!」
この山で一番凶悪だとされていたのが今数も不明の敵に襲われている盗賊団『風島』である。先程から剣のぶつかる音も聞こえず、弓が飛ぶわけでもない。一人、また一人と姿が消えて倒れてゆく。
「追い詰めたぞ!」
「よし、リンチにしてしまえ!」
「やれやれやれ!魔法を展開しろ!」
村の入り口が騒がしくなった。かなりの賊が集まってるらしく、松明の光が一点に集まった。どうやら見つかってしまったらしい。後方も山に点在している風島の別働隊が援軍として駆けつけた。援軍の人数はあまり多くはない。多分俺が取り逃がしたのは一人だけだったみたいだ。しかし、完璧に井の中の蛙、逃げ道はない。
「ガッハッハー!井の中の蛙ではないぞ小僧……鹿の中のトラだ!」
「だから、心読むなってあれほど……」
もちろん、それは罠である。第一俺にあの人数を手に取れるわけがない。だから得意な隠密で村を混乱させ、何人か裏の見張りを気絶させておく。それによりスムーズにあのおバカな英雄殿が本陣に歩いてこれるというわけだ。
この四年間英雄の彼を召喚し、共に歩んできた……というより英雄さんに引っ張ってもらった感じだ。全く恥ずかしいことに、何度も助けてもらったしこの世の中のことを教わったのも獣神の英雄ヒルシス・アーカイブスさんのおかげだ。
それにはとても感謝している。盗賊事業を拡大しようと南大陸……ララ大陸でもがいていた時、幾度にも渡って他の盗賊団からの襲撃を返り討ちにしてもらったし、街に入る金もなく、山で野宿していた時に遭遇したグラントベアーという通称殺戮熊と呼ばれるAランクモンスターを寝転びながら頭をぶった斬る曲芸紛いなことをして命を救ってもらった。
感謝してもしきれない恩があるのだが、しかし。
「さあっ、どこからでもかかってくるがいい……ニンゲンのゴミども!」
人間の盗賊がゴミだとするのなら私も余裕でゴミなんですけど。主人をゴミ呼ばわりするのはどうかと思いますがね。
ヒルシスさんに足らないのはまず圧倒的に言葉が汚い。そのことを毎回訂正するんだけど治りそうにはない。昔から剣や、魔法の訓練ばかりしてきたから今から丁寧な言葉を覚えるのもアホらしいとか。
「ルァッッ!」
盗賊達の肉体が四方八方に飛び散る。人の入り口が一瞬で血の色に変わる。盗賊達もそこまで能無しではない。今まで通り、数に任せて勢いだけで攻めても意味がないことはわかるのだ。
「はっ、それで終わりか?」
けなすように吐き捨て、ヒルシスさんは持っていた鉄製の剣を投げ捨てる。地面に刀身が触れた瞬間、亀裂が入って散り散りに壊れた。さすがに上等な剣でもあの人数を切ればガタがくる。次は右腰に携えていた剣を独特のフォームで構え、隙なく敵の出方を探った。
「くっ、あんたは一体何者なんだ!」
「我の名はヒルシス・アーカイブス!剣術魔法を達した男である!」
「あのバカ!」
盗賊の一人が叫んだ。それに思いっきり本名を名前を返すバカ。あり得ない、本当にありえない。普通本名を教えますか?というか本名自体教えることは悪くないんですが、それを傘下の盗賊団に伝える伝令を片付けるのは僕の仕事なんですよ、仕事量増やすのやめてください。
名前が伝わってしまえば、ほかの盗賊団から狙われることもあるだろうし、ここを壊滅させても厄介な残党連中が復讐しにくるやもしれない。
「くははっ!自ら名乗るとはバカなやつだ!魔法の撃つ準備はできているか!」
団長っぽい人が笑い飛ばし、それに同調するように団員達も乾いた笑いを見せた。正直あんなものを見せられて剣で切りに行けと言われる方が団長の笑いに乗じなかったーー死刑、より怖い。
十人ほどの男が前と入れ替わりで出てくる。全員を鑑定し、特に厄介なものを持つ魔法使いがいないことを確認すると俺は三人目の伝令を気絶させた。
「魔法……魔法か!いいではないか、お前らの魔法というものを受けてやろう。」
というとヒルシスさんはどっかりと地面に座り、剣をドンッと突き刺した。またバカなことをしているが、俺には止められない。まだやらなきゃならないことがあるし、ヒルシスさんなら多分大丈夫である。
伝令がもう出ないことを確認すると、俺は入り口を後にし、大広間に出た。大きく開けている場所で人数を集めるには十分な面積である。先程全ての見張りを無力化し、『バインド』で転がしているので見つかる心配はない。
「さて、君たちを助けたのは俺の奴隷にしようとか売り飛ばそうとかそういうわけではない!」
ちゃんと俺に恩を感じたのか、結構な人数が集まった。そう、集まってくれたのは先ほど解放した獣人の奴隷である。彼らを解放する際、機を見て集まってくれと言ったのだ。しかし、決め手は恩とかそんなあやふやなものではない。
「おい、ヒルシス様がいないぞ!やはり嘘だったか!」
ヒルシスさんの名前を使ったのだ。獣人にとってヒルシス・アーカイブスとは獣人界でも伝説中の伝説。世界で迫害され続けてきた獣人の名を世界に轟かした一人なのである。とっくに死んでいるというのはわかっているが、自分達を助けた人間の言っていることがもし誠なら、彼の名前を無視してしまうことになる。そうするとヒルシス・アーカイブスに面目がつかないというわけだ。
「もうすぐ……くる。」
俺がつぶやいたと同時に、入り口で大きな爆発が起こった。真っ赤な炎が空中でさらに爆発を続ける。火属性中級魔法『爆傷』は大きな爆発音を伴いながら現象を起こすのが特徴の騒音魔法でせっかく俺が片付けた伝令も意味なしか……はぁ。
「なんだァ小僧!散らけてる雑魚が向こうからやってくるんだからいいじゃねぇか?」
「また俺の心を読みましたね!?」
真っ赤に血濡れた虎が火の手が上がった方から歩いてきた。片手にはズルズルと肥満めの男を引きずっている。あれがここの団長殿か。
追っ手は見えない。
あの量を全て片付ける戦闘狂の考えることは四年経った今でもイマイチわからない。大体俺が他の団員を呼ばなかったことには意味があってだな……。
「こ、これはヒルシス様ァァァ!」
「ほ、ホンモノだァ!」
「どうか、どうか我々をお救いくださいッ!」
広場にいた獣人たちが各々叫びだした。勿論人間が叫ぶとかいう程度の大きさではない。もうそれは、バカでかすぎて小一時間は耳鳴りが収まらないほどだ。実は何度か経験済みなので、風魔法を使って少ない音だけを拾うように調節する。魔法って超便利。
「オオオッ!我が同胞……いや、孫たちよッ!」
みんなヒルシスさんを囲んで泣きながら笑っている。お互い抱き合ったり、熱い抱擁をしたり、突進して抱擁したりと凄く忙しそうである。が、見ていて心がホッとする瞬間でもある。俺は四年のうち三年を獣人奴隷の解放に努めてきた。
日本にいた為か、奴隷という響きが嫌いだった……というのも理由の一つだが、大切な三年もかけて獣人奴隷を解放してきたのには意味がある。一つはヒルシスさんに頼まれたのだ。ヒルシスさん曰く、自分の匂いのついた寝床を一般公開し、匂いを獣人全員が覚えられるようになっているらしく、自分が復活したことを静かに広めて欲しいとのことだった。
「感動の再会?は、その程度にして第二戦といきますか。」
目立ちやがりやな性欲ジジイが考えそうなことだったが、二つ目の理由によって俺は彼の頼みを聞くことにした。そう、解放した奴隷達を盗賊団に引き入れるのである。もともと獣人は身体能力の高いものが多く、知能が多少人に劣るとも、ヒルシスさんがいれば完璧な統率がとれると思ったからだ。
「よし皆の者よく聞いてくれ!今から各地に散らばった仲間を助けに私は出ている。そしてこの森にもまだ多くの獣人が囚われているだろう……今からそれを解放する戦いを行う!皆武器を取れ、誇りを捨てろ、仇に復讐の心をみせろ!」
「「「オオオオオオッ!!!」」」
先ほどとは比べ物にならない鳴き声が響いた。風魔法を使っても感じる熱気と強い指導者を信じる獣人の忠誠心がひしひしと俺の心に伝わってくる。それぞれいろんなテントをあさり、剣などを持ち出してくる。それはまるで鎖を解かれた獅子のようだ。女子供関係なしに戦闘力は高く、ヒルシス・アーカイブスという獣神がいてこその強さがそこにはあった。
「おい、獣人どもが外に出ているぞ!」
「お達の仲間をやったのはお前らか!」
「奴隷の分際のくせに粋がるなよ、猿ども!」
ようやく森の各地から本陣に助太刀しにきたようである。助太刀といってもその本陣は全滅して、少しずつ集まってくる『風島』の団員達を獣人の怒りに任せて全滅すればいいだけだ。主要な人物は全て捕らえたので、後は彼らの好きなようにやらせてあげればいい。
「誰が猿だァ!?」
「俺たちは誇り高き犬と!」
「虎と!」
「獣神である!」
「「「ウオオオオ!」」」
兵士を馬車が引くように、片っ端から蹂躙を行なっていく。個々では戦略に負ける獣人でも数と物量で押し切れば戦術などを練っている暇はない。なにより獣神の存在に気づいていない盗賊側に勝利はない。
その夜、盗賊団『風島』は千ほどいた団員の六割が姿を消し、二割の幹部連中が国に投降。残りの二割が我々『日光獣』の傘下となり、ララ大陸ラムサス山の盗賊権を奪取することに成功した。
暇な時にまた更新しようかな、なんて思ってます。




