追試
「なっ、自分の息子を盾にする気ですか!?」
展開された魔法陣から見慣れた少年が出てくる。
左に立つのは一回戦で俺と戦ったルピー君だ。あんなに元気だった脳筋も今ではすっかり眼から光を失くしている。
右手に立つのは長男のベリー君だ。
彼もルピー君同様、眼に色がない。あの時の優しさはもうなかった。
「ぐははっ!笑わせるなよクソ聖職者。こいつらは使えないゴミだ。ゴミで身を守って何が悪い?」
「こんのクソがァ!」
「ひとでなし!」
「かあさん、俺たちが彼らを救ってあげよう!」
そういうと、二人の少年が俺たちに向かってくる。
ルピーは闘技場でも使っていた大斧を地面に擦らせながら走る。
「はやいっ!!」
闘技場では全く出なかった速度。
人では出せないものだ。俺は激雷の剣で受け止めるのが精一杯。当たると同時に魔力の剣も爆散した。
「腕力もあがってるのか……。」
「身体能力が全般上昇しているようね。」
俺が怯んで転んだところを追撃されたが、アンジュがルピーを吹き飛ばす。
母さんの言った通り、すばやさも腕力も俺が戦った時よりも段違いの強さだ。
この調子だと後方で魔法を詠唱しているベリーも相当手練れなはず。
ルピーもすでに立ち上がり、またこちらに斧を振り上げていた。
『流星群』
教会地下の天井に5つの魔法陣が展開される。
そしてベリーが手を振り下ろすと、そこから大量の岩石が飛び出す。一発が九師団の団員に防御していた剣ごと直撃する。
「だ、大丈夫ですかッ!!」
エルさんがすぐさま救援に向かうが、かなりの出血だ。
『流星群』により、我々を威嚇したベリーは腰に当てていた直剣で斬りかかる。
その動きはかなり俊敏で、破壊力もルピーほどの威力がないものの、魔物ぐらいであれば瞬殺しそうなパワーだ。
「かあさん、あいつ逃げようとしてる!」
団員のみんなは流星群を避けつつ、ルピーの大振りに細心の注意を払う。
ルピーがある地点には全く石が落ちてこないので、ベリーが近距離で戦いながら『流星群』の制御をしているんだろう。
皆、近くの方に目が行きすぎて周りが全く見えていなかったのだ。
俺の場合は少し違う。第二師団の人たちが全力で守ってくれているのだ。
正直周りを見ることぐらいしかできない。
役に立ってないじゃない?
いや、ちゃんと皆さんの周囲に気を配って、「あぶない!」とか「横から来てます!」って指揮してるんです。
「あっ!リハンがいてくれたら!」
アンジュも奥の扉から慌てて出て行くピリーの様子をみて、ようやく気付いたようだ。
あのアンジュでさえ、気づかない量の流星が飛来して来ているのだ。
「「「うおおおおお!!」」」
逃げた扉から流れるように新たな兵士が参戦する。
みな、傭兵のようだが、数が異常に多い。
流星がそれに合わせたように降り止んだ。
「くっ!圧倒的に人が足りなさすぎる!」
エルさんが敵を溶かしながら苦痛の声を漏らす。
九、十師団の人達も徐々にその数が減らされて来ているようだ。
これはもう……
「かあさん、俺が行くよ。」
「ななな、なにいってるの!?」
俺の提案に驚愕の顔を浮かべるアンジュ。
一番可能性があって、欠員しても大丈夫なのは俺なんだけど。
「ダメダメダメ!絶対ダメよ、テルマッド!」
「でも、そんなこといってたら逃げられちゃうよ!」
目が真っ赤に充血したアンジュが二人の傭兵の頭を足で吹っ飛ばして俺に言う。
既に傭兵の数は半数ほどに減っている。逃げ出したり、殺されたりとその末路は色々だ。
既にケリーの姿は見えない。
早く追いかけなければ、逃してしまう。
どこかで再編成し、また脅威になる可能性もある。
「くそっ!あいつらが邪魔だ!」
残りの半数も他の団員たちは手こずっていた。
残ったものは元第五師団ということもあり、傭兵の動きにもよく合わせて、生存力を高めている。
「くっ、逃げてしまいます!」
エルさんがまた二人の敵を溶かす。
「かあさん!もう俺が行くしかないよ!」
「テルを一人で行かせるわけにいかないわ!腐ってもうちの第五師団団長よ!?いくらあなたが戦えるからって……なに!?」
アンジュが話している途中、俺たちが入ってきたドアから爆音が鳴り響いた。
俺たちも、敵の傭兵や師団のものも皆そちらに目を向けた。
「やあ、遅くなってごめんね。」
そこにはうちの父さんがにこやかに立っていた。
☆☆☆☆
「り、リハン!!遅かったじゃない!」
アンジュがリハンの元へと豪速で走る。
それを止めようと幾人かの傭兵が武器を持って立ち塞がるが、頭を抑えられて彼らを颯爽と飛び越えた。
「おお、アンジュ。テルマッドをありがとう。」
「いいのよ〜!えへへ」
なんだこの人……俺の前では全くデレがなかったのに、子供に親の威厳を保つためとかかな。
それだったら俺完全に空気、
「アンジュ、テルマッドのことなんだけど」
「へっ!?テルいたんだった!」
手に顔を当て、耳まで赤くなる母さん。
それを見て笑いながら頭をトントンする父さん。
それを遠くから見守る俺たちと傭兵組。
「俺達何見させられてるんですかね。」
「溶ければいいのにね。」
エルさんこわいよ!
「あのね、アンジュ。テルマッド行かせてあげない?」
突然の父の提案に驚くアンジュと俺。
急な父さんの乱入とその発言に俺が耳を疑う。
「ななな、何いってるの!?危険よ、危険すぎるわ!今ですら危なかったんだから!」
それに父は一呼吸おき、そっとアンジュの肩に手を添えた。
「大丈夫だよ、アンジュ。テルも立派な大人だよ。それに今回だけは、僕もついて行くから。」
「そ、そんな……でもいいの?」
「ここは君一人でどうにかできるだろう?月の人たちも上に二人、こっちに二人置いとくから。」
「わかった。とりあえずピリー家の息子達は私が強制捕縛するからいいわね?」
そう言うとアンジュが頷き、すぐさまエルさん達に指示を出す。
そういえばいつか言っていたが、リハンは貴族切手の脳筋で、部隊の配置とか団の運営とかさっぱりらしい。
よく団長とかできてるな。
「じゃ、行こうかテルマッド。」
「うん……。」
「テルマッド!これ持って行きなさい!」
扉に向かおうとした時、アンジュが何か真っ白な物を投げてきた。
慌ててキャッチするとガジャの実とよく似た果実だった。
「それはホワイトアプリよ!魔力が切れそうになったら使いなさい!」
「ありがとっ!!」
俺たちが向かうケリーが出た扉の前には第五師団が堅い守りを徹している。
九師団が俺たちの道を開けようと前では奮闘してくれているが、結果はあまり芳しくない。
「く、くそ!団長がきたぞ!」
「やべえやべえやべえ!」
「死にたくない死にたくない死にたくない……」
「う、うわぁああああ!」
父の顔を見た瞬間震え上がる第五師団の人達。
逃げ出す人もいる。
しかし逃げ出す場所は2つしかない。
ルピーが逃げた扉か、俺たちが突入してきた扉か。
彼らは何故か遠い方の扉を選択したようだ。
一人に密集し、お互いに支援魔法をかけて一気に走り抜ける。
向こうに着く頃には半数ぐらい数が減っていたが、無事に扉から上へと上っていた。
「ほっといて大丈夫なの?」
「うん、上にはバッガスと第七師団長のバーリアも見張っててくれてるし。」
第七師団とは無属性魔法を扱う師団だったはずだ。どの属性にも属さず、特殊な魔法を操ることができる集団だと聞いたことがある。
バッガスさんは娘のことを父に任せて、上で待機している。
それは半端ない信頼関係からくるもので、ただの部下と上司ではないことは部下も上司もいなかった俺でも
わかる。
「上にはバラガ先生もいるから……」
父は信頼を与えることで信頼を得てきたのだろう。
その信頼を与えた部下から裏切られるとはどんな気分なんだろうか。
「父さん、僕たちで捕まえてロザリーを助け出そう!」
「もちろんだよ」
横目でリハンを見ながら、俺はもう一度確認する。
屈託のない笑顔は月光蝶のみんなからもらった大切なものなんだろう。だから彼はそれを容易には捨てないし、拾ったりもしない。
これが強い男なんだと改めて思った。
☆☆☆☆
「あら、もう追いついてしまったのね?」
扉から出て数分走ると森のような場所に出た。
それまではずっと同じ通路だったので、目が一瞬追いつかなかった。
俺たちが出たところは妙に円状に木が取り囲み、前に立つ豪勢なドレスを着た女性とでっぷりと太った男が抱えていた可愛らしい少女との立ち絵もまたおかしかった。
「ロザリー!!」
「哀れな男リハンよ。お主はとても優しいガキだった。」
「そうですね、ルピーさん。あなたも盗賊退治などすっかりお優しくなられた。」
木々の茂みから王都の鎧を着た兵士がぞろぞろと湧き出てくる。
皆一級品の剣を携えている。
リハンがすぐさまルピーと騎士団に飛び出した。本当に目に見えない速度だ。
ただ俺は残像を追うしかない。ルピーはリハンの攻撃する場所に防御魔法を厚く展開し、身を守っている。
一斉に騎士団も斬りかかる。
騎士団のみを残滅し、無力化された体を見たリハンはこちらに戻り、魔力を宙に展開させた。
魔法陣からゆっくりと現れたのは身長ほどもある長剣。それに篭った魔力は未知数に多い。
「がははははっ!それを出すと思っていたよ!だがね、私もそれの対策はしっかりしているんだ。」
「なっ!」
言い終わると同時に持っていた短剣でドレスの女の胸を突き刺した。
真紅の液体が飛び散り、彼女の口から血飛沫が水たまりを作る。
「自分の嫁を殺すなんて……トチ狂ったか?」
リハンがこぼす。
しかし、俺は違うような気がしていた。下を向いているが、カミラは笑っていた。
確かに笑っていたのだ。
「父さん、あぶない!」
俺は電光強化でかなりの距離を吹き飛ばす。
俺から手がかかると思っていなかったのか、そのまま木の茂みまで飛ぶ。
『絶命結界』
その瞬間白い塊が高速でこちらに接近し、俺の真上で展開した。
ヌルヌルと俺の半径何メートルかを包み込み、完全に多い被された。
「て、テルマッド!!」
ダンダンと白く透明な壁を叩くリハン。
俺も状況に冷静になり始め、焦ってくる。
「どうしよう、父さん!」
きっと父ならなんとかしてくれる。
そう思って、見上げるとリハンは苦痛の表情を見せた。
「すまないテルマッド。命を張られた結界は僕でも破壊できない。」
「な、なんだって!」
ってことはつまり、俺は一生このままここで一人ということで、栄養を摂ることはできないからつまり、死ぬということ……か?
「落ち着け、テルマッド!絶命結界は必ず契約によって形成されるものだ。きっと、対象者がいる、はず?」
リハンが視線を向け、固まる。
俺も恐る恐るそちらに目を向ける。
そこには一人の小さな少年が立っていた。
「ケリー君……?」
「やあ、テルマッド君。」
今、なくなったはずの決勝戦が始まろうとしていた。
最終話が出来上がりました。




