誠の真意
(お腹が減った…)
急激な空腹に襲われ、俺は瞼を閉じつつ、目を覚ました。
まだ頭が混乱して今の状況がよく理解できない。
俺が意識を取り戻した今もダリアネスさんとヤハーナさんが戦ってくれているかもしれない。
しかし俺の耳にはそんな騒音が聞こえてこない。
ましてや、意識を失う前に負っていた傷が全く痛まないのだ。
すでに俺は死んだのか、それとも再び奴に捕らえられたのか。
俺は世界が暗転した中、何も今の状況が掴めずにいた。
すこしすると右手と左手の感覚が戻り始めた。
そして柔らかい、ベッドか何かに寝ていることも理解できた。
俺の鼻に入ってくる匂いは、あの血臭く、魔力の渦巻いた匂いではない。
柑橘系の……そう、アプリだ!
久しぶりに食べるのもいいな。
あの檻に監禁されていた時の食事といえばもう酷いものであった。
ま、ただの盗賊がなんで豪華な食事をしているんだと言われればそれまでだけど。
そういや、あの時の少女はどうなったんだろう。
一緒に戦ってくれたみんなは……
「ウィンター!!」
思い出した!
いつかは生贄になっていたが、それを早めてしまったのは俺のせいだったんだ!
ガバッと上半身を上げる。
彼女はどうなったんだろうか。
テルマンゴさんだってそうだ。
俺と共にあの理不尽なやつと戦ってくれた仲間だった。
今やそれを確かめる方法はなかったように思えた。
「びっくりしたわね…急に立ち上がると体に悪いわよ?」
驚いたような声が左手から漏れた。
すこし聞き慣れた声であった。
起き上がるときに目もしっかりと覚めたので、その声の主を見てみる。
「どうも。久しぶりね。テルマッド君。」
「あ、ああ…」
そこには眼鏡をかけた女性が座って、医療用品をいじっていた。
そして俺は彼女を見ると安堵した。
だって彼女はうちの盗賊団『月蝶』の医療担当のスペシャリストであるマリーさんだったからだ。
まずマリーさんがいるということは見渡す限り、いくらか訓練の時にお世話になった村の医療室で間違いない。
よく回復魔法だけでは治らない脳震盪や、骨折の時にはお世話になったので顔はもちろん、名前まで覚えていたのだ。
これは、俺が助かったことを暗示していた。
誰が助けてくれたのであろうか。
多分ダリアネスさんとヤハーナさんだろう。
彼女らは苦戦を敷かれても勝ち抜いたのだ。
しかし、どうしてあの場所がわかったのか。
あんな森…見たことないと思うのだが。
「あの、マリーさん。一つ質問していいですか?」
マリーさんはキョトンとして、どうしたのと、返した。
「僕の周りに倒れていた人たちのこと、分かりますか?皆さん無事でしたか!?」
つい勢い余る。
彼らは無事だったのか。
ヤハーナさんらは俺だけを助けて逃げたのではないのかと。
「え、ええ。無事よ。魔人化してしまった人たちはもう手遅れだったけど。」
俺は2度目の安堵の息を吐いた。
よかった。彼女は死んでなかったんだ…。
どこかウィンターにあって謝罪したいという気持ちが湧いた。
「は、テルマッド君も起きたことだし、お腹すいてない?私、ピッザを作ったのよ!」
鼻を鳴らして得意げにマリーさんは言う。
ピッザとは小麦を薄くのばした生地にトゥメイトや、パッセリ、ベーコン、チーザーなどの具材をのせて食べる、地球ではピザと良く似た食べ物である。
まあ、普通にうまい。
そしてまともな食事につけることに俺は嬉々とした。
ピッザをベッドの上で食べつつ、外の窓を見てみる。
がっつり暗い。
なにか頭も痛いし、体と心が大きく疲労したように思う。
「マリーさん、今は何時頃?」
「そうね、夜中の2時ごろかしら?」
「どれぐらい寝てたの?」
続けて質問する。
「そうね〜。気絶した時間を除くと14時間ぐらいね。」
中々眠ったな。
檻の中でもそんなに寝ていない。
魔力は余裕で回復したようだ。
「ん?どしたの?まだ調子悪い?んじゃもすこし寝てなさい。
私から団長達には報告しとくから。」
「ありがとうございます」
んーと背伸びしてピッザの皿をマリーさんに渡す。
もろもろ疲れた。
めんどくさいことは明日にして寝よう。
瞬時に意識を暗闇へと落とした。
☆☆☆☆
眼が覚めると母アンジュと父リハンがマリーさんと一緒に座っていた。
「ああ、起きたのね、テルマッド…」
「おはよう、テルマッド。よく眠れたかい?」
アンジュは、ほろりと小さな涙をこぼし、父のリハンはどこか暗い表情で微笑みかけてきた。
俺は本当に助かったのだ、と確信した。
「おはよう、母さん父さん。」
「ええ……ほんとにあなたが無事でよかったわ。」
「ヤハーナだけでは足りないのかと、他の部隊を動員していたところだよ。」
温かい紅茶を少しいただき、親子の最愛の時間を過ごした。
そして自然と出てきた疑問をぶつけた。
「誰があの人を倒したの?」
表情には出さないが、2人が少し驚いたことがわかる。
なぜ驚くのか、俺にはわからなかった。
多分ヤハーナさんとダリアネスさんが倒してくれて、村まで運んでくれたのであろうから、特に躊躇することもなく伝えればよいはずだ。
しかし彼らは戸惑っている。
何か言えないことがあるのか、言いづらいことがあるのか。
「……まあ、話すべきだとは思っていたんだけど。」
リハンが少し間を置いて切り出す。
「テルから切り出してくるとはね。」
アンジュが微笑しながら続けた。
「テルマッド、もう歩けるね?
少し場所を移そう。マリー?」
椅子を引き、マリーに何か囁くとリハンは立ち上がった。
それに続いてアンジュも立ち上がる。
「マリーと一緒に家に帰っておいで?
ご飯を食べてからゆっくりと話そう。」
「うん…!!」
とても暖かかった。
やはり家族は大切である。
あんな孤独であった独房にまだ生まれて5年もたたない少年少女が生きていられようか。
メンタルがおっさんでも無理なのだから、他に捕らえられていた異世界人達の精神力とは計り知れないものがある。
子供に愛は心ではなく、体に必要だったのだ。
マリーさんに抱っこされながら、父親と母親に遅れて、続いた。
少し地球の2人を思い出して、涙腺が緩んでしまった。
医療室は大丈夫なの?と聞いたら奇襲がない限り余裕よ。と返された。
☆☆☆☆
俺は今、どこか緊張している。
この緊張はいつぶりだろうか?
多分妹に初めて彼氏を紹介された時であろう。
あの時の彼氏には何時間もかけて、我が家まで来てもらった。
あ、それが原因で別れたのか?
「じゃあ、事の真相を話そう。
あくまで本当の真実かはわからないよ?
でも、この答え以上の物は今の所ないから、話すね。」
「はい」
ご飯を食べ終え、お風呂に入り、スッキリした後に家族3人向かいに座って話を聞く態勢になる。
「パッとテルの話を聞いた限り、10人ほどあの建物に囚われていたのよね?」
俺は頷く。
「そしてその中心にいたのが、ルートさんだと…。」
「どうして知っているの?あの人の名前」
アンジュが首を傾げて聞く。
俺達は戦闘中に過去の話をされたことを明かした。
その時には全く隙がなく、魔力によって行動を制限されていたことも同時に話した。
「なるほど。とういうことはリハンとお嬢様が同級生だったことも知っているのね。」
「はい…ですが、どうして母上がお嬢様と……もしかして?」
「そうよ。私が話にも出てきたろうけどアンドラキスタス家に仕えていたテレスよ。今はアンジュに改名しているけれどね」
これにも驚きを隠せない。
しかし徐々に繋がってきたことがわかる。
「では、ルートさんの暴走は一体誰が止めたのですか?」
「それは勿論僕たちだよ。」
やはりそうだったのか。
彼らが話を受け入れるには早過ぎるだろうし、その場にいなければわからないこともある。
それに、ダリアネスさんや、ヤハーナさんではギリギリ戦力が足りなかったのであろう。
俺が気絶した時には、ルートさんが本気を出していないように見えた。
やはり家族(月蝶)は規格外である。
「それでは追加の質問ですが、どうやって僕たちがいた場所に来ることができたんですか?
僕が外に出れた時、全く見知らぬ森が鬱蒼と広がっていましたが…。」
話筋を変えるように違う質問を投げかける。
「流石にあの魔力量の大きさはアンジュが気づくよー。テルが失踪していた件も含めて、最高戦力で迎えに行ったよ。」
一国に匹敵する最高戦力って…
「お嬢様の異形な魔力があの人独自の幻影魔術に穴を開けたのよ。そこから侵入することが可能だったわ。
ちなみに、魔物を操ったのも幻影魔術ね。
見つけた時はヤハーナの方が近かったから、先に行ってもらっていたの。」
「ルートさん…は?」
さらに影がアンジュにできた気がした。
「ルートは消えてしまったよ。肉体ごと魔力に食われてね。」
「それで幻影魔術が解けたのよ。」
まだ聞きたいことはあったが、特に気になることを再び聞いた。
「では、周りにいた人たちは?意識は戻っているのでしょうか!?」
少し彼らは間を置き、アンジュが口を開いた。
「ええ。すでに意識は復活しているわ。」
つい安堵のため息が出る。
「今すぐにでも会いたいのかい?」
小さく頭を上下する。
「わかった。彼らは第二治療室だ。一緒に行こう」
リハンに促され、家を出る。
体力は完全に回復しているようだ。




