闘技場②
「うわあ.....」
目の前で戦闘が行われている中、俺はそう言い放つ。
いや、言い放つではなく、ポロリと出たものだった。
なんたって、ステータスが異常なんだもの。
☆☆☆☆
テルマッド Lv.126
ステータス
攻撃力 : 102
防御力 : 69
俊足力 : 180
魔法攻撃力 : 223
職業 : 月光蝶見習い団員
所持スキル : 魔法使い 盗賊 鑑定士 剣士
所持魔法 : 火属性魔法上級(統合) 水属性魔法上級(統合) 雷属性魔法超級(統合) 風属性魔法中級(統合) 土属性魔法上級(統合)
【称号】 見習い盗人<!>・盗人<!>・盗賊<!>
☆☆☆☆
レベル面からすると、正直全く上がっていなかった。
え?126で?十分高い気もするが……
確かにそうなんだが、俺はこの4年間、ほぼ学校にこもっていた。
レベルというのは団が所有する書籍曰く、魔物や、人などの何かの生命を奪うたびに、上昇するものらしい。
幼少期のレベルが上がりやすい時に、上位の魔物と戦ったことがあるため、このような高レベルになったと予想している。
それに学校でもよく魔物狩りの実践授業が行われた。
魔の森は全て魔物が駆逐されているため、ウォール街とは反対方向にある森へと出向くのだ。
この前のことがあると心配だとかで専属の師匠方が2人もついてくれた。
たまに母さんも付いてくることがあり、授業参観のような気分で何か緊張したことも覚えている。
しかし、126という数字は他の10歳以上と手合わせする上で、割とレベルが足りていない。
基本彼らは10歳を超えると、遠征を度々行い、レベルを集中的にあげる。
レベルが上がると、筋トレや、ランニングをしなくともステータス自体は上がるので、手っ取り早く戦力になれるからだ。
失礼だとは思うが、横にいる脳筋野郎のレベルを鑑定したところ、150だった。
20も差があると、称号や、所持魔法がぼやけて見えにくい。
とらわれていた時に、囚人たちのレベルが見えたのはあの時点で彼らのレベルを上回っていたからだろう。
そして、ルートさんとは大きく離れすぎていて、全くステータスが表示されなかったとみていい。
だが、ダリアネスさんや、ヤハーナさんのレベルなどが見えた理由はわからない。
かなり離れていたと思うんだが。
ステータスについては、まあ、そんなところだろう。
魔法攻撃力が少し高めなのが、嬉しいところだ。
街にいた普通の男の人のステータスはこうだ。
攻撃 : 60
防御 : 30
俊敏力 : 50
魔法攻撃力 : 10
こんなものだ。
防御力や、攻撃力があまり上がっていないが、剣を持つと大きく攻撃は跳ね上がるし、防具もつけるので、素のステータスだけ見ると、あまり大差ない。
まあ、7歳と20歳前後の彼とを比べるのはどうかと思うが。
それにしても、称号が物騒だな。
確かに盗みは度々したが、俺よりレベルが上位の人に鑑定れると、俺が犯罪者とバレるんじゃ……
「よっしゃ、やっと俺の出番か!!」
ステータス画面に集中していると、横から大きな声がした。
脳筋の発言から推測して見ると、前の試合が終わったようだ。
魔法使い同士の闘技は少しダラダラとしてしまう。
その時間にルピーは待ちくたびれてしまったらしい。
屈伸をしつつ、審判のバッガスさんが、俺たちを手招きで呼ぶ。
2人が前に歩いていくと、少し空気がざわっとした。
「おい、テルマッド坊だ。でかくなりやがったな。」
「相手はルピーのボンだぜ。大丈夫か?」
「まあ、団長の息子だから大丈夫だろ。こりゃ見ものだな。」
き、緊張してきたー。
「おい、こらガキ。団長の息子だかなんだか知らねえが、イキって出しゃばったことを後悔するんだな!」
うわ、こわっ。
「では、公平に、紳士的な態度で戦闘を開始する。構えーーよし!」
バッガスさんから開始の合図が出た。
それを待っていたかのようにルピーがドタドタと走る。砂煙を巻きながら、走るその姿はまさに闘牛。
事前にステータス確認したところ、俊敏力はあまり高くはなかったので、攻撃力と防御力にものを言わせて、戦うがっつり脳筋で間違いない。
ここで、簡単に勝敗のルールを紹介しておく。
一方が気絶すれば、勝ち。
体に3振り入れたら勝ち。
参ったと降参させれば、勝ち。
こんなものだ。
正直、目の前にすると彼はすごく怖い。
何か、このまま引き潰されそう。
「うし!」
軽く自分の体に気合を入れて、構える。
既に間合いは3mを切った。斧は空中を切り上げる。
そして勢いそのまま、思いっきり振りかぶった。
大きな爆裂音。響き渡る轟音が観客の人々の鼓膜に入ってきた。
皆、これはダメだと悟り、早く救急班を呼べと口々に言う。
この闘技において、出身は関係なく、親の立場も関係ない平等なものだったが、流石に、あの団長が怒ると手がつけられない。
どうしても今潰れた彼の安否が最優先となったのだ。
だが、現実はそうでなかった。
「音デカすぎっ!」
斧は地面に突き刺さり、四方八方に地割れが続く中、潰れていたと思われる少年が、悠然と短剣を持ち、へばる大男の前に立っていた。
「結構びっくりした……」
煙が完全に晴れると、観客たちはゆっくりと安堵と下克上に燃えた。
彼らは根っからの戦闘狂なわけで、この場面の理解より、小さな団長の倅が、7つ離れた脳筋に勝利したことに興奮した。
「お、おお。ただ電光強化使っただけなのに……」
観衆にビビりながら、ゆっくりと歩き、控えの門へと戻る俺。
確か武器を受付に返さなければならないはずだ。
説明しておくと単純に、ルピーが来る直前までそこへ構え、電光強化で、後ろへ回り込み、頭を殴っただけだ。
直前にしたのは意味がある。相手は普通に俺より格上。
だから、彼の反応が続く範囲での、移動は危険だったからだ。だって、斧だから後ろまで振られるとあの怪力アタックをくらっちゃうし。
痛いの嫌だし。
「すげえ。だてに団長の息子ってわけじゃなさそうだ。」
「ああ。だってあのルピーは来年のシード候補だろ?」
「だいたいあの攻撃をどうやって避けたんだ?ギリギリまで動けなかったみたいだが。」
控え室には大半の参加者が、自分の番を待っていた。
そこに帰って来るとすぐに俺はトイレへと向かった。
ダメだ、あんな空間耐えられない。
舐め回すように、全方位から視線を浴びるんだから、落ち着きを取り戻すまでここにいよう。
「「「おおおおおおお」」」
そのついでにと、便座に座った俺だったが、闘技場の方から大歓声が響いてきた。
今までにないような声量だ。
さすがに気になった俺はズボンを上げて、手を洗う。
風魔法で水を飛ばしながら、控室まで戻った。
すると闘技場の方から一人の影がトコトコと歩いてくる。
「あらぁ、テルマッドくんじゃない?一回戦突破できたからって調子に乗らないことね。」
体の背丈に合わない大剣を左肩に乗せ、俺を見下すように呟いた彼女は、俺からの返答を待たずに武器を受付の人に渡し、奥のベンチへと歩いて行った。
「一体どうしちゃったんだ、ロザリー。」
あんな子じゃなかったのになあ。
なんだか、身長もどんどん高くなってるし、変なところが親父さんと似ちゃったんだろう。
☆☆☆☆
「はぁうぅ……また私ったら、反抗的なこと言っちゃった。」
手に汗がにじむ。
顎から汗水がポツンと垂れた。
顔が赤い。テルマッドは昔と全然変わらなかった。
拉致事件の後、学校だの、狩りだの、仕事だの。
成人もしていないのになぜ、そんなことをするのだろうか。あれからめっきり私達が顔を合わせる回数が減ってしまった。
「でも彼の言っていることも間違ってはないの……」
なんて可愛いんだろうかテルマッドは。
丸い目、綺麗な髪、高めのよく通る声。
良さを並べればきりがない。
でも、でもでも最近私のところに来てくれない。
帰ってくると、一言ごめんって謝って、家へと帰ってしまった。
もっと言って欲しいことがあったのに、私心配して団長や、副団長のところへ何回も行ったのにっ……
それにテルマッドは知らない女も連れて来た。
確か人間じゃない、小さな小人だった。
私は家までの帰り道、たまたま会ったテルマッドに小人のことを聞いた。
「ん?ああ、ウィンターのこと?彼女はただの小人族……って、どした?」
か、かかかか彼女!?彼女ですって!?
いつのまにっ!私が目の届かない場所でいつの間に女遊びを覚えてしまったのっ!
「ちょっ、おい!どうしたんだよ、ロザリー!」
私は彼の制止を聞かずに家まで直帰した。
途中誰かから話しかけられたりしたが、全て無視した。
家の扉を開ける。そのためドアノブに手を伸ばした。
「こんばんは、ロザリーお嬢さん?」
そして私は彼に従うことにした。
愚かな小人からテルマッドを救い出すために。




