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地下室

 

「クソ!やはり表は囮だったか!」


 一番身なりのいい男の顔がアンジュ達、第二師団とエルさん率いる第六師団を目の当たりにし、明らかに歪んだ。

 教会の中はかなり広く、長椅子が何個も並んでいる。

 いくつかのイスは横にされており、それを盾にして表の第四師団編入部隊と戦っている。


「裏だ!裏も守れ!表にバラガがいたから裏はないと思っていたが、打算だったか。」


 でかい声で指示を出した男は自らも剣を抜いた。抜いた瞬間空気が変わる。この男はかなり強い。

 しかしこちらはもっと規格外である。


「やあ、リールラル君。また物騒な剣だね?」


 大きく歩を進めたのは第六師団団長エルである。杖で一歩一歩歩きながらリールラルと呼ばれた男に近づく。

 リールラルの周りを彼の部下四人がすぐさま囲った。

 しかし、その部下達を手で引かせる。


「お前達では勝てるわけがない。敵にアンジュがいる今私が一人で相手するのが一番いい。お前達は前へと援護に行け。」


「で、ですがっ!!」


「行け!!」


 さらに大きい声で怒鳴ったリールラルの顔を数秒見つめると、すぐにこちらを離脱し、表へと参戦した。

 これでリールラルを守るものは何もない。


「おや?いいんですか、あなた身一つになってしまいましたが?」


 首を傾げ、そう尋ねるエルさんにリールラルはそれを一蹴りして剣に魔力を纏わせる。

 現れたのは真っ赤な紅蓮。炎の技付(エンチャント)である。

 流れている魔力量はかなり大きく、こちらまでチリチリと焼ける熱さがある。


「ほう!それは素晴らしい!最初から全力というわけですね?」


「ぐ、お前なんぞこの剣一本で十分だよ!」


 ぐぐっと剣を握り、とてつもない速度で走り抜く。俺が気付けば既にエルさんへと剣は届いていた。

 エルさんは構えてはいない。

 ただ無傷でその剣を受け止めていた。


「だから、お前とだけは戦いたくなかったんだよ!」


 その剣を強引にエルさんから引き離し、異常な乱撃を加えていく。

 しっかりとその皮膚に刺さっているはずの場所からは一滴も血が流れず、ましてや、エルさんから笑顔が消えることはない。


「あははっ!単調だ、実に単調です。これが師団長と副師団長の差というわけですね〜?」


 果たして今の悪役とはどちらのことを言うのだろう。いや、既に盗賊団の一員の時点でどちらも悪なんだが、俺の目からするにその黒装束で、そのドS発言はあまりよろしくないかと……


「へへ、そうか!なら、師団長になって鍛錬をおろそかにした男と、師団長になろうともがき続けた男……どちらが強いか勝負だァ!」


 高速で接近するリールラルにエルさんは苦痛の表情を浮かべる。

 どうやら、彼でも相当の戦いになるらしい。

 剣と結界……それらが触れようとした瞬間、その隙間に爆風が起こった。


「リールラル、おぬしはわしの弟子じゃ。わしが目ぇ覚ましてやるからのぅ。」


 エルさんとリールラル。そのわずかな隙間にバラガさんは右手の剣でリールラルの剣を持ちこたえていた。

 左手は松葉杖を器用に操っている。

 ましてや、両足を失っているバラガさんは驚異的なバランス力でリールラルの力に対抗している。


「くそジジイがあっ!どうして俺の邪魔をする!」


「はて、わしの可愛い弟子だからだと言ったはずでは?」


 バラガさんがアンジュの方を向き、片方しかない目で合図する。

 どうやら、表を片付けた第九師団の人たちが床に何か見つけたようだった。


「あんたは俺を見捨てた!それが、ああ!?可愛い弟子だと!?ふざけてんじゃねえ!」


 第四師団員の人々がバラガさんの後手に回り、殺気を発する。

 さすがは第四師団。その力強さは底がない。彼らの古傷がどれだけ壮絶な経験をしたか物語っている。


「俺はあんたの一番弟子だったんだ。ずっと、変わらず、ずっとだ!しかしあんたは……俺を裏切った。」


 俺たち裏突入班はゆっくりと表側へ向かった。

 既に木のタイルに穴を開けられ、目視できる階段が現れていた。


「それはこっちのセリフじゃよ。なぁに、おぬしは心配せんでも一番弟子なんかじゃないわい。」


 先頭にエルさん率いる第六師団が先行する。

『聖域』という魔法で、真っ暗な階段の道を照らし、ある程度の飛び攻撃を無効化する。


「な、俺たちがあんたを師事していたとき、俺が一番強かったはずだ!」


「わし、そんなこと言った覚えないんじゃが。ま、教えてやるとおぬしはわし的に三番弟子くらいじゃな。」


 次に第九、第十師団の人たちが階段に足をかける。

 普通反対だろ、という無駄なツッコミはしない。

 多分、第四師団ってかなり脳筋なんだろうなあ。


 さ、次は俺たちの番だ。



 ☆☆☆☆



「じゃあ、一番目を言ってみろ!」


「一番目はリハン=コル=エルストリアかのう。やつは天才じゃて。」


 男は目を見開いた。

 そして、震えながら再び口を開く。


「だ、団長のことか?」


 その問いかけにバラガはゆっくりと頷く。

 リールラルはちっと舌打ちをし、大きく剣を構える。その剣には真っ赤な灼熱が渦巻いている。


「のう、リールラル。ここで提案なんじゃが、もう諦めはせんか?」


 リールラルの持つ手が少し震える。


「バカ言え、二番目でもねえ俺はあんたの提案なんて聞かねえよ!」


 彼が大きく右足を踏み出す。

 剣の炎が残像を残し、一直線にバラガへと到達する。

 首への一線。見切られ、反撃されれば自分の命が散る。


「提案なんじゃが……降伏する気はないかね?」


 しっかりと剣は受け止められていた。

 バラガは自らの剣でリールラルの剣を止めたのではない。無くした両足を支えている棒で受け止めたのだ。


「これは鍛治師のおっさんに作ってもらった特注じゃ。お前ごときの剣で折れることはなかろうて。」


 短く振られたバラガの剣がリールラルの頭へ走る。間一髪で受け止めたリールラルはそのまま受け流し、距離を置く。


(ぐぅ、重いな、クソがっ!)


 強い。


 リールラルは悟る。

 これは勝てない、いや、はなから月光蝶を相手に戦争を仕掛けるなんて無意味だったのだ。

 幾らかの団員を持たされ、団の中でも有数の力を所持してきたリールラルは誤解していたのだ。

 巻き込まれた我々は裏切り者のレッテルを貼られ、月光蝶を脱退、もしくは暗殺によっての口封じ。


「降参だよ、だいたい俺らがあんたらに勝てるわけがねえ。」


「随分と早いのう?まあ、いいわい。とりあえず拘束するから敵の人数を教えろ。」


 バラガが目つきが先ほどとは明らかに変わり、殺気を放出する。

 完全に拷問するときの眼だ。もちろんリールラルは反抗する気など毛頭ない。


「ボスはピリー師団長、そして家族の5人。副師団長以外の幹部全員だ。地下の道中罠なんてものはないはずだ。」



「ペラペラしゃべるのう?なんじゃ、未練などないか?」


 どっこらと腰を下ろして、バラガはリールラルに質問する。

 先程から剣がずっと右手にかかっているのが見えた。

 隙がない人だ。本当に……。


「……あ、ああ。もう未練なんてねえな……ぐっ!

だいたい盗賊だしな、俺。」


「第六師団の者!今すぐこやつを解呪してやってくれ!一分も持たん!」


 大声で叫ぶバラガの背中に弱々しくリールラルの右手が触れる。

 その目には光はない。ただ、手探りでバラガを探し当てたようだった。


「俺はもう死ぬ。多分口割の呪いだな……さっきから血が出て仕方ねえ。」


 バラガもリールラルと同じく、その呪いについて考えていた。

 対象者に秘密を教え、その秘密を他者に暴露した場合に発動される呪いの一種で、一応禁忌の呪術だ。

 もちろん、王家や、禁術指定した魔法師団体は乱用しているが。


「もう、喋るでない。キツイだろう。」


 呼吸の荒いリールラルに優しくバラガは伝える。

 しかし、リールラルは続ける。


「なあ、師匠。最後に教えてくれ。」


 目だけを向け、バラガは解呪の魔法陣を描いていく。


「あんたの二番弟子って?」


 解呪の手を止め、目を瞑ったバラガは小さく答えた。

 自らを支える棒に力が入っていた。


「テルマッド。リハンの息子じゃよ。」


 それを聞いたリールラルは声を出さずに笑い、ぼやける視界でバラガを探す。

 自らの剣を最後の力でバラガの胸にあてた。


「……あんたの弟子も楽しかったぜ。」







まあ、終わりといっても、結構あるんですけどね。

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