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最終話

 

「ダバダ、ダベダベタァァ……!」


 黒い塊が吼える。

 見るからに自己はすでに消失しているだろう。

 俺たちはすぐにリハンに駆け寄った。


「ようやく来てくれたんだね……ふぅ」


 武器のようなものはリハンから見当たらない。

 もしや、素手で戦っていたのか?

 ピリーと思われる魔人は代表がドロドロと溶岩のように爛れており、所々が欠陥していた。


「大丈夫なのリハン!?」


 一方でリハンもかなり傷を負っていた。

 肩からは息をしていないものの、こんなに乱している父の姿は初めて見る。


「うん、僕は平気。それよりもまずはこいつだよ。」


「もしかして、本当に紅黒蒼石を?」


 魔人の方を向きながら頷いたリハンは両手を胸の前に合わせ、手のひらも魔人に向ける。

 魔法陣が展開され、身長の倍ほどある大剣が召喚された。


「僕あんまり一人で戦うの慣れてなくって……みんなここから本番だよね?」


 いつのまにか全員が集合していた。

 誰も相手が魔人だというのに気後れしていない、覚悟の灯った目をグラグラと揺らせている。


「よし、じゃあいくよ。僕ら『月』と『光』の実力を見せてやろうよ!」


「「「おう」」」


 爆音を鳴り響かせ、次々に団員が周りを高速で巡回していく。

 アンジュもそれに加わろうとしたが、踏みとどまって俺にまたあの白い果物を投げてよこした。


「テルマッドは危ないから下がってて。それで自衛ぐらいはすること!じゃあね!」


 アンジュはそれだけ言うと、地面を蹴って走り出した。俺はさっきも食べたホワイトアプリをまたがぶりと食べ、離れたところでお尻を地面につける。

 こちらが動いたのを確認すると魔人は高圧度の魔力弾を全体に発射する。


『抹殺能力開眼』


 ヤハーナさんに飛んでくる弾は全て弾け飛んでいる。目の色が変色しているため、魔眼の効果だろう。

 しかし、飛来物を消滅させるとは異常な能力だな。


「俺の娘を返しやがれぇぇえええ!」


 バッガスさんが巨大な棍棒で魔人の背中を振り抜く。

 地震のような衝撃が地に響き、魔人の足がついに地面を離れる。

 それを機と感じて一気にこちら側が攻撃を仕掛ける。

 炎の超級魔法や、聖属性の崩壊魔法。金色の雷を纏った剣戟が、倒れた魔人の体を切り刻む。


「す、すごい……」


 俺はその洗練された動きと、経験に比例した連携に圧倒されていた。空を飛ぶ虹色の属性魔法や、重力を駆使した圧殺魔法などが絶え間なく、その巨体を襲う。

 全く俺が入れるような隙がない。

 それを見越してか、ヒルシスさんもずっと俺の側についている。


「どう?テルマッド。」


 いつのまにか俺たちの前にリハンの姿があった。

 正直リハンがどこで戦っていたのか見えなかった。まだまだ俺たちの間には強さの格差を感じる。


「すごいよ、父さん。これが父さんの仲間なんだね。」


「仲間じゃないよ?みんな家族さ。いつのまにかすごい大家族になってしまったけどね。」


 そう告げながら体全身を包む魔法陣を展開させている。

 その大きさからかなりの大魔法であることが予測できる。


「ケリーは……殺したのかい?」


「うんうん。第二師団の人たちに村に護送してもらったよ。」


 俺の言葉を聞くと、後ろを振り向いてリハンは笑った。


「よくやった。ヒルシスさんも召喚できたんだね。」


 ん?たしかあの魔伝史は俺が開けるまで開けられていなかったはずだ。

 本を開けた時少しだけだが、埃っぽい香りがしたのだ。つまりそれは数年も誰かに開けられていない証拠だ。

 なぜリハンが言ってもないのにヒルシスさんのことを知っているんだ?


「ね、どうしてヒルシスさんのこと……」


「あぁ、それは……まあ秘密ってことで?」


 にこっと意地悪に微笑みかけるとリハンの正面に展開していた魔法陣がより一層発光した。

 かなりの魔力量だ。ルートの魔力なんて比じゃないほどの量だが、あの時のようにめまいも頭痛もしない。


「ふふん、ここで一つ見せてあげよう。」


 魔法陣からいくつもの鎖が放出される。

 それらは迷いもなく巨大な魔人の肢体を拘束する。何重にも重なった鎖を剥がそうと魔人はもがき続ける。

 確かにすごい拘束魔法だが、もしやこれだけのために長めの詠唱をしたのか?


「まさかこれだけだとは思ってないだろうね?僕らの魔法はここからなんだ!」


 リハンが大声で叫ぶ。

 いつのまにか動くものはなく、団員達も皆詠唱を始めていた。


「ダガァァアアアアア!!!」


 魔人が狂気な声で叫ぶと、リハンの鎖を全て引きちぎる。俺はそれに驚きを隠せなかった。あんなに強い魔力の鎖を引きちぎるなんて尋常な力ではない。


「大型討伐作戦駆逐でいくよ!」


「「「おう!」」」


 いくつもの魔法陣が一気に展開される。

 その数はざっと十五と見える。魔法陣は魔人を中心に囲い込むように展開され、空中にもその円が張り付いたように設置されている。

 空中に器用に展開できるということは、エルさんの結界が強固に張り巡らされているのだろう。

 師団長クラスが張り巡らせる鎖の魔力は俺の体を圧倒した。

 余裕でリハンに匹敵するレベルの魔力量なはずなのに息ひとつ切らしていない……というよりかは、


「みんな……笑ってる?」


「拘束!!!」


 一斉に鎖が発射され、解き放たれた魔人は再び身動きが取れなくなる。今度は十五本の鎖が身体中の自由を奪っているので、暴れることすらできていない。

 魔人の雄叫びが炸裂した。一気にどんよりした魔力がその場を包み、俺に吐き気が襲う。


「イキのいい大ブタね!」


 アンジュの目が澄んだ水色に変化する。

 聖属性の魔眼だったはずだ。目が変化した途端空気が突然軽くなり、俺の吐き気もピタッと止まる。


「ありがとう、アンジュ!」


「あの魔力だけは慣れないわ」


 リハンはアンジュに手を上げて礼を告げると新しい陣が五つ生成される。

 赤、青、黄、茶、緑の全属性魔法が鎖魔法の合間に出現する。それは既にいつでも発射できる状態にあった。


『爆風放射』『蒼龍具現』『雷神鉄槌』『土偶結界』『烈風焦土』


 赤の魔法陣から高熱度の火炎が吹き荒れる。

 青の魔法陣から噴水のように水が噴き出し、それが龍の姿に形を変える。ルナさんが前に使用した『水龍源散』の上位互換に当たる超級でもの魔法だ。

 黄色の魔法陣から電気を纏った魔人ほどの大きさのあるハンマーが現れる。

 茶色の魔法陣は魔人の囚われる地面に展開され、土で固められた立方体の壁が巨体を一瞬にして包み込み、その壁の中で何かが爆発する音と、切り刻む音が聞こえた。


「これが僕の得意魔法、複数陣展開だよ!」


 屈託のない笑顔でこちらを振り向き、サムズアップするリハン。

 俺は正直この人が人類だとは思えない。もしかしてリハンは魔人なのかと思うほどだ。


 基本魔法の二段展開は難しい。

 国お抱えの魔法使いがやっとできる程度で、三段展開なんて尚更だ。しかしうちの父は全属性の同時展開をいとも簡単に成功させている。それに全て超級の大魔法だときた。


「わしらの出番なかったな……」


「そうだね。」


 苦笑しながらヒルシスさんは担いでいた剣を手元から消滅させる。

 剣から出た光の粒とともに、『土偶結界』がゆっくりと地面に落ちていく。完全に結界が地面へ落ちたと同時に結界が晴れた。


「ヤハーナ!位置はわかるかい!?」


「右胸です!微かに魔力が!」


 リハンが叫ぶと、奥の方で鎖の展開補助をしていたヤハーナさんが体の一部を伝える。


「よし、最後の出番だテルマッド!あいつの右胸にロザリーがいる!助けてこい!」


「な、え!?」


 煙が晴れると再び魔人の姿が露わになった。

 ところどころの皮膚が破損し、その部分を修復しようとしているが全く間に合っていない。

 視線を右胸に向けると、小さな眠った少女が見えた。


「テル坊、頼んだぞっ!!」


 バッガスさんが大声で叫ぶ。

 バッガスさんは鎖を展開しているため動けない。俺のことを信頼して、大事な娘を頼んだのだ。

 その思い無駄にできるわけがない。


「ヒルシスさん俺をあそこの少女に向かって投げてくれないか!?」


 こちらを一瞥したヒルシスさんは大きく頷き、俺を抱きかかえる。

 砲丸投げの要領でぐるりと一周回ると、俺を豪速球で投げ飛ばす。一応風除けの結界を張っているが、音はそのまま聞こえているので恐怖感は否めない。


「うおおおおおおおお!!」


 ついに俺はそこへ着弾した。

 衝撃のこととか全く考えていなかったが、第七師団長の無属性魔法使いバーリアさんが衝撃軽減を使用してくれたみたいで、無事ロザリーの真横に着地する。


 魔人の体表は常にドロドロとしたものが流れており、ロザリーは大丈夫かと心配していたが、ちょうど上半身だけ表皮から出ていたので、大丈夫そうだ。

 が、下半身は完璧に埋まっている状態。どうして助け出そうか。

 俺の魔法では火力が足りないし、引っ張ろうにもビクともしない。


「いや、待てよ。」


 この方法なら、連絡は取れずともできるかもしれない。というか、魔力が回復している今やるしかない!ホワイトアプリをくれたアンジュに感謝だ。


『獣神召喚』


 先ほどと同じ詠唱を素早く済ませ、獣神……ヒルシスさんを召喚する。魔法陣から強い光が煌々と照らし出され、立っていたのは一人の英雄だった。


「おお、こんな使い方もあったのか!それで何用だ?」


「そうなんだよ!一か八かだったけど。あ、あと彼女を助けてあげて欲しいんだ。」


 どこにも彼をここに呼び出すことは無理そうだったし、この高さから俺の声が届くことはないだろうから賭けに出てみた。

 見事に俺の勝ちだったようだ。


「この子がロザリーか?可愛らしい子ではないか。よし、主のためとあらばこの汚い装甲剥がしてやろう」


 再び剣が右手に出現する。先ほど出していたものよりは短いが、その分短い刀身に相当の魔力が籠っているようだ。強い魔力をキリキリと感じる。

 そしてそれをヒルシスさんは迷いもなく、縦に振り下ろした。

 ロザリーの体に合わせて、丸く魔人から彼女が切り離された。こんな簡単に切れるんだったら、初めっからヒルシスさんも戦っていればよかったんじゃ……。


「おい、小僧。さっさとずらかったほうがいいかもしれん。リハンの次の魔法が来そうだからな。」


 下をちらりと見おろすと、右手から鎖を放出し、左手でまた別の魔法陣が起動されていた。

 その大きさからして確実に超級、いや、それを超えるものだろう。


「じゃあ、ロザリーを頼んでいいかな。」


 俺は最後に残った魔力をありったけ使ってまた『獣神召喚』を行う。この魔法はどうやら可視範囲にどこでも魔法陣を展開できるみたいで、リハンの真後ろに召喚を行う。

 よく見ると、召喚が無事成功したようで、ロザリーの帰還にバッガスさんは手を上げて喜んでいた。


「ングゴォォオオオ!」


 魔人がどうやら、動き始めたようだ。先ほどよりも確実に鎖の強度は落ち、魔人は治癒能力で傷も、体力も復活したらしい。もうここで決着をつけるしかないだろう。

 運良く出っ張りのあるところにあれは倒れこんだ。完璧に魔力が空になったのだ。


 意識はあるが、体は動かない。動けとしてこの距離から飛べばまあ間違いなく死ぬ。

 衝撃軽減もそんなに有能な魔法ではない。ある程度の高さから落ちれば死ぬし、使用する魔力量も多い。


 最後にロザリーを助けられてよかったと思う。

 きっとリハンはあの左手で展開した魔法を使うだろう。ここで決着をつけねばまた凶暴な魔人となり、何歴も変わってしまう厄災になる。

 ヒルシスさんを道連れにできなかったのは悔しいが。


 小さく目を開いて下を見ると、どでかい魔法陣が完成していた。色は紫、魔力量は未知数。みたことのない美しい魔法陣だ。

 俺を殺すのは親として辛いが、死ぬ俺はもっと辛いはずだ。まあ、一度死ねば死の価値観だって違う。

 生まれ変わってもなんとかなるさ。


「なんで、泣いたんだか……」


 リハン、アンジュ、ヤハーナさん、バッガスさん、エルさんウィンター、ロザリー、ヒルシスさん。

 もっとみんなといたかったよ。

 もうすぐリンダさん、あなたの元へ向かう。


「へっ!?」


 俺は身がふわっと空いた。

 一瞬死んだのか?と思ったりもしたが、違うみたいだった。

 また誰かに抱きかかえられていたのだ。


「小僧ってアホか?私ぐらいになればあの程度のカバーなんぞ余裕で登れるぞ?」


 わっははと豪快に笑いながら、風を切って落下していく。そのまま地面に着地した。衝撃軽減も使っていない生身であの高さから落下したのだ。獣人ってすごいんだね。僕の感動を返してね。


『創傷滅造』


 俺たちが着地した瞬間、背後でグニャリとした魔力が行使された。

 少し間が空き衝撃波が起こった。俺はヒルシスさんとともに吹っ飛んだ。綺麗に着地したが、少々心臓に悪かった。

 リハンは一体何をしたんだろうか?


「え、消えてる……?」


 魔人が拘束されていた場所はぽっかりと穴ができ、地面が綺麗に抉れてしまっている。

 衝撃波によって飛ばされなかったのか、リハンが魔法を行使した場所でこちらにVサインを飛ばして来た。

 見せたのはまた屈託のない笑顔だった。



 ☆☆☆☆



 リハンが行使した魔法は無属性の禁忌魔法らしく、エルストリア家にいた時書庫から勝手に持ち出して覚えたらしい。

『才』についてもよくわからなかったが、とりあえずすごく賢くなるらしいとのこと。リハンはまだまだ謎だ。


「死にそうになったらいつでも呼ぶのよ?死んだら殺すからね!」


「あはは……かあさんはいつも物騒なんだよ。あと死んでるのに殺されるってどれだけ不幸なんだよ俺。」


 ピリーの息子たちには行方不明とリハンが伝えたらしい。結局リハンのあの魔法は『殺す』とは違うらしいので、いつか本当のことを伝えてあげるらしい。


「いつでも帰ってきなよ。僕たち家族でしょ?」


「当たり前だよ、父さん!」


 ケリーたちは十分反省しているらしく、リハンの信用できるものが当分見張ったのち、月光蝶を追放するらしい。

 まぁ、反逆したにもかかわらず命まで奪われなかったのは幸運だったと思う。


「ほんとーにありがとな、テル坊!」


「ありがとう、テルマッド……ぐすっ」


 そして俺は今、ウォール街と街道の境に馬車を待っていた。

 闘技場の結果、ケリーが戦えなかったため不戦勝となった。不戦勝という形で俺の出村が決まったが、結局ケリーとガチの殺し合いをしたため、お得感はゼロだ。


「小僧、馬車が来たぞ。」


 後ろから馬の地を蹴る音が聞こえる。なんやかんや、ヒルシスさんも付いてきてくれるらしい。召喚したら戻せるはずだと、ヒルシスさんに聞くと、一言「無理だな」と返された。

 頼り甲斐はあるが、波乱万丈になることは間違いない。


「じゃ、みんな元気で!……ん?」


「おーい!おーい!」


 馬車の段差に足をかけ、馬車の蹄がまた鳴り出した時、森から二人の人影が叫んで走ってきた。

 良く目を凝らし、それが誰かに気づいた。


「ウィンターとテルマンゴさん!」


「はぁっ、はぁっ!ありがとー!」


「ありがとな、坊主!!」


 思いっきり、手を振り返す。

 テルマンゴさんもウィンターもなんやかんや七年もこの村にいた。

 ウィンターは鍛冶屋のおっさんに鍛冶師の称号をもらい、二人で武器や錬金をしていた。テルマンゴさんは第三師団の一番下っ端として頑張っている。


「小僧、泣いとるのか?あぁ、あの小人少女が恋しいのか?」


「なんで感動のシーンに水差すの!」


 馬車の車輪はカラカラ回る。

 俺の冒険はまだ一歩進んだばかりだ。




 目指すのは『月光蝶』に次ぐ兄弟盗賊団。

 この大陸の平和と均衡を保つのはある非正規団体。

 やり手口は非道から外道まで様々な中、彼らは新大陸の抑止力となる。





ここまでお付き合いありがとうございました。

冒険はここからだ!みたいな感じで終わってますが、続きません(笑)


なかなかアクセスも伸びない中エタらずに来れたのは読者の皆様のブックマークや、評価のおかげでした。


また次の作品で皆様と出会えることを祈っています!



※4/27追記


別連載始めました。

ゆっくりペースで連載してます。


〜ハーレムってなんですか?楽園ってどこですか?〜


http://ncode.syosetu.com/n3072dy/



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