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獣神

 

「どうして君は……。」


「普通に話せると?」


 ニヤニヤとしながら近づいてきたのはピリー家三男であるケリー君だ。

 右手には長い等身のスピア。可愛らしいタキシードを着ているが、その裏は何を考えているかわからない。


「だってほら、僕って強いだろ?それであいつらはゴミ。それだけじゃないか。」


「お、おまえっ!」


 兄弟なんじゃないのか?

 血が繋がって、その年まで一緒に成長して、お互いに競い合ってきた仲間じゃないのか?


「父さん、ピリーが逃げました。俺を置いてあいつを追いかけてください。」


「なっ!できるわけないだろ!?それこそアンジュに殺される!」


 必死になって俺を説得するリハン。

 確かに俺を置いていけばアンジュにボコボコにされてしまう。


「大丈夫だよ父さん。大丈夫、俺に任せて。」


 こうしている間にピリーの姿は既に見えない。

 彼を逃してはまた討伐隊がこの地に赴き、戦闘になるだろう。

 それではまた犠牲が出てしまう。


「本当に大丈夫なんだね?」


 最後に俺に確認すると、その目はうるうると今にも泣きそうになっている。

 それに俺はつい笑ってしまう。俺は死ぬ気もないし、負ける気もない。


「おうおう、父にも見捨てられて残念だなぁ?テルマッド君?」


 気づけばリハンはもういなかった。

 やっぱりあの人、俺の全力より余裕で早いな。

 ここで自信を奪われるとは……。


「それは君もでしょケリー君?」


「質問を質問で返すとは礼儀がなってないと思わない?」


 言い終わるとすぐに魔法を展開してくる。

 火で包まれた弾丸が散弾のように発射される。

 それを『水壁』で防ぐ。しかし、火のとれた鉄の塊が突き抜けてこちらを襲ってきた。


「それっ!」


「ぐっ!」


 そのままスピアを使い、自ら『水壁』を壊して『強火球』を連射する。

 それを激雷の剣で落とすが、最後の一発を落とした時に消滅する。


「逃さない!」


 距離を置こうと電光強化で方向転換し、結界の端へと後退するが、『強電撃』の魔法で追撃される。

 それを『投岩』で相殺する。


「やっぱ強いねえ!楽しいわ!」


 純粋に楽しんでいる様子ではしゃぐケリーを見ているとさらに腹立たしくなってくる。

 俺にも妹がいる。絶対にあんな言い方をしないし、されないと思う。


「きっと彼らにもダメなとこはあると思うし、ケリー君が気に入らないこともあると思う。」


 何を言っているのかさっぱりという顔をしているケリーに続けて言いたてる。


「それでも、君たちは家族だ!家族は仲間だよ!君は本当にルピー君や、ベリー君のことをそういう風に思ってたの?」


「ぐっ!うるさいうるさいうるさい!」


 これまでにない魔力を解放するケリーに少し俺は体がざわつく。魔力が高濃度過ぎる。

 しかし、俺は彼にできた一瞬の影を見逃さなかった。


「俺はオヤジに頼って欲しくて、信じて欲しくて……クソクソクソクソ!殺す、お前が俺を狂わせたんだ!殺す殺す!」


『雷霆神の伝説器』


「かゆいねっ!」


 高速で接近するケリーに高火力の魔法をぶつける。

 それが周りに黒煙を浮かばせるが、その中から飛び出て『強水槍』を連続で発車する。


『土砲撃』


 土属性中級の攻撃魔法で慎重に全て落としていく。

 徐々に早くなってくる感覚に俺の魔力はごりごりと削られてきていた。


「あっ!」


 余計なことを考えていて俺は一つ砲撃を撃ち漏れた。

 それが肩に被弾する。


「やっと一発ぅ〜」


 さらにスピアで何連もの突きを繰り出し、俺は体のありとあらゆる場所から黒い血が噴出する。

 致命傷の攻撃をなんとか避けながら魔法を展開する。


『爆発』


 ケリーと俺の間に小規模の爆発を起こす。ケリーは魔力を察してか、寸前で攻撃をやめ、身を外に投げ出したが俺はそのまま爆風に身を任せた。


「なんだい、それは自爆かい?やめてくれよね、そんな面白くないこと。」


 戦いが面白いだって?

 今のは自爆でもなんでもない。ただ間合いを計ろうとしただけで直接ダメージは入っていないのだ。


「ケリー、君の父は何をしようとしてたんだい?」


「オヤジ?……んー、冥土の土産に教えてやろうか?」


 ケリーは攻撃の手をやめ、腕を組んだ。

 油断はできないがとりあえずは待っておいてくれるということだろう。


「オヤジはなあ?おまえのオヤジなんかと比べて随分立派な人だよ。知ってたか?オヤジは月光蝶でもかなり古参の団員でずっとこの団を取ろうと謀ってたのさ。ま、途中でリハンにバレて壊滅してやろうってなったんだけどな。」


 だから、外に出ると王国騎士が待ち伏せしていたのか。

 それにわざと団地に引っかかるような場所に潜んで……。



「本当にリハンってのは盗賊らしくねぇ、ちっさい奴だよな?オヤジが恐れる力を持ってんだから堂々と盗賊らしくしろってんだよ。だから乗っ取ってやろうと思ったのさ、このゴミ溜めをな!」



「おまえ吐き気しねえの?みんなで仲良くお勉強ですヨォ〜とか、みんなでチャンバラして一位を決めましょうネェ〜とか……よくやってられんな、そんなこと!いいか、あくまでお前らは盗賊なんだよ!社会のゴミなんだよ、ゴミはゴミらしくしとけよ!」


「ケリー、君は間違ってるし、合ってるよ。僕たちは正義じゃなくて悪だ。けど、家族だ。みんなでみんなを守るんだよ。だって、社会から捨てられた僕らはそうやって守っていくしかないんだよ。」


 仲間ができて信頼ができる。信頼があるからまた仲間が増える。そうやって積み重ねて、ようやく作り上げたここをゴミ溜めだって?

 僕たちは好きで盗賊をやってるわけじゃないのに、社会から疎外されて、唯一頼ってこれる場所なのに。


「僕らは悪だけど君らはその悪の悪だよ……。」


「その、正義感がいらねえってんだよォォオオ!」


 突然俺の周りの地面が異様に隆起する。

 すぐに八本の塔となり、特化した部分が俺に向く。

 それが高速回転を始め、身動きが取れなくなる。一歩でも動けば回転するドリルが俺の皮膚を抉るだろう。


「盗賊は盗賊らしく、罠を使って人を殺して奪うんだよナァ!?」


「そうだね、僕らは悪だ。だから、悪なりに善の戦い方をするよ。」


 ポケットに入れていた白色の果実、ホワイトアプリを一口でかみ砕く。甘酸っぱくて体に何かが満たすような感覚だった。


『獣神召喚』


「っんダァ!?」


 高魔力の土の槍を全て破壊し、神々しいほどの光が結界内をつつむ。

 その光は暖かく、太陽の光を格段に超えたように感じた。


「くそ、目くらましか!だがな、お前の隠しきれていない魔力で位置がわかるんだよ!」


氷結(アイスクラッシュ)』の魔法をかなりの大きさで放つケリー。その速度は見かけによらずかなり早い。かなり魔力を消費してしまったので、めまいがする。これでは避けれない。


「よし、召喚される前に死んだな!」


 氷が大きく弾けるような音がした。


 薄っすらと目を開ける。

 長い(たてがみ)に黄色の体毛。鍛え上げられた背筋や、足の筋肉で一目で獣人族だと理解する。


「よ、よかった……死ぬかと思ったよ」


「ん?小僧、もしかして小僧……わしのこと召喚した?」


 ガバッと振り向いたその顔はかなり渋く、ダンディという感じだ。ふっさりと鼻の下に生えた濃いヒゲがなんとも言えない強キャラ感が出ている。


「なあ、聞いてる?もしかして次の契約者って小僧?」


 ゆっくりと首を縦に動かす。

 な、なんだこの人……本当に獣神と呼ばれる存在なのか?それにしては言葉遣いも軽い感じだし。


「それマジ?そっか、俺ももうガキに召喚されるのかあ。これも時代を感じるよな?」


「そ、そうっすね」


 いや、待て。普通に返事してたぞ俺!

 こんな大事な場面で本当に獣神かわからない相手に少し気を許しすぎたか!

 俺はおっさん越しにケリーを見る。


「くっそぉぉおおっ!俺の魔法をくらっておいて無傷だと!?いい加減にしろよ、獣人のくせに!お前らは一生人間の奴隷でいいんだろうがっ!」


 スピアを投げ捨て、俊足でモジャモジャのおっさんに駆け寄る。現れたのは炎に包まれた大剣。技付より斬属性が少なくなるが、炎の属性攻撃に優れたものだ。

 それにいくらなんでもあの剣は避けたほうがいい気がする。


「おっさん、避けなきゃ……」


「ていうか、今こいつ……わしらの、獣人族のことバカにしたよな?」


「ごぼっ!」


 剣が振り切られる前におっさんの右足がケリーの腹に直撃する。

 バネで弾かれたようにケリーは向こう側の結界にぶつかった。

 ケリーはそのまま倒れたが、血が辺り一帯を埋める。


「お、おい大丈夫か!」


 近づいて首の動脈を計る。

 まだ心臓は動いてるな。しかし、意識はない。まさに半殺しだ。


「あ、しんどらん?なかなか強固なやつだな。2割も出してないが。」


 ふんと鼻で笑い、仁王立ちするおっさん。

 まじまじと見ると本当にデカイ。全裸ではなく、布ようなものを体にかけており、全裸じゃないとは言えど全裸に近い。


「たしか、ええと、獣神さんですか?」


 獣神という名を聞いた途端、おっさんがむっとしてこちらに鋭い視線をおくる。


「なん?わしあんまりその呼び名好きじゃねえんだけど。」


 え、それじゃあ本名で呼べということか。

 でもいいのか、こんなすごい人を呼び捨てで呼んでしまって……。


「えと、ヒルシス・アーカイブスさん?」


「おほう!それだそれだ!」


 急に表情が柔らかくなるヒルシスさん。柔らかくなっても顔面は怖いままだが。


「いやあ、孫ができたみたいでいいのう!死ぬ前は三十人ほどいたがな!」


 だはははと笑うヒルシスさん。

 別に今は彼の性欲自慢を聞きたいわけじゃないんだけど。


「ヒルシス・アーカイブスさん、ここから出る手段ってありますか?」


「ヒルシスでいいぞ。どれ……ありゃ、絶命結界か。」


 どうしてそんなことがわかるんだろうか。

 なにか、普通の結界と違いがあるのはわかるが、見た目では判断できない。

 それに早くケリーを治療しないと。


「絶命結界は誓約が決められてるはずだが……ふむ。小僧、少し頭を覗こう。」


 トンと頭に触れられ、何か来るのかと思い目を瞑るが、特になんの衝撃もなくその手を離した。

 その顔は少しにやけている。


「むっふっふ、テルマッドと言うんだな。おぬし、女を助けにきたのか?」


「なっ、呆れました。っていうかそんなことまでわかるんですか!」


 うんと頷き、手を握ってケリーの上に立つ。

 それは殺気が混ざっていた。向けられていないとはいえ、横にいる俺まで震えてくる。


「こいつを殺せば全て解決ということもな……」


 豪速の鉄拳が意識のないケリーに飛ぶ。

 俺の体は意外とすぐに動いた。彼には殺されないと頭の中で感じたからかもしれない。

 ケリーの前に俺は両手を合わせて立った。


「ふむ、なるほど察したぞ!」


  ふぅ、よかった。

 とりあえず、ケリーの命を奪って結界を崩落させることは諦めてくれたみたいだ。


「できるだけ綺麗な姿で埋葬してやりたいもんな。」


「いや、なにしてんのー!!」


 首を持ち、ケリーを上にあげるヒルシスさん。

 本当に彼は書に書いていた通りの英雄なんだろうか。これもしかしてパチモンじゃ……。





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