闘技場⑥
「もうすぐ準決勝始まっちゃうよ?」
「んえっ!?」
スワイプ先生から急に体を揺らされて、飛び起きる。
あれ、俺もしかして寝てたのか。
それとも……
「あ、勝手に本が閉じてる。」
俺が開ける前よりガッチガチに本が紐で固定されていた。
しかし、読み終わった直後からの記憶がない。
「君が急にぶっ倒れるからびっくりしたよ。大丈夫?」
スワイプ先生に大丈夫だと伝えて、重い体を上げると、部屋から出た。
外に出るとすでに試合が始まっているのか、時折戦闘音が響いている。
「やばいな。少し急ごう。」
駆け足でカーブ状の廊下を走りながら、あの魔伝史について思い出す。
確か、獣人族が伝えてきた英雄の魔法だ。
その名も『獣神召喚』。
なんと、過去の英雄であるヒルシス・アーカイブスを召喚する魔法らしい。
ヒルシスは魔人の出現する前の時代に獣人と人族の戦争を単騎で止めた脳筋戦士だ。
それを膨大な魔力を使い、この現代に召喚するらしい。
しかし、少し怖い点がある。
何故か一度だけしか読んだことのない詠唱が全て頭に入っているのだ。
魔法陣も必要魔力量も、詠唱時間も。本も紐が固すぎて開くことができない。
必要魔力量が俺のマックスレベルで必要なのだから、闘技場ではつかえないな。
「っと、着いた。」
足を止めると右手には控え室。
開けて中に入ると、既に絞られた人数の参加者たちが自分の番を今か今かと待ち望んでいた。
目がギンギンに光ってる……こええ。
「では、次の者。準備をしなさい。」
順番表を見る。
確か俺は第4試合だったはずだから……次じゃん!
「は、はい!」
「……はい」
呼びかけに応じたのは俺と背の高い男の人だ。
肉付きはよく、割と顔も整っており、見るからに強者の余裕が溢れている。
そう、彼がピリー家長男のベリー君だ。最年長組では最強。
さて、どんな人なんだろうか。
「今日はよろしくね、テルマッド君。」
「え、ああ、よろしくお願いします。」
な、なんだ?すごく優しい感じの人だ。
おおらかというか、全く強そうには見えないというか。なんだか、意外性がある。
俺たちの前では剣を持つ少年が何の武器も持たない少年に膝をついていた。
体から息をしている限り、かなり激しい戦闘だったんだろう。
だが、何も持たない少年は全く余裕そうな顔だった。
すぐさまこちらに向かって歩いてくる。
「頑張ってね、兄さん。」
ベリー君の肩に手を置いてにこやかにそう告げた少年は足早にロッカーの方へと向かう。
その間ベリー君は終始笑みだった。
どこか作られたものを感じてしまった。
「全くプレッシャーを与えてくるなあ、ケリーは。」
はははと微笑しながらベリー君は足を前に運んだ。
俺も遅れて前に出る。今のがケリー君か。
俺を何らかの理由で殺そうとする彼を放ってはおけない。
幸い、バッガスさんにロザリーがこのことを伝えているだろうから、大丈夫だとは思うが。
決勝戦は日をまたぐので、とりあえずこの試合に全力を出す。
俺は決心し、長剣を握った。
「構え、始めッ!!」
☆☆☆☆
長身のベリー君は、長剣を構えると一層様になった。サブには魔法使用のためか、杖を背中にかけている。一般的な装備選択だ。
しかし、15歳にして、前年の闘技場優勝者である風格はすぐに見て取れる。
どこにも隙がないぞ。
「よろしくね、テルマッド君。」
さらりと俺に言うが、こっちは隙探しに必死。
軽く電光強化をかけて、場の周りを走ってみる。
しかし、目がついてきているので、走るだけ無駄か。
かなりのスピードを出したつもりだったのに。
『電撃』
今度は遠距離攻撃。
視界の範囲内に、どこにでも落とすことのできる万能魔法だ。
さて、どう動く?
「ははっ、もうちょっとひねった攻撃をするかと思ったけれど。」
なっ、長剣で電撃を弾いたのか。
でも、あの剣はただの木製なはず。そんな器用なことできるわけがない。
「では、僕から。」
徐々にスピードを上げて迫ってくるベリー君。
スピードは俺より断然遅いが、体が恐怖に怯えている。圧倒的な力だ。
しっかりと俺の剣を握る。今はこいつしか頼りになるやつがいないからね。
『技付・雷』
長剣に技付をかけ、振り上げられたベリー君の剣に当てる。
技付は6歳ぐらいの時にテルマンゴさんから内緒で教わったものだ。
単純に威力アップと、属性の追加。
相手への畏怖、麻痺などの状態異常を引き起こせる。
つけておいて損はないものだ。
今まで使ってこなかったのは手の内を晒さないため。
先生方を驚かせるためだ。
「くっ!技付かい?また面白いことをするねえ」
俺は電光強化をした状態でベリー君に近づく。
ベリー君から剣が飛ぶ。
それを綺麗にこちらの剣で受け流し、回りながら横腹に蹴りを入れる。
「くはっ!」
やっと、1発入ったか!
無茶に攻撃を仕掛けにくいな。体術だし、あまり相手の体力を削れるわけでもないから厳しいな。
『爆弾』
ベリー君は背中の杖を取ると、真っ黒い岩のようなものを飛ばしてくる。
それは地面へ着地した瞬間、爆発した。
これは剣に当てて、受け流しても爆発してしまう。
ただ、避けるしかない。
正直、電光強化がかかっている今ならそう難しいことではない。
量もそこまで多くはないので、ただ闘技場を走る。
「よし!」
魔法が砂煙を多く立たせ、その中を駆けていると、背中がガラ空きになっていた。
ベリー君は魔法を当てることに集中している。
いける!
「おりゃあ!!」
電流の流れる長剣がベリー君の背中を襲う。
力も強く振ったので、闘技場の真ん中から端まで吹っ飛んだ。
急に隙ができた。さっきまでとは大違いだが。
「ぐはっ!」
その後も隙が多く、体に一撃を入れることが多くなった。
剣で競り合っても、ベリー君の力が弱まっていき、俺の長剣が体を捉える。
魔法の撃ち合いになっても、魔力量が俺の方が強く、量が多いので、ダメージが入る。
「くふっ。もういいかな」
どういうことだろう。
かなり憔悴し、息が上がっているベリー君は余裕そうな顔をした。
何か、あるのか?しかし後一撃で倒せそうだ。
ここは勇気を出して、攻めるべきだ!
『激雷の剣』
木剣を腰にかけ、眩しい閃光を放つ剣を発現させてベリー君の懐に入る。
これも余裕だった。剣を思いっきり振りかぶる。
「ぐがっ!」
叫び声が上がった。
肺だけでなく、体から空気が吐き出る。身体中の骨が粉々になったような感覚がした。
『激雷の剣』は消えている。
ぼやける視界に俺は彼を見た。
ベリー君だ。試合前と同じように微笑み、俺を下に見た。
「何か、教えてあげようか?君がなぜ、吹っ飛んだか。君がなぜ、戦闘不能になったのか。」
なにか、何か無いのか。
この状況を打破できる良策は!
後一撃、後たった一撃を決めることができれば!
「これはね、『因果応報』という能力さ。凄いだろう?受けたぶんのダメージを倍にして返す。それまでは色々と痛いけどね。」
しかし、一撃を入れることのできる筋力はもう無い。
それどころか剣も持つことができないだろう。激雷の剣を作ることはできるが……少し距離があって届きそうにない。
もう少し近づいてくれれば!
「もちろん最後は僕の剣で終わらせてあげよう。さあ、目をつぶって?少し痛いかもしれないけど。」
ベリー君は俺の方へと近づき、剣を大きく振り上げた。いつものように微笑みは崩さない。
だが、これなら、激雷の剣が当たる。
魔力を右手に集めて精一杯横振りする。
「ん?まだそんなに動けるの?」
「うぐっ!」
右手を木剣で、思いっきり殴られる。
すでに腕はパンパンに腫れ上がっており、左腕しかなくなった。
「よーし、これで終わりだね?」
ケリー君は頭の上から剣を大きく振りかぶった。
その威力はかなりのもので、余裕で気絶するだろう。
だが、利は俺にあったようだ。彼は欠点を犯した。
体の中心、つまり幹となる部分を魔力によって、軽く押さえることで体の軸は傾き、魔力に身を任せて、体をその方向へと流す。
それがスワイプ先生の得意技で、とっておきである。
そして、俺はそのとっておきをマスターしていた。
もちろん年月はかかったし、完璧なものではないが、ボコボコになった俺がボコボコになったケリー君を倒すぐらいのチカラは備わっていた。
「ハッ!」
「へっ?」
間抜けな声を出し、ケリー君は中に浮く。
魔力量には自信があった俺だからできた最後の足掻きだ。彼の油断と、運があってこそだった。
これでケリー君に起き上がられると、死んだな。
「そこまで!勝者、テルマッド!!」
「「「「「うおおおあ!!!」」」」」
ふぅ、なんとかなったなあ。
俺はゆっくりと目をつぶった。
あとは優勝するだけだ。幸い、1日あるし、ゆっくり寝よう。
そこで俺は意識を手放した。




