闘技場③
この世界に来手、すでに7年が経つ。
人というのはなぜかすぐ順応するもので、地球のアニメ文化に浸っていれば、その速度も早いのだろう。
家族は心配だが、俺が失踪したとなると妹も、母親の面倒を見に、郷へ帰ってくれるかもしれない。
俺は授業の一環でかなりの数の戦闘をこなしてきた。
もちろん事件もあったが、死にかけることは少なかった。
それは師匠方が付いていたからで、決して俺の実力でないこともわかっている。
平地、廃村、水辺、ゲリラ戦。
割とレパートリーのある近場の森で経験を積んだ。
もちろん魔物を全滅させるわけにはいかないので、実践する回数は少なかったが。
それほど場を7歳(仮)ながら踏んできた俺だが、やはりきちんとした公式の場で、手合わせをすることは非常に緊張することである。
「へへっ、さっきはどういう手を使ったのかしらねぇが、俺は負けねぇぞ。」
どういう理屈だよ。
「お願いします。」
俺は律儀にぺこりと頭を下げる。
相手の人がなんかニヤついてるんだけど……。
「始めッ!」
試合開始の合図が放たれた。
今回の相手はモビー君という13歳の子。
武器は短剣と……ありゃ、長剣しか持ってないぞ。
俺の一回戦の人を見て学習したのか、安易には近づいてこないモビー君。
短剣を右手に携え、周りを見回している。
全然くる気配がないんで俺から仕掛けてみる。
少しバックステップして、と。
『火球』
威力を少し高めにした中級火属性魔法だ。
破壊力は木を一本粉々にできるくらい。
速度はもともとないので、多分避けられると思うが。
「はぁん?なんだよ、その魔法。魔法を撃つ準備をさせてやったのに5歳でも使える魔法だと?」
なるほど。
俺は試されていたということか!なんだ、もっと高火力を打っておけばよかった。
でも彼は長剣一本で何をする気なんだろう。
軽々とジャンプして、俺の火球をかわしたモビー君は少し距離を俺ととった。
そして右手の長剣に左手をかざした。
「なるほど。」
それと同時に、俺は電光強化をかける。
モビー君が隠していたものが何かわかった。
使われる前に気絶させちゃえ。
「ふはっ!俺の得意は技付だーーゲボッ!」
技付を使用する前に気絶するモビー君。
大丈夫かなと思いつつ、俺は控え室に戻る。
観客席からは俺を非難する声も聞こえた。
「やべえ。モビーは今年で13だろ?」
「ああ、かなり早い速度で動いたな、テル坊。」
「だが。ひどくないか?せめて技付した後に倒してやれよ。」
ま、まあ恨みっこなしなんで。
☆☆☆☆
「うぉりゃあっ!!」
地面が割れる。
茶色の砂煙が宙に舞った。同じぐらいの身長であるバイン家のルカ君が後方へと吹き飛ばされた。
気絶が確認されると、地面を割った張本人、ロザリーが手を挙げた。
「「「おおおおおっ!!」」」
歓声が響く。
審判をしているバッガスさんも得意げだ。
スキップのように跳ねて帰ってからロザリー。
彼女も2回戦を突破したようで、俺はトーナメント表に目を移す。
「次はロザリーと、か。」
俺の三回戦はロザリーに決まった。
彼女に勝てば、次は大会の2番シードと当たる。
ここからが本番ということだ。
「次テルマッド、あなたの番よ!覚悟しておきなさい!」
ロザリーは帰ってくるとすぐにビシッと指を俺に指した。
しかもそれだけ言うと俺の返事を待たず武器を返す。
そして控えベンチへと腰を下ろした。
「そうだそうだ!やっちまえ!」
「せこい坊ちゃんが勝てるわけねえ!」
周りからの視線が痛い。
まあ、俺は一応彼らよりは年上なわけで、そんな煽りでいちいち怒ったりしませんが?
「この童貞がーっ!」
うおおい、クソガキ!!
爆風が巻き起こる闘技場。
子供の中でもさんの実力者が集ってくる後半の試合は団のみんなを盛り上がらせる。
最初の見張り組が戻ってきた。
後半組がブーブー言っていたが、大事なことなのでしっかりとお願いします!
『全治療』『全治療』
『全治療』『全治療』
「はぁ、はぁ、はぁ」
上位の回復魔法が連続で使用される。
彼女の周りには美しい光が舞っていた。
アイク家のプラーナさん、15歳。
回復魔法を連発で使用できる魔力量を持ち、上位の聖属性魔法を操れる切手の魔法使いである。
そのお相手のケンルー君も15歳。
どちらもシードで、試合は大白熱していた。
ケンルー君は剣の使い手で、今年の最年長組で剣の技術はトップと言われていた。
それを証拠に、右手に携えるのは長剣。左手も同じく長剣の二刀流だ。
「ホホホッ!ケンルー?その程度の剣撃では私の結界は破れません。」
どちらかと言うと魔法は剣に弱し。よってケンルー君に勝敗が上がると思われていた。
しかし現実は違う。
「くそがっ!」
彼女が見せた戦い方はすごく脳筋で、力任せ技の大胆な戦法をとった。
魔法にはもちろん詠唱が必要で、発動が難しい魔法なら尚更になってくる。
聖属性魔法は発動が難しく、その間に間合いを詰め、一振りすれば勝ちが決まるはずだった。
だが、プラーナさんは驚くべき行動に出る。
防御魔法を自らに張ったのだ。
防御魔法とはわかりやすく言えば結界である。
魔力量によって個人差が出るが、俺の場合結界を張ると半径3mは保持できる。
誰でも使える魔法で、正直一度使えれば詠唱破棄も簡単に可能である。だからこその戦略だった。
魔力量にものを言わせ、強固な結界を開始早々プラーナさんは自らに纏わせた。
もちろん間合いを詰めてくるケンルー君は一撃で仕留めるべく、剣を一振りする。
しかし、剣は届かず、何かに阻まれる。
一旦距離を測り直すと、今度は彼女の方から距離を詰めてくる。
何度も何度も挑戦するが、剣は届きはしない。
硬い結界のおかげでもあるが、一番厄介なのは、彼女の扱う『全治療』である。
かつてヤハーナさんも使ったことのある魔法で、ただの『治療』と違うところは、回復力と対象となる物である。
『治療』は対象を人や、動物。命あるもののみとし、かすり傷や、軽い外傷を直す聖属性魔法だ。
それに比べ、『全治療』は対象を無機物のものも対象とし、木や、石などの欠陥も直すものだ。
その代わり回復量はあまり期待はできないが、『治療』よりは高く、魔力の高い人によっては、全く違う回復量となってくる。
それを応用したのが、プラーナさんの戦いだ。
ただの防御魔法も破壊力の高いケンルー君の剣撃に耐えられるはずもなく、破壊してしまう。
しかし、破壊してしまう寸前、プラーナさんが防御魔法を治癒してしまうのだ。
それならまた防御魔法を張ればいいだけのこと。
しかしそれではダメだったのだ。
まず、再構築するのであれば、いくら無詠唱とは言えど、構築するのにラグがでる。
そのラグの間に絶え間なく降ってくる剣の猛攻が通ってしまう。
これはプラーナさんの苦肉の策で、彼が体力を消費するまで粘る、泥臭い戦い方を選んだ。
そして、
『清光』
「くっ!」
ついに、ケンルー君は初級の聖属性魔法で膝をついた。
プラーナさんも息は絶え絶え。
もう少しケンルー君が耐えていれば、勝敗は分からなかったかもしれない。
「なかなかじゃない。危なかったわ……」
「ずるいとは言わんが、せこい」
なんだかんだと握手を交わし、意外な大歓声が飛び交う彼らの試合に、俺は感動を覚えた。
なるほど、一対一には、圧倒的な攻撃力は必要ないのか。
「さ、俺の番かな。」
俺の横にロザリーが立つ。
2人顔も見合わせず、闘技場へと続く階段に足をかける。
おれは彼らの試合に大興奮だった。
テンションが高まり、緊張もいい感じになってくる。
チラリと横を見た。
「ようし!」
どうやらロザリーも同じみたいだ。




